自分がよく処方するあの抗菌薬はAWaRe分類ではAccessかWatchか。加算のAccess比率は何で見るのか。届出で使うのは通常版とGLASS準拠版のどちらか。
どれも公式資料に書いてありますが、資料が分かれていて突き合わせるのに手間がかかりますよね。しかも集計ルールは2026年4月に変わったばかりで、ネット上の解説は旧仕様のままのものが残っています。
そこでこの記事では、内服・注射のカテゴリ別一覧、内服と注射で分類が変わる薬、加算とAccess比率の考え方、分類の限界までを整理しました。WHOやAMR臨床リファレンスセンター、厚生労働省の一次情報をもとに、感染制御認定薬剤師の視点でまとめています。参考にしていただければ幸いです。
- Access・Watch・Reserveの意味と、内服・注射のカテゴリ別一覧
- 内服と注射で分類が変わる薬(ホスホマイシン・ミノサイクリン)
- 抗菌薬適正使用体制加算とAccess比率の計算、見るべき版(GLASS準拠版)
- 2026年4月から変わった集計ルール(リファキシミンの除外・長期処方の補正)
- AWaReは強さの順位ではないという誤解と、分類の限界
AWaRe分類とは:WHOが抗菌薬を「耐性リスク」で3つに分けた枠組み
AWaRe分類(アウェア分類)とは、世界保健機関(WHO)が2017年に作った、抗菌薬を「耐性菌が生まれるリスク」の観点からAccess(アクセス)・Watch(ウォッチ)・Reserve(リザーブ)の3群に分けた枠組みです。
抗菌薬の適正使用(antimicrobial stewardship)を、地域・国・世界のレベルで進めるための「ものさし」として開発されました。
大事な前提を先に1つ。AWaReは「抗菌薬の強さ」の順位ではありません。あくまで耐性化のリスクと適正使用の観点からの分類です。この点はあとの章でくわしく整理します。
3つのカテゴリの意味は次のとおりです。WHOのEssential Medicines(必須医薬品)を選ぶ専門委員会が、原則2年ごとに見直しています。
| カテゴリ | 位置づけ(WHOの定義・厚生労働省による日本語訳) |
|---|---|
| Access | 一般的な感染症の第一・第二選択薬。耐性化の懸念が少なく、すべての国が高品質・手頃な価格で広く使えるようにすべき抗菌薬。 |
| Watch | 耐性化が懸念されるため、限られた疾患・適応にのみ使うべき抗菌薬。 |
| Reserve | ほかの手段が使えなくなったときに、最後の手段として使うべき抗菌薬。 |
抗菌薬の本数でみると、WHOの2023年版では計257剤(Access 87/Watch 141/Reserve 29)が3群に振り分けられていました。2025年版では計268剤がヒト用の抗菌薬として分類されています。数は改訂ごとに増えていくと考えておくとよいでしょう。
【一覧】AWaRe分類の抗菌薬一覧(2026年3月作成の最新版準拠)
ここが本題です。日本で使われている抗菌薬をWHOのAWaRe分類に当てはめた一覧は、AMR臨床リファレンスセンター(国立健康危機管理研究機構)が「抗菌薬マスター」として公開しています。内服薬と注射薬で表が分かれているのが特徴です。
この一覧は「AWaRe分類一覧(2026年3月作成・ver5)」に基づき、2026年7月13日に内容を確認したものです。分類は改訂されます。実際の届出・集計に使うときは、必ずAMR臨床リファレンスセンターの最新版でご確認ください(入手先は最後の章にまとめています)。
掲載数が多いため、ここでは現在も販売されている主な一般名を中心に載せています(販売終了品目は省いています)。参考までに、太字は当院採用の抗菌薬。
なお、一覧に載っていることと、自院ですぐ使えることは別です。内服のクロラムフェニコールやチニダゾールのように、Accessでも国内での使用機会が限られる薬は少なくありません。まずは自院の採用薬リストと突き合わせてください。
内服薬の一覧(Access/Watch/Reserve/Not recommended)
| カテゴリ | 主な内服薬(一般名) |
|---|---|
