ラスビック点滴静注キット150mgは、肺炎や誤嚥性肺炎、肺膿瘍などの呼吸器感染症に用いられるニューキノロン系の注射用抗菌薬です。通常の肺炎原因菌に加え、誤嚥に関連する嫌気性菌にも効果を示すことから、幅広い肺炎の治療に使われています。
一方で、緑膿菌には効果が期待できない、尿路感染症には適応がない、キノロン系特有の副作用に注意が必要など、使用にあたって知っておくべきポイントもあります。
このページでは、添付文書やインタビューフォーム、患者向医薬品ガイドの情報をもとに、ラスビック点滴静注キットの特徴、使い方、注意点を分かりやすく整理しています。医療従事者の方にも、治療を受ける患者さんにも役立つ内容を目指してまとめました。
参考にして頂けますと幸いです。
※本情報は医療従事者および患者さんの参考のために作成したものです。実際の使用にあたっては、必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。
製品スペック
ラスビック点滴静注キット150mgの基本情報は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | ラスビック点滴静注キット150mg |
| 一般名 | ラスクフロキサシン塩酸塩 |
| 剤形 | 点滴静注用キット製剤 |
| 内容量 | 混合後100mL |
| 包装 | 薬液バイアル24mL+専用希釈液76mL |
| 保存方法 | 室温保存 |
| 有効期間 | 3年 |
| 製造販売元 | 杏林製薬株式会社 |
どんな薬(一般向け)
ラスビック点滴静注キットは、肺炎や肺膿瘍など、入院治療が必要な呼吸器感染症に使われる抗菌薬です。
この薬はニューキノロン系に分類される抗菌薬で、通常の肺炎原因菌(肺炎球菌やインフルエンザ菌など)に加え、誤嚥性肺炎の原因となる嫌気性菌(酸素がなくても増える菌)にも効果を示します。
そのため、一般的な肺炎から、食べ物や唾液を誤って気管に入れてしまうことで起こる誤嚥性肺炎、肺膿瘍までを1剤で治療できる点が大きな特徴です。
作用機序
細菌は増殖するためにDNAをコピーする必要があります。ラスクフロキサシンは、DNAの複製に必要な「DNAジャイレース」と「トポイソメラーゼIV」という2つの酵素を阻害することで、細菌の増殖を止めて死滅させます。
人の細胞にはこれらの酵素がないため、細菌だけを選択的に殺菌することができます。
ラスビックが誤嚥性肺炎に強い理由
誤嚥性肺炎では、食べ物や唾液と一緒に口の中の細菌(特に嫌気性菌)が肺に入り込むことが問題になります。
多くの抗菌薬は肺炎球菌などの通常菌には効いても、口の中の嫌気性菌には弱いことがあります。ラスビックは通常の肺炎原因菌に加え、誤嚥性肺炎や肺膿瘍の原因となる嫌気性菌にも抗菌力を持つため、1剤で幅広い菌をカバーできます。
適応菌種(効く菌)
ラスビックが効果を示す細菌を、感染経路や特徴ごとに分類すると以下のようになります。
肺炎の主な原因菌
一般的な市中肺炎の原因となる細菌です。
- 肺炎球菌
- インフルエンザ菌
- マイコプラズマ
- モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス
- レジオネラ
皮膚・口腔内由来の菌
皮膚や口の中に常在し、誤嚥などで肺に入ることで肺炎の原因となります。
- ブドウ球菌属
- レンサ球菌属
- 腸球菌属
腸内細菌
通常は腸に住んでいますが、免疫力が低下した状態では肺炎の原因となることがあります。
- 大腸菌
- クレブシエラ属
- エンテロバクター属
嫌気性菌(誤嚥性肺炎・肺膿瘍の原因)
酸素の少ない環境で増える菌で、口の中に多く住んでいます。誤嚥によって肺に入ると誤嚥性肺炎や肺膿瘍の原因となります。
- プレボテラ属
- バクテロイデス属
- ポルフィロモナス属
- ペプトストレプトコッカス属
- ベイヨネラ属
- フソバクテリウム属
適応症
ラスビックが使用できる病気は以下の3つです。
- 肺炎
- 肺膿瘍
- 慢性呼吸器病変の二次感染(慢性閉塞性肺疾患や気管支拡張症など、もともと呼吸器の病気がある方に細菌感染が起こった状態)
※尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎など)には適応がありません。
用法・用量
