HFrEF・HFpEF・HFmrEFの違いは?心不全の分類と治療を比較

HFrEF・HFpEF・HFmrEFの違いは?心不全の分類と治療を比較
  • URLをコピーしました!

HFrEF・HFmrEF・HFpEFは、心不全を左室駆出率(LVEF)の数値で分けた呼び方です。線引き自体は40%以下、41〜49%、50%以上とはっきりしています。迷いやすいのは、なぜLVEFで分けるのか、そして41〜49%のHFmrEFがどちら寄りに扱われるのか、という点です。

この記事では、3つの読み方と英語のフルスペル、患者背景と原因の違い、推奨クラスで比較した治療の差、予後の見方までを扱います。数値と推奨クラスは、日本循環器学会・日本心不全学会の2025年改訂版 心不全診療ガイドラインの記載に基づいています。

この記事でわかること
  • HFrEF・HFmrEF・HFpEFの読み方とLVEFの線引き
  • 3つに分ける理由と、境界の数値をどう受け止めるか
  • 推奨クラスで比較した3タイプの薬物療法の違い
  • LVEFが回復したHFimpEFの扱いと予後の見方
目次

結論、HFrEF・HFmrEF・HFpEFの違いは左室駆出率(LVEF)の数値で決まる

HFrEF・HFmrEF・HFpEFは、いずれも心不全(heart failure、HF)を分けるときの分類名です。分けている物差しは1つで、左室駆出率(left ventricular ejection fraction、LVEF)という数値になります。

LVEFは、左心室が1回の収縮で、ためた血液の何パーセントを送り出したかを示す割合です。

日本循環器学会と日本心不全学会の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(2025年3月28日公開)は、初回評価時のLVEFによって心不全を3つに分類しています。線引きは40%以下、41〜49%、50%以上です。

分類読み方LVEFどんな心不全か
HFrEFヘフレフ40%以下収縮する力が落ちた心不全。左室が拡大しやすく、薬物療法の根拠が最も厚い
HFmrEFヘフエムレフ41〜49%軽度に低下した心不全。患者背景は中間だが、背景にある心臓病はHFrEF寄り
HFpEFヘフペフ50%以上収縮する力が保たれた心不全。日本で最も多く、高齢・高血圧・心房細動が背景にある

ガイドラインはこの3つに加えて、経過を追って判定するHFimpEFという4つめの枠も置いています。こちらは初回の数値ではなく、治療の途中でLVEFが良くなったかどうかで決まる分類です。詳しくは後の章で扱います。

読み方と英語のフルスペル

読み方は、一般にHFrEFが「ヘフレフ」、HFmrEFが「ヘフエムレフ」、HFpEFが「ヘフペフ」と読まれることが多い言葉です。HFmrEFは「ヘフミレフ」と読まれることもあります。学会のガイドラインなどに読み仮名の規定は確認できておらず、現場での通称と考えたほうが正確です。

英語のフルスペルを分解すると、意味がそのまま出てきます。HFrEFはheart failure with reduced ejection fraction、つまり駆出率が低下した心不全です。

HFmrEFはこの部分がmildly reduced(軽度に低下した)に、HFpEFはpreserved(保たれた)に置き換わります。真ん中のr・mr・pだけが違い、あとは共通です。

つまり、3つの略語は「駆出率がどうなっているか」を1文字か2文字で表しているだけで、別々の病気の名前ではありません。

なぜLVEFで3つに分けるのか

分類が変わると、推奨される薬とその推奨の強さが変わるからです。ガイドラインは薬物療法の推奨表を、HFrEF・HFmrEF・HFpEFで別々に用意しています。同じ薬でも、EFの区分によって「投与すべき」から「考慮してよい」まで強さが動きます。

その強さを表しているのが、推奨クラスとエビデンスレベルという2つの記号です。原典の記号をそのまま示すので、先に読み方を置いておきます。

推奨クラスは「どれくらい強くすすめられるか」の目盛りです。Iは行うべき、IIaは行うことが妥当、IIbは考慮してもよい、IIIは行うべきでない、にあたります。エビデンスレベルはその裏づけの確からしさで、Aが最も厚く、B-Rはランダム化試験、B-NRは非ランダム化の研究、C-LDは限定的なデータ、という並びです。

そもそも心不全とは何か(2025年改訂版の定義)

2025年改訂版ガイドラインは、心不全を「心臓の構造的あるいは機能的な異常により、うっ血や心内圧の上昇、心拍出量の低下や組織の低灌流をきたし、呼吸困難・浮腫・倦怠感・運動耐容能の低下といった症状を生じる症候群」と定義しています。

この定義は、日本・米国・欧州の3学会が合同でまとめた心不全の定義と分類に基づくものです。

言い換えると、心不全は単一の病名ではなく症候群です。原因はさまざまで、共通しているのは「心臓のポンプとしての働きが体の要求に追いつかなくなった結果、うっ血や低灌流の症状が出ている」という状態のほうです。