| Access | アモキシシリン、アンピシリン、バカンピシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、スルタミシリン、ベンジルペニシリンベンザチン、セファレキシン、セフロキサジン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)、クリンダマイシン、メトロニダゾール、チニダゾール |
| Watch | セファクロル、セフロキシム、セフォチアム、セフィキシム、セフポドキシム、セフジニル、セフジトレン、セフカペン、セフテラム、テビペネム ピボキシル、ミノサイクリン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ロキシスロマイシン、ジョサマイシン、スピラマイシン、リンコマイシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、ガレノキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン、ラスクフロキサシン、プルリフロキサシン、ホスホマイシン、パロモマイシン、カナマイシン、バンコマイシン(経口)、リファキシミン、フィダキソマイシン、リファンピシン、リファブチン |
| Reserve | ファロペネム、リネゾリド、テジゾリド、コリスチン、ポリミキシンB |
| Not recommended | アンピシリン・クロキサシリン(配合剤) |
- 表のうちリファキシミンは、WHOの分類ではWatchのままです。ただし2026年4月以降、J-SIPHE・OASCISでは集計対象から外れました。肝性脳症・高アンモニア血症に対する処方が9割を超え、適正に使われていると判断されたためです。分類は残るが、比率の計算からは抜ける。この2つは別だと整理しておくと混乱しません。
注射薬の一覧(Access/Watch/Reserve/Not recommended)
| カテゴリ | 主な注射薬(一般名) |
|---|---|
| Access | アンピシリン、ベンジルペニシリン、ベンジルペニシリンベンザチン、アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)、セファロチン、セファゾリン、クロラムフェニコール、ST合剤、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、アミカシン、メトロニダゾール、スペクチノマイシン |
| Watch | ピペラシリン、タゾバクタム・ピペラシリン、セフォチアム、セフメタゾール、セフミノクス、フロモキセフ、セフォタキシム、セフタジジム、セフトリアキソン、セフメノキシム、ラタモキセフ、セフェピム、セフォゾプラン、メロペネム、イミペネム・シラスタチン、ドリペネム、ビアペネム、パニペネム・ベタミプロン、エリスロマイシン、アジスロマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、カナマイシン、ジベカシン、イセパマイシン、アルベカシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、パズフロキサシン、ラスクフロキサシン、バンコマイシン、テイコプラニン |
| Reserve | ミノサイクリン、チゲサイクリン、ホスホマイシン、アズトレオナム、カルモナム、セフタジジム・アビバクタム、レレバクタム・イミペネム・シラスタチン、セフィデロコル、セフトロザン・タゾバクタム、キヌプリスチン・ダルホプリスチン、コリスチンメタンスルホン酸、リネゾリド、テジゾリドリン酸、ダプトマイシン |
| Not recommended | アンピシリン・クロキサシリン、セフォペラゾン・スルバクタム(いずれも配合剤) |
「Not recommended」は、WHOが推奨していない抗菌薬の配合剤を指すカテゴリです。日本ではアンピシリン・クロキサシリン、注射のセフォペラゾン・スルバクタムがここに入ります。このほか、AWaReに割り当てられていない「未分類」もあり、日本では販売終了品目などが該当します。
よく処方するあの薬は、どのカテゴリ?