通常、成人には以下の用量を1日1回点滴静注します。
- 初日:300mg
- 2日目以降:150mg
初日に高用量を投与することで、速やかに有効な血中濃度に到達させ、その後は150mgで治療濃度を維持します。
薬物動態(なぜ1日1回で効くのか)
| 用量 | 点滴時間 | Cmax | Tmax | 半減期 |
|---|---|---|---|---|
| 150mg | 1時間 | 2.10 μg/mL | 1.0時間 | 約15時間 |
| 300mg | 2時間 | 2.99 μg/mL | 2.0時間 | 約16時間 |
| 150mg(7日目) | 1時間 | 2.92 μg/mL | 1.0時間 | 約22時間 |
初日に300mgを投与することで、血中濃度が速やかに約3μg/mLまで上がり、肺や感染巣に十分な殺菌濃度を作ります。その後、150mgの投与でもほぼ同じ濃度が維持され、半減期が約15〜22時間と長いため、1日1回の投与で効果が途切れることなく持続します。
このように、初日に高用量で立ち上げ、その後は維持量で治療濃度を保つ「ローディング→メンテナンス」という投与方法により、効率的な治療が可能になっています。
ラスビック点滴静注キットのピットフォール
ラスビックを使用する際に注意すべき重要なポイントを以下に示します。
緑膿菌には向かない
ラスビックは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対する抗菌力が十分ではありません。院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎など、緑膿菌が疑われる場合は、症例により、セフタジジム、セフェピム、タゾバクタム・ピペラシリン、カルバペネム系などの抗緑膿菌活性を持つ抗菌薬を選択します。
尿路感染症には使えない
承認されているのは「呼吸器感染症(肺炎・肺膿瘍など)」のみです。膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症は適応外です。
キノロン系抗菌薬の中でも、モキシフロキサシン(アベロックス)とラスクフロキサシン(ラスビック)は尿路感染症に使えないタイプである点は重要な注意点です。尿中排泄率が低いため、尿路感染症には十分な濃度が得られません。
禁忌(使用できない患者)とその理由
以下の患者さんにはラスビックを使用できません。
| 該当患者 | なぜ使えないか |
|---|---|
| キノロン系にアレルギーがある | 重いアレルギー反応やアナフィラキシーショックを起こす可能性がある |
| QT延長がある(先天性QT延長症候群など) | 心室頻拍など致死的な不整脈を起こすリスクがある |
| 低カリウム血症がある | QT延長や不整脈のリスクがさらに高まる |
| クラスⅠA又はクラスⅢの抗不整脈薬を使用中 | QT延長の影響が相乗的に強まり、致死的不整脈のリスクが高まる |
| 重度の肝機能障害がある | 肝代謝型のため血中濃度が過度に上昇し、副作用のリスクが高まる |
| 妊婦・妊娠している可能性がある | 動物試験で胎児への移行と発育遅延、骨格異常が報告されている |
| 小児等(15歳未満) | 成長期の関節軟骨や腱に影響が出るおそれがある |
※これらに該当する場合は、必ず医師・薬剤師に伝えてください。
処方監査チェックリストとその理由
| 確認項目 | なぜ確認するか |
|---|---|
| 適応症(肺炎・肺膿瘍・慢性呼吸器病変の二次感染) | 承認された感染症以外では効果と安全性が保証されない(特に尿路感染症は適応外) |
| 年齢(15歳以上) | 小児等には禁忌(成長期の関節軟骨や腱への影響) |
| 妊娠の可能性 | 妊婦または妊娠の可能性がある女性には禁忌(胎児への影響) |
| QT延長の有無 | QT延長のある患者には禁忌(致死的不整脈のリスク) |
| クラスⅠA/Ⅲ抗不整脈薬の併用 | 併用禁忌(QT延長の相乗効果により致死的不整脈のリスク) |
| 低カリウム血症の有無 | 低カリウム血症がある患者には禁忌(QT延長や不整脈のリスク増大) |
| 肝機能(AST・ALT、重症度) | 重度肝機能障害は禁忌、中等度は慎重投与(肝代謝型のため血中濃度上昇) |
| 心疾患・不整脈の有無 | QT延長や心室頻拍のリスクが高まる(慎重投与) |