LVEF(左室駆出率)は何を測っている数字か

LVEFは、左心室が拡張しきったときにためている血液のうち、1回の収縮で何パーセントを送り出したかという割合です。心エコー(心臓超音波検査)で測ることが多く、EFとだけ書かれることもあります。数値が低いほど、送り出す力が落ちていることになります。

ガイドラインは、LVEFの評価を心不全の全患者に推奨しています(推奨クラスI/エビデンスレベルB-NR)。分類の入口になる数値なので、まず測ることが前提に置かれています。

ただしLVEFは心臓の元気さの総合点ではありません。収縮の一面を切り取った指標であり、これが保たれていても拡張の障害やうっ血は起こります。EFが良いのに心不全と言われる、という状況が生じるのはこのためです。

LVEF 40%と41%は別の病気なのか

別の病気ではありません。ガイドライン自身が、LVEFだけでHFrEFとHFpEFを明確に区別するのは難しいと認めたうえで、41〜49%をHFmrEFと定義しています。区切りは連続した1本の線の上に引かれた目印であって、境目で病態が切り替わるわけではありません。

この点は、英語版ガイドラインの正誤(2025年8月25日)でも扱われています。図表の修正として、LVEFの境界の勾配を垂直から斜めに変更し、図を差し替えたことが示されています。境界を垂直に描くと段差があるように見えるため、連続していることが分かる描き方に直された形です。

加えて、LVEFは測定法や測定者、測るタイミングによってばらつきます。ガイドラインは測定法にも踏み込んでおり、Teichholz法は心不全のような場合には推奨されず、2D disk summation法(modified Simpson法)が標準的であるとしています。

同じ患者でも、どの方法で出した値かによって数字は動きます。

そのため実務では、LVEFの実測値だけでなく、測定日と測定法、前回値との比較まで見に行くのが前提になります。1回の数値だけでタイプを固定して考えないというのは、そういう意味です。境界の40%台では特にそうなります。

3つのタイプはそれぞれどんな心不全か

患者背景と原因が違うため、同じ心不全でも現場での見え方はかなり異なります。

HFrEF(LVEF 40%以下)は左室が拡大しやすく、日本では原因が変わってきた

HFrEFでは左室の拡大がよくみられます。LVEFの低下で示される収縮の障害だけでなく、拡張の障害を伴うことも多いとされています。収縮だけが悪い心不全、という単純な図式ではありません。

原因の顔ぶれも動いています。日本ではHFrEFの主な原因が、拡張型心筋症などの心筋そのものの病気を中心とした構成から、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など、心臓の血管が細くなったり詰まったりして起こる病気)へと、時代とともに移ってきました。

HFmrEF(LVEF 41〜49%)は数値が中間でも、背景の心臓病はHFrEF寄り

HFmrEFは「HFrEFとHFpEFの間」と説明されがちですが、何もかもが中間というわけではありません。年齢・性別・心房細動の頻度は、たしかにHFrEFとHFpEFの中間に位置します。

一方で基礎心疾患の分布はHFrEFに近く、虚血性心疾患の割合が高いとされています。つまり、患者さんの見た目の属性は中間でも、心臓に起きていることの原因はHFrEF側に寄っている、という理解になります。

この点は、後で見る治療の推奨とも矛盾しません。HFmrEFではHFrEF向けの薬の一部が、推奨クラスを下げた形で並びます。

HFpEF(LVEF 50%以上)は日本で最も多く、原因の見極めが要る

日本の疫学研究では、心不全のステージC(症状が現れて以降の段階を示す別の分類軸です)の69%、ステージDの51%がHFpEFと報告されています。すでに主要な表現型になっている、というのがガイドラインの書き方です。

強く関連する背景因子は、高齢、高血圧、心房細動、冠動脈疾患、糖尿病、肥満です。HFpEFは心臓だけの問題ではなく、血管や、肺・骨格筋といった心臓血管系の外の異常まで複合した病態と説明されています。

そのためガイドラインは、HFpEFと診断したら、疾患特異的な治療がある病因を評価することが不可欠だとしています。代表例が心アミロイドーシス(異常なたんぱく質が心筋に沈着して心臓が硬くなる病気)です。HFpEFとひとくくりにして終わらせると、治療手段のある病気を見落とすことになります。

ガイドラインは疑うきっかけをRed-flag所見として挙げています。手根管症候群や脊柱管狭窄症の既往、心電図の低電位や前胸部誘導のR波増高不良、心エコーで左室肥大を伴う高齢の心不全、大動脈弁狭窄症です。

これらに骨シンチグラフィ(99mTcピロリン酸またはHMDP)とM蛋白の評価を組み合わせて診断していきます。

心臓の所見より先に、整形外科領域の既往が手がかりになるのが特徴です。息切れや動悸が出るより何年も早く、手のしびれや腰の症状で受診していることがあります。

薬の扱いも変わります。ATTR心アミロイドーシスに合併した頻脈性心房細動では、ジギタリスは推奨クラスIIIです。アミロイド蛋白と結合して感受性が亢進し、通常の使用量でも致死性不整脈をきたす可能性があるためです。