「自分がよく出すあの薬はどこに入るのか」を、外来でよく使う内服薬を中心にまとめました。かっこ内は略号と代表的な商品名の例です。
| 薬剤(略号・商品名の例) | AWaRe分類 |
|---|---|
| アモキシシリン(AMPC/サワシリン) | 内服 Access |
| アモキシシリン・クラブラン酸(CVA/AMPC・オーグメンチン) | 内服 Access |
| セファレキシン(CEX・ケフレックス) | 内服 Access |
| セフジニル(CFDN・セフゾン) | 内服 Watch |
| セフジトレン ピボキシル(CDTR・メイアクト) | 内服 Watch |
| セフカペン ピボキシル(CFPN・フロモックス) | 内服 Watch |
| クラリスロマイシン(CAM・クラリス) | 内服 Watch |
| アジスロマイシン(AZM・ジスロマック) | 内服 Watch |
| レボフロキサシン(LVFX・クラビット) | 内服・注射とも Watch |
| ファロペネム(FRPM・ファロム) | 内服 Reserve |
| ホスホマイシン(FOM・ホスミシン) | 内服 Watch/注射 Reserve |
外来でよく処方される経口セフェム系(セフジニル、セフジトレン、セフカペンなど)やキノロン系(レボフロキサシンなど)、マクロライド系(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)は、そろってWatchに入ります。ここが、Access比率を意識するときの分かれ目になります。
注意:同じ成分でも内服と注射で分類が変わる薬がある
一覧を使ううえで、いちばん取り違えやすいのがここです。同じ成分でも、内服と注射でAWaReのカテゴリが変わる薬があります。
| 成分 | 内服 | 注射 |
|---|---|---|
| ホスホマイシン | Watch | Reserve |
| ミノサイクリン | Watch | Reserve |
逆に、クリンダマイシン、ST合剤、メトロニダゾールは、内服も注射もそろってAccessです。「成分名で覚えるとつまずく」わけです。
なぜこうなるのか。AWaReはATCコード(WHOが定める薬剤の分類コード)を単位に振り分けますが、同じ成分でも投与経路によって別のATCコードが付くことがあるためです。集計するときは「成分名」ではなく「内服か注射か」までそろえて確認するのが安全です。
通常版とGLASS準拠版はどこが違う?(J-SIPHE・OASCISで使うのはどちら)
意外と知られていませんが、AMR臨床リファレンスセンターはAWaRe分類一覧を2種類公開しています。届出やサーベイランスで見るべきなのは、後者のGLASS準拠版です。
- 通常版:WHOのAWaRe分類にそのまま当てはめたもの。
- GLASS準拠版:WHOの薬剤耐性・使用量サーベイランス(GLASS)の記載に準拠したもの。J-SIPHE/診療所版J-SIPHE(OASCIS)に実装されているのはこちらです。
2つの主な違いは、原文の注記によると次の点です。GLASS準拠版では、ATCコードのJ04にあたるリファンピシン・リファブチンを含みません。また、J-SIPHE・OASCISでは、パロモマイシンとナリジクス酸をまだ集計対象にしていません。
もう1つ、2026年4月からの変更があります。リファキシミンは、WHOの分類ではWatchのままですが、J-SIPHE・OASCISの集計対象から外れました。肝性脳症・高アンモニア血症に対する処方が9割を超え、適正に使われていると判断されたためです。Access比率の分子にも分母にも入りません。
個々の薬剤の振り分け(AccessかWatchか)そのものに大きな違いがあるわけではありません。ただし、加算やサーベイランスで比率を算出するときの「集計対象」が違うので、届出に使う数字は必ずGLASS準拠版と、J-SIPHE・OASCISの案内で確認してください。
AWaReは「抗菌薬の強さの順位」ではない(よくある誤解)
「Access<Watch<Reserveの順に強い抗菌薬」という理解は誤りです。AWaReは強さ(抗菌スペクトルの広さ)の序列ではなく、耐性化のリスクと適正使用の観点による分類です。
その証拠に、Accessの中にも比較的スペクトルの広い薬が含まれます。たとえばアモキシシリン・クラブラン酸やST合剤はAccessですが、狭い範囲だけに効く薬ではありません。「Accessだから狭域」「Accessだから弱い」とは言えないわけです。