| 大動脈瘤・大動脈解離の既往や家族歴 | 大動脈瘤や大動脈解離を引き起こすリスクがある(慎重投与) |
| てんかんなどの痙攣性疾患の既往 | 痙攣を起こすおそれがある(慎重投与) |
| 重症筋無力症の有無 | 症状を悪化させるおそれがある(慎重投与) |
| ステロイドの併用(特に高齢者) | 腱障害のリスクが増大する(慎重投与) |
| 高齢者 | 腱障害があらわれやすい(慎重投与) |
患者に伝えるべき重要な症状とその意味
| 症状 | 何が起きている可能性があるか |
|---|---|
| 息苦しさ、動悸、発疹、かゆみ、顔や唇の腫れ | アナフィラキシーやアレルギー反応の初期症状 |
| 胸・背中・腹部の激しい痛み | 大動脈瘤や大動脈解離の可能性(緊急性が高い) |
| かかとや足の痛み・腫れ | アキレス腱炎や腱断裂(キノロン系の重大な副作用) |
| 激しい下痢、血便、腹痛 | 偽膜性大腸炎など重篤な腸炎の可能性 |
| 動悸、めまい、失神 | QT延長や心室頻拍などの不整脈の可能性 |
| 筋肉痛、脱力感、尿の色が赤褐色になる | 横紋筋融解症の可能性 |
| けいれん、意識障害 | 痙攣発作や重篤な精神神経症状の可能性 |
これらの副作用は、発現頻度は低いものの、万が一起こった場合には重篤化する可能性があるため、早期発見が重要です。多くの患者さんでは問題なく治療が完了しますが、これらの症状に注意しながら治療を受けることが大切です。
知っておくべき調製と投与の要点
調製時の注意点
- 薬液バイアル1本と専用希釈液ボトル1本を接続して混合する
- 薬液バイアルのゴム栓中央部に注入針をまっすぐ刺す(斜めに刺すとゴム片混入や液漏れのおそれ)
- 接続操作は支持筒など固い部分を持ち、希釈液ボトルの胴部を押さえない
- 薬液が希釈液側に流れない場合は、ポンピング操作を行う
- 混合後は転倒混和し、室温で保管して24時間以内に使用
- 混合後の液は微黄色~淡黄色澄明
投与時の注意点
- 150mgあたり約60分かけて点滴静注する(30分以内の急速投与は避ける)
- 他の薬剤や輸液と混合しない
- 同一ルートで他剤を投与する場合は、投与前後に生理食塩液または5%ブドウ糖注射液でフラッシュする
- ヘパリンロック前後も同様にフラッシュする(ヘパリンと配合変化あり)
- 通気針は不要
- 使用後の残液は廃棄する(再使用しない)
- 薬液バイアルは投与終了まで支持筒から抜き取らない
まとめ
ラスビック点滴静注キット150mgは、誤嚥性肺炎を含む呼吸器感染症に有効なニューキノロン系抗菌薬です。
【主な特徴】
・1日1回投与で効果が持続(初日300mg、2日目以降150mg)
・通常の肺炎原因菌に加え、嫌気性菌もカバー
・誤嚥性肺炎や肺膿瘍に使用可能
【臨床での位置づけ】
個人的には、ラスビックは誤嚥性肺炎の治療において非常に使いやすい選択肢だと感じています。従来はβ-ラクタム系とクリンダマイシンの併用や、ABPC/SBT、TAZ/PIPCなどの配合剤を使うことが多かったですが、ラスビックは1日1回投与で済み、嫌気性菌もしっかりカバーできる点が魅力です。
特に高齢者の誤嚥性肺炎では、投与回数が少ないことで血管への負担も減らせます。ただし、QT延長や腱障害のリスクがあるため、高齢者や基礎疾患のある患者さんでは慎重なモニタリングが必要です。
また、緑膿菌が疑われるケースには使えない点は明確に理解しておく必要があります。院内肺炎やVAPではなく、市中肺炎や誤嚥性肺炎といった「外から入ってくる感染」に強いという認識で使い分けることが大切です。
【重要な注意点】
・緑膿菌には効果が不十分
・尿路感染症には適応外
・QT延長、腱障害などのキノロン系特有の副作用に注意
・小児等、妊婦、重度肝機能障害患者には禁忌
適切な患者選択と副作用モニタリングにより、誤嚥性肺炎の治療において有用な選択肢となる薬剤だと考えています。
参考文献
- ラスビック点滴静注キット150mg 添付文書(2025年6月改訂) 杏林製薬株式会社
- ラスビック点滴静注キット 医薬品インタビューフォーム(第6版 2025年6月改訂) 杏林製薬株式会社
- ラスビック点滴静注キット150mg 患者向医薬品ガイド(2025年6月更新)
- ラスビック点滴静注キット150mg くすりのしおり(2025年6月改訂)