鉄欠乏性貧血は、女性や高齢者を中心に多くの患者が抱える身近な疾患です。治療の基本は鉄補充療法ですが、従来の経口鉄剤は悪心や嘔吐、便秘といった消化器症状が原因で継続できないケースも少なくありません。
このような課題に対して、新たな選択肢として注目されているのがリオナ錠250mgです。
本剤は、もともと高リン血症治療薬として使用されていたクエン酸第二鉄を、有効な鉄剤として転用した医薬品で、2021年に鉄欠乏性貧血への効能追加が承認されました。
この記事では、リオナの作用機序、効果、副作用、従来の鉄剤との違いなどをわかりやすく解説します。特に、悪心・嘔吐が少ない点に注目し、どのような患者に適しているか、薬剤師としての実践的な視点から整理していきます。
概要
リオナ錠250mgは、もともと高リン血症治療薬として開発されたクエン酸第二鉄を、有効な鉄補充薬として転用した薬剤で、鉄欠乏性貧血に対して2021年に効能追加承認を受けました。
1日1〜2回の経口投与で使用され、消化器症状が少なく、継続しやすいことが特徴です。
製品名
リオナ錠250mg(Riona® Tablets 250mg)
成分名
クエン酸第二鉄(Ferric Citrate Hydrate)
製造販売元
大日本住友製薬株式会社
包装・保管
PTP100錠(10錠×10シート)
室温保存
どんな薬(一般向け)
鉄を補充することで、赤血球のヘモグロビン合成を促進する薬です。腸管から吸収されやすい設計になっており、貧血の改善を目指します。一般的な鉄剤に比べて悪心や便秘などの消化器症状が少ないのが特徴です。
作用機序
クエン酸第二鉄は、消化管で三価鉄(Fe³⁺)として吸収され、体内で鉄貯蔵やヘモグロビン合成に利用されます。リン結合能もあるため、体内で余分なリンを排出する作用もあります(透析患者ではこの作用も併用して使われます)。
対象患者(適応症)
- 鉄欠乏性貧血(※フェリチン値12ng/mL未満、またはTIBC360μg/dL以上)
- 食事摂取量が乏しい高齢者や、慢性疾患による鉄不足に適応されることが多い
- 特に、従来の鉄剤で副作用が出やすい患者に有用
リオナは他の鉄剤と比べてHb改善効果は同等であり、基本的に現在の治療で十分な効果が得られていれば、無理に変更する必要はありません。
しかし、悪心や嘔吐といった消化器症状で従来の鉄剤が継続困難なケースでは、副作用の頻度が低いリオナは有用な選択肢となり得ます。副作用対策を重視する場合に検討する価値のある薬剤です。
臨床成績(フェロミアとの比較)
試験デザイン
- 対象:鉄欠乏性貧血患者(N=518)
- 群:リオナ500mg群・1000mg群・フェロミア100mg群
- 投与期間:7週間
- 評価項目:Hb改善量、目標到達率、副作用など
結果(Hb改善)
投与群 | 鉄量(1日) | Hb改善効果(7週後) |
---|---|---|
リオナ1000mg | 鉄約240mg | フェロミアと同等(+0.18g/dL差) |
フェロミア100mg | 鉄100mg | 基準 |
→ 鉄の含有量はリオナの方が多いが、Hb改善効果は同等 → 有効性は非劣性と判断される
副作用:リオナの特徴は「悪心・嘔吐が少ない」
リオナ錠とフェロミア(クエン酸第一鉄Na)の副作用については、添付文書上ではフェロミアの方が少なく見えるものの、実際の臨床試験ではリオナの方が消化器症状が少なかったという結果も示されています。
添付文書における副作用発現頻度の比較
薬剤 | 副作用発現頻度(総数) | 主な副作用(添付文書より) |
---|---|---|
リオナ錠250mg | 6.5%(688例中45例) | 下痢(12.4%)、悪心、便秘など |
フェロミア(錠50mg・顆粒8.3%) | 約0.1〜5%未満(項目別) | 悪心・嘔吐、腹痛、下痢、食欲不振など |
- フェロミアは症状ごとに頻度階級が記載されているため、全体としての副作用発現率は明示されていません。
このように見ると、一見するとリオナの方が副作用が多く見えますが、これは記載方法や評価のタイミングの違いも影響しています。
実際の臨床試験(第III相試験)における消化器症状の発現率
JTT-751 第Ⅲ相臨床試験(GBB4-1)では、鉄欠乏性貧血患者に対してリオナとフェロミア(クエン酸第一鉄Na)を比較し、リオナ1000mg群の方が悪心・嘔吐の発現頻度が明らかに低いことが示されました。