「Accessだから安全」「Watchだから危険」という読み替えもしないでください。AWaReは使用状況を評価するためのものさしであって、個々の患者にその薬が効くか・安全かを示すものではありません。どの薬を使うかは、原因菌・適応・ガイドラインに基づいて主治医が判断します。
なお、「抗生物質の強さランキング」を探してこのページにたどり着いた方へ。日本では抗菌薬(抗生物質)は医師の処方が必要な医療用医薬品で、市販では買えません。症状があるときは自己判断で選んだり、途中でやめたり、残った薬を使い回したりせず、医療機関を受診してください。
抗菌薬適正使用体制加算とAWaRe分類の関係(5点・Access比率・算出方法)
AWaReが一気に注目されたのは、点数に直結したからです。2024年(令和6年)度の診療報酬改定で「抗菌薬適正使用体制加算」(5点)が新設されました。外来感染対策向上加算・感染対策向上加算の上乗せとして、初診料・再診料に月1回算定します。
施設基準の中核は、次の3つです。
- 外来感染対策向上加算(または感染対策向上加算)に係る届出を行っていること。
- 抗菌薬の使用状況をモニタリングできるサーベイランス(J-SIPHE/診療所版J-SIPHE=OASCIS)に参加していること。
- 直近6か月で、入院中の患者以外の患者に使用した抗菌薬のうち、Access抗菌薬の使用比率が60%以上、またはサーベイランス参加施設全体の上位30%以内であること。
ここで見落とされがちなのが、3つめの「入院中の患者以外の患者」という条件です。Access比率は外来(入院外)の処方だけで計算します。入院で使ったカルバペネムやバンコマイシンは、この比率には入りません。病棟のAUD(DDDs/100 patient-days)とは別の指標だと考えてください。
「上位30%」の比較相手も、施設の種類で分かれます。診療所は診療所どうし、病院・有床診療所は病院・有床診療所どうしで順位がつきます。自院がどの母集団で評価されるかは、届出前に確認しておくと安心です。
次に大事なのが「Access比率」の計算方法です。処方の「件数」ではなく、DDD(Defined Daily Dose:主な適応に対する成人の1日あたりの仮想的な平均維持量)に換算した使用量で計算します。実際の計算式は次のとおりです。
| 求めるもの | 計算式 |
|---|---|
| Access使用比率(%) | Access抗菌薬の使用量(DDD換算)の合計 ÷ 対象となる抗菌薬の使用量(DDD換算)の合計 × 100 |
| 各抗菌薬の使用量(DDD換算) | 対象期間に使用した総量(力価) ÷ その薬剤のDDD |
つまり、まず薬剤ごとに「使った総量 ÷ その薬剤のDDD」でDDD換算の使用量を出し、そのうちAccessに分類される薬剤の合計が、全体の何%を占めるかを見る、という流れです。
1剤あたりの用量が大きい薬ほど、処方が1件でも使用量として大きくカウントされる点が、件数で数える感覚とのいちばんの違いになります。
DDD換算の落とし穴:日本の用量が小さい薬ほど「目減り」する
実務で効いてくるのが、ここです。DDDは国際基準の値で、日本の常用量より大きい薬があります。アモキシシリンのDDDは1.5g(2019年に1gから引き上げ)ですが、日本の成人常用量は250mgを1日3回、つまり750mgです。5日分処方しても、DDD換算では2.5日分としかカウントされません。
一方、レボフロキサシンのDDDは0.5gで、日本の常用量500mgと一致します。5日分の処方は、5日分としてそのまま計上されます。同じ5日分でも、キノロンはアモキシシリンの約2倍の使用量として数えられるわけです。
分子(Access)が小さく出て、分母のWatchが大きく出る。Access比率が構造的に上がりにくい一因は、この「ものさしの癖」にあります。DDD設定値が日本の実際の投与量と乖離する点は、日本化学療法学会の総説でも課題として指摘されています。処方の中身を変える前に、まずこの癖を知っておくと、自院の数字を落ち着いて読めます。
DDDはあくまで国際比較や集計のための「仮想の1日量」であり、臨床現場で推奨される投与量そのものではありません。実際の用法・用量は各薬剤の添付文書や診療ガイドラインに従います。
2026年4月から変わった集計ルール(長期処方の補正)
集計の仕組みは、令和8年度から一部変わりました。経口のマクロライド系・フルオロキノロン系・テトラサイクリン系・ST合剤について、長期処方を圧縮して集計する補正が導入されています。
同じ月に同じ薬剤(ATC5単位)を合計14日以上処方した場合、使用量を14日分相当に換算します。計算式は「実際の総使用量 ÷ 実際の処方日数 × 14」です。たとえば30日分の処方は、14日分として計上されます。
この補正で、COPDやびまん性汎細気管支炎へのマクロライド少量長期投与は、以前ほど比率を押し下げなくなります。皮膚科の尋常性ざ瘡に対するテトラサイクリン系の長期投与も同じです。ただし注射薬と外用薬は対象外で、証明書への反映は令和8年度の第3回集計(2026年11月返却)からとなります。
薬剤ごとのDDDの値は、AMR臨床リファレンスセンターの抗菌薬マスター(一般名・略号・DDD・AWaRe分類が並んだ一覧)や、WHOのATC/DDD indexで確認できます。
実務では、J-SIPHE・診療所版J-SIPHE(OASCIS)にデータを提出すると、Access比率と参加施設内でのパーセンタイル順位が返ってくる仕組みです。手計算より、まずは提出とフィードバックの確認が近道です。
なお、集計の対象になるのは、対象期間6か月の抗菌薬処方件数の合計が30件を超える施設です。30件ちょうどでは対象になりません。AWaRe分類の対象外の薬剤は、この件数に含みません。算定要件の細部は疑義解釈やJ-SIPHEの案内で変わりうるため、届出の前に必ず最新の告示・通知・疑義解釈を確認してください。
加算のために処方を変える、という順序は避けたいところです。薬剤師として感染対策に関わる立場からお伝えすると、抗菌薬は原因菌・適応・ガイドラインに基づいて選ぶのが先で、AWaRe比率はその結果を映す「指標」です。点数に合わせて薬を選ぶのは、目的と手段が逆になってしまいます。
日本の現状:Access比率22.94%とWHO60%・2030年70%目標のギャップ
目標値と現状には、大きな開きがあります。WHOは、国レベルで抗菌薬全体に占めるAccessの割合を60%以上にすることを目標に掲げています。さらに2024年9月の国連総会(UNGA)ハイレベル会合の政治宣言では、2030年までに70%以上という目標が示されました。
日本でも、新しい集計方法のもとで2030年までにAccess比率70%以上を暫定目標とし、次期AMR対策アクションプランで具体的な目標を検討する方向が、厚生科学審議会感染症部会で示されています。
一方、日本のAccess抗菌薬の使用比率は22.94%です(薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2024による値を、厚生労働省の資料が引用しています)。WHOの60%目標にも、加算の要件60%にも届いていないのが実情です。
この数字を知っておくと、加算の「Access比率60%以上」がなぜハードルとして語られるのかが腑に落ちます。全国平均が20%台なので、要件を満たすには処方の中身をかなり見直す必要がある施設が多い、ということです。
付け加えると、60%はもともと国全体を評価するための目標であり、1施設ごとの合否ラインとして設計されたものではありません。加算はこの60%を施設単位の要件に転用しています。自院の数字が届かないことを、そのまま診療の質の低さと読み替える必要はありません。
なぜWatchを減らすのか:AMRアクションプランの削減指標と重なる
「Watchを減らしAccessに寄せる」という方向は、日本の国全体の目標とも重なっています。薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027は、ヒトの抗菌薬使用量について、2020年の実績を基準に2027年の目標を定めています。数値はDID(人口千人あたりの1日使用量)です。
| 対象(系統) | 2020年(現状) | 2027年の目標 | 目標値の目安 |
|---|---|---|---|
| 経口第3世代セファロスポリン系 | 1.93 | 40%減 | 約1.16 |
| 経口フルオロキノロン系 | 1.76 | 30%減 | 約1.23 |
| 経口マクロライド系 | 3.30 | 25%減 | 約2.48 |
| カルバペネム系(静注) | 0.058 | 20%減 | 約0.046 |
| 抗菌薬全体の使用量 | 10.4 | 15%減 | 約8.8 |
「目標値の目安」は、2020年の値に削減率をかけた参考値です(アクションプランが掲げているのは削減率であり、この絶対値そのものではありません)。使用量の多いマクロライド系と、削減率の大きい経口第3世代セフェム系が、外来でとくに影響の大きい2つだとわかります。
ここで一覧を思い出してください。削減対象になっている経口第3世代セフェム・キノロン・マクロライドは、いずれもAWaRe分類ではWatchです。つまり、加算がねらう「Accessに寄せる」方向と、国のアクションプランが減らそうとしている系統は、同じ方向を向いていることになります。