症状 | リオナ1000mg群 | クエン酸第一鉄Na群(フェロミア相当) |
---|---|---|
下痢 | 20.9% | 17.5% |
悪心 | 7.6% | 28.7% |
嘔吐 | 0.0% | 12.3% |
- 悪心・嘔吐はリオナで大きく減少しており、消化器症状の中でも最も差が出た項目です。
- 下痢はむしろリオナの方がやや多いものの、差は小さく、統計的に有意かどうかは本試験内で明示されていません。
実務上のポイント
- リオナの消化器症状は「下痢を除けば」フェロミアより少ない傾向
- 特に悪心・嘔吐で内服継続が難しかった患者にはリオナが選択肢になりうる
- 添付文書だけでは分かりにくいため、実臨床での判断には臨床試験データを参照することが重要
他剤との換算(実用的目安)
製剤 | 鉄含量 | リオナ換算目安 |
---|---|---|
フェロミア錠50mg×2錠 | 鉄100mg | ≒ リオナ1000mg |
フェロミア顆粒8.3% 1.2g | 鉄100mg | ≒ リオナ1000mg |
リオナ250mg×4錠(1000mg) | 鉄240mg | ≒ フェロミア100mg相当の効果 |
- 鉄含量ではリオナの方が多いが、臨床効果はフェロミア100mgと同等
用法用量
成人:リオナとして1日500~1000mgを1~2回に分けて食直後に経口投与。症状により適宜増減。
特殊患者への使用
- 腎機能障害:透析患者ではむしろ多用される。非透析例でも使用可。
- 肝機能障害:軽度~中等度なら使用可
- 高齢者:副作用少なく使用しやすい
- 妊婦・授乳婦:有益性が上回る場合に限る(データ不足)
服薬指導(患者への説明)
- 食直後に飲むことで吸収が安定します
- 鉄剤によくある「胃のムカつき」が少ない薬です
- 排便の色が黒くなることがあります(異常ではありません)
- 継続して効果が出る薬なので、自己判断で中止しないこと
- 他の鉄剤と併用しないように確認を
処方監査ポイント
- 鉄欠乏性貧血の確定診断(フェリチン、TIBCなど)
- 他の鉄剤と重複していないか
- 高リン血症の既往があるか(同効成分)
- 貧血の原因が他にないか(出血、慢性疾患など)
食事の影響と服薬タイミング:リオナは食直後が基本、でも…
リオナ錠は原則として「食直後」に服用することが推奨されています。実際に、国内第III相臨床試験では、食直後投与により有効性・安全性が確認されています。
一方で、鉄欠乏性貧血患者を対象に行われた臨床薬理試験(単回投与)では、空腹時に投与した場合でも明確な食事の影響は認められず、血清鉄濃度の上昇は食直後投与の方がやや高かったものの、臨床的に有意な差とはされませんでした。
疑義照会が必要なケースは?
処方内容が「空腹時」や「食後」と記載されている場合、原則として医師へ確認(疑義照会)を行います。ただし、医師の判断に基づいた指示であるなら、空腹時や食後投与でも問題なく服用していいと考えます。
当院では薬事委員会の承認を受け、リオナ錠については「食直後」でなくても原則として疑義照会を行わない運用としています。
服薬指導のポイント
- 添付文書上は「食直後投与」が推奨されていることを説明する
- 胃部不快感や消化器症状が気になる患者では、空腹時の服用は避けるほうが安全
- 医師の指示が空腹時でも、臨床的な根拠があるため基本的には問題ない
まとめ
リオナ錠250mgは、従来の鉄剤で消化器症状が出やすい患者にも使用しやすい新しい経口鉄剤です。
効果はフェロミアと同等でありながら、副作用(特に悪心・嘔吐)は少ないため、継続性が求められる鉄補充療法において選択肢の一つとなります。
ただ現在服用中の鉄剤を無理にリオナに変更する必要はありません。悪心嘔吐で他剤が服用できない場合に検討するのがいいと思います。
参考文献・出典
- リオナ錠250mg 添付文書(日本製薬株式会社)
- リオナ錠250mg インタビューフォーム(日本製薬株式会社)
- フェロミア錠50mg 添付文書(高田製薬株式会社)
- フェロミア顆粒8.3% 添付文書(高田製薬株式会社)
- フェロミア インタビューフォーム(高田製薬株式会社)
- 社内資料:JTT-751 第Ⅲ相臨床試験(GBB4-1)-鉄欠乏性貧血患者を対象としたクエン酸第一鉄Naとの比較試験-(承認時評価資料)