AWaRe分類の限界と、現場で起きている矛盾
ここは、上位の記事があまり書いていない大事なところです。AWaRe比率は便利な指標ですが、限界もあります。厚生労働省の資料自身が、「医学的には適正な抗菌薬の使用も含めて集計されている可能性がある」と課題を認めています。
具体的には、ガイドラインで推奨される正当な長期処方ほど、Access比率を下げる方向に働くことがあります。たとえば次のようなケースです。
- COPDやびまん性汎細気管支炎に対するマクロライド系の長期投与(マクロライドはWatch)。
- 尋常性ざ瘡の難治例に対するテトラサイクリン系の長期投与(ミノサイクリンはWatch)。
- 逆に、免疫抑制患者へのニューモシスチス肺炎予防のST合剤(Access)が多い施設では、比率は上がりやすい。
つまり、診療科や患者層によってAccess比率は左右されます。比率が低いこと=不適切、とは限らないわけです。
この矛盾には、すでに手当てが入りました。前述のとおり、2026年4月からは14日以上の長期処方を14日分に圧縮し、リファキシミンは集計対象から外れています。肝性脳症の高アンモニア血症にリファキシミンを使う施設が不利になる構造は、解消されたことになります。数字だけで自院の診療の良し悪しを決めつけないことが大切です。
それでも、減らしてはいけないWatchは残ります。結核の第一選択であるリファンピシン、肺MAC症のクラリスロマイシンとフルオロキノロンは、いずれもWatchですが、ガイドラインが推奨する使い方です。「まずAccess」と同時に、「必要なWatchはためらわない」を持っておくのが現場の落としどころになります。
もう1つの現場の矛盾が、供給の問題です。Accessの中心であるペニシリン系(アモキシシリンなど)や第1世代セフェム(セファレキシン)は、いまも供給が安定していません。セファレキシン(ケフレックスカプセル250mg)は、2026年6月に通常出荷が再開されたものの、7月には再び限定出荷となりました。
外来では「アモキシシリンを使いたいが流通状況が読めないので、確実に採用のある薬に振る」という判断が現実に起きます。Accessに寄せたくても、肝心の薬が手に入らない。加算の話をする前に、まず自院の採用薬の供給状況を確認するのが実務の順序です。
供給状況は刻々と変わります(2026年7月時点の状況として書いています)。実際の在庫や出荷状況は、医療用医薬品供給状況データベース(DSJP)や各メーカーの情報で、その都度ご確認ください。
最新版の入手先と、更新の追い方
AWaRe分類は改訂されます。「この薬はWatch」といった情報は、必ず版と一緒に確認するのが安全です。一次情報の入手先は、次の3つを押さえておけば十分です。
- AMR臨床リファレンスセンター「抗菌薬マスター」:日本版の一覧(通常版・GLASS準拠版)の最新PDFはここ。届出・集計に使うならまずこれ。
- 診療所版J-SIPHE(OASCIS):集計仕様の変更点はここで告知されます。2026年4月公開の資料に、リファキシミンの除外と長期処方の補正が明記されています。
- 抗微生物薬適正使用の手引き(第四版):個々の感染症で何を第一選択にするかは、AWaReではなくこちらが担当です。医科・外来編/入院編/薬剤耐性菌感染症編に加え、第四版では歯科編が新設されました。
ちなみに、直近1年(2025年4月から2026年3月)に承認された新医薬品を確認する限り、新しい有効成分の抗菌薬の承認はありませんでした。そのため、2026年3月作成の一覧が現時点の国内の収載薬をおおむねカバーしていると考えてよいでしょう。
よくある質問
- Access・Watch・Reserveの違いは何ですか?
-
耐性化のリスクによる分類です。Accessは第一・第二選択になる薬、Watchは耐性が懸念され使用を絞りたい薬、Reserveは最後の手段の薬です。抗菌薬の「強さ」の順位ではありません。
- アモキシシリンやセフジニルはどのカテゴリですか?
-
アモキシシリン(内服)はAccessです。一方、セフジニルなどの経口第3世代セフェムや、キノロン系・マクロライド系はWatchに入ります。外来でよく使う薬の多くがWatchである点が、Access比率を意識するときの分かれ目です。
- 内服と注射で分類が変わる薬はありますか?
-
あります。ホスホマイシンとミノサイクリンは、内服がWatch、注射がReserveです。集計や届出では、成分名だけでなく「内服か注射か」までそろえて確認すると取り違えを防げます。
- 加算のAccess比率60%はどう計算するのですか?
-
外来(入院外)の処方について、DDDという仮想の1日量に換算した使用量で計算します。使うのはGLASS準拠版です。2026年4月からは、経口のマクロライド系などの長期処方を14日分に圧縮する補正が入りました。届出前に最新の告示・通知でご確認ください。
- 「抗生物質の強さランキング」として使えますか?
-
使えません。AWaReは耐性リスクによる分類で、強さの序列ではないためです。日本では抗菌薬は処方が必要な薬で、市販では買えません。症状があるときは自己判断せず医療機関を受診してください。
まとめ:AWaRe分類の抗菌薬一覧の要点と、加算に振り回されない考え方
AWaRe分類の一覧は「自院の薬がどこに入るか」を確認する道具です。最後に、押さえておきたい要点を整理します。
- AWaReはWHOが2017年に作った、耐性リスクによるAccess・Watch・Reserveの分類。強さの順位ではない
- 外来でよく使う経口セフェム・キノロン・マクロライドはWatch、アモキシシリンやST合剤はAccess
- ホスホマイシンとミノサイクリンは内服Watch・注射Reserve。経路までそろえて確認する
- 加算で使うのはGLASS準拠版。比率は外来分だけを、DDD換算で計算する
- 2026年4月から、リファキシミンは集計対象外。長期処方は14日分に圧縮して集計する
- 日本のAccess比率は22.94%。正当な長期処方で比率が下がることもあり、数字だけで診療の良し悪しは決まらない
いちばん覚えておいてほしいのは、外来の主力である経口第3世代セフェム・キノロン・マクロライドがそろってWatchだ、という点です。Access比率が上がりにくい施設の多くは、ここが理由になっています。
とはいえ、Access比率はあくまで使用状況を映す指標です。加算の要件を意識するあまり、必要な薬まで避けてしまっては本末転倒になります。まず確認したいのは、自院がどの版(GLASS準拠版)で、どう集計されているかです。
COPDへのマクロライド長期投与や、免疫抑制患者へのST合剤の予防投与など、患者層によって比率は正当に上下します。自院の比率が低くても、それが不適切とは限りません。
まずは、AMR臨床リファレンスセンターの最新版の一覧で自院の主な処方薬のカテゴリを確認し、算定要件は最新の告示・通知・疑義解釈で照合するところから始めるとよいでしょう。抗菌薬の選び方そのものについては、抗微生物薬適正使用の手引きや、必要に応じて感染症診療の専門家にご相談ください。
参考文献
- WHO「The selection and use of essential medicines 2025: WHO AWaRe classification of antibiotics for evaluation and monitoring of use」(世界保健機関、2025年)
- WHO「AWaRe classification of antibiotics for evaluation and monitoring of use, 2023」(世界保健機関、2023年)
- AMR臨床リファレンスセンター「抗菌薬マスター(AWaRe分類一覧・通常版/GLASS準拠版)」(国立健康危機管理研究機構 AMR臨床リファレンスセンター、2026年3月作成・ver5)
- AMR臨床リファレンスセンター OASCIS事務局「<令和8年度>診療所版J-SIPHE『抗菌薬適正使用状況・証明書発行機能』集計仕様の変更点とスケジュールについて」(2026年4月2日公開)
- 厚生労働省「AMR対策における抗菌薬分類の活用について(報告)」(第99回厚生科学審議会感染症部会 資料4、2025年10月22日)
- 国際連合総会「Political Declaration of the High-level Meeting on Antimicrobial Resistance」(国連総会ハイレベル会合 政治宣言、2024年9月)
- 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)ワンヘルス動向調査 年次報告書2024」(厚生労働省、2024年)
- 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)概要」(厚生労働省)
- 厚生労働省「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和6年3月5日 保医発0305第5号)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要」(厚生労働省 保険局医療課、令和6年)
- 地方厚生局「抗菌薬適正使用体制加算 施設基準に係る届出書(様式1の5)」(地方厚生局、令和6年度)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定に係る疑義解釈資料(その1)」(厚生労働省、令和6年3月28日事務連絡)
- 厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版(医科・外来編)」(厚生労働省、第四版)
- 中村安孝ほか「薬剤の使用動向の指標を用いて薬剤師がすべき薬剤耐性菌対策」(日本化学療法学会雑誌 Vol.68 No.1)
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「新医薬品の承認品目一覧(2025年4月〜2026年3月)」(PMDA)