ベラパミルやジルチアゼムも変時作用が強く出る可能性があり、原則として避けるべきとされています。

β遮断薬はビソプロロールやカルベジロールを使えます。ただしカルベジロールはα遮断作用による起立性低血圧があるため、自律神経障害を伴う症例では慎重に使います。「β遮断薬は使えない」ではなく、薬剤ごとに扱いが分かれる、という理解が正確です。

4つめの分類「HFimpEF」はLVEFが回復した心不全

HFimpEFは、heart failure with improved ejection fractionの略で、LVEFが改善した心不全を指します。初回の数値ではなく、経過を追った評価で決まる点が他の3つと違います。

HFimpEFの定義と、分類が移り変わるということ

ガイドラインの定義は明確です。当初のLVEFが40%以下だった患者で、その後LVEFが10ポイント以上上がり、かつ40%を超えた場合をHFimpEFとします。3つの条件がそろって初めて当てはまります。

そもそも分類は固定ではありません。HFrEFの20〜40%が経過中にHFmrEFまたはHFpEFへ移行し、同様にHFmrEFの20〜40%がHFpEFへ移行すると報告されています。EF分類は、その時点で撮った1枚の写真に近いものだと考えたほうが実態に合います。

LVEFが良くなったら薬はやめてよいのか(TRED-HF試験とその限界)

現場で繰り返し出る問いです。HFimpEFは、最適なGDMT(guideline-directed medical therapy、ガイドラインに基づく薬物治療)が達成された患者でよくみられます。

予後もLVEFが改善しない患者より良いとされています。ただしLVEFが改善しても、心臓の構造的な異常が残ることがあります。

HFimpEFになりやすい因子として、若年、女性、非虚血性心筋症、うっ血の期間が短いこと、併存症が少ないことが挙げられています。

そのうえでガイドラインは、心機能の改善は治癒と同義ではないため、国際的なガイドラインがGDMTを減量・中止せずに継続することを推奨している、と記載しています。根拠として挙げられているのがTRED-HF試験という非盲検のランダム化試験です。

この試験では、拡張型心筋症で無症状となり、LVEFが40%未満から50%以上に改善した患者でGDMTを中止しました。その結果、44%で心不全の指標が悪化しました。数字だけを見ると強い結果ですが、ガイドライン自身が限界も併記しています。

  • ループ利尿薬・MRA・β遮断薬・ACE阻害薬/ARBを6か月かけて順次減らし、最終的に心保護薬をすべて中止するプロトコルで、日本の実臨床への当てはめには制限がある
  • 拡張型心筋症に限った検討であり、他の基礎疾患のHFimpEFで最適な方針は分かっていない
  • 周産期心筋症の研究では、心保護薬の中止が心不全入院やLVEFの低下につながらなかったという報告もある

それでもガイドラインは、拡張型心筋症についてはLVEFが改善した後も短期間での心不全治療薬の減量・中止をすべきではないとしています(推奨クラスIII(Harm)/エビデンスレベルB-R)。

つまり患者さんに伝えるべきは「自己判断で中断しない」ことであり、減量や中止ができるかどうかは主治医が個々の症例で判断する領域だ、という整理になります。一生やめられないと言い切る話でもありません。

実際に減量や中止が検討される引き金は、EFが良くなったことそのものではありません。ガイドラインは急性期の判断軸として、血行動態の不安定化、症候性低血圧、高度腎機能障害を挙げています。

慢性期でも、めまいや倦怠感を伴う低血圧、徐脈、腎機能の悪化、血清カリウムの上昇が、増量を止めたり減らしたりする実際の理由になります。

説明するときは、症状を取る薬と心臓を守る薬を分けて伝えると通じやすくなります。むくみや息切れを取る利尿薬は効果を実感しやすい一方、ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬は将来の入院と悪化を防ぐための薬です。調子が良いときこそ続ける意味がある、という順序で伝えます。

治療はどう違うのか、2025年改訂版の推奨クラスで比較する

ここが3分類を分ける最大の理由です。同じ薬でも、EFの区分によって推奨の強さが変わります。まず全体像を1枚で見てから、区分ごとに見ていきます。表の記号は、左が推奨クラス、右がエビデンスレベルです。

薬剤HFrEF(40%以下)HFmrEF(41〜49%)HFpEF(50%以上)
SGLT2阻害薬I/AI/AI/A
ARNII/B-RIIa/B-NRIIb/B-R
MRA(フィネレノン)推奨表に記載なし(国内添付文書も対象外)IIa/B-RIIa/B-R
MRA(スピロノラクトン、エプレレノン)I/AIIb/B-NRIIb/B-R
ACE阻害薬I/AIIb/C-LD推奨表に記載なし
ARBI/AIIb/B-NRIIb/B-R
β遮断薬I/AIIb/B-NR推奨表に記載なし

縦に眺めると、SGLT2阻害薬だけが3列とも同じ強さで並んでいます。逆にARNI・ACE阻害薬・従来型のMRA・β遮断薬は、EFが上がるほど推奨が弱くなる勾配を描きます。この形が、3分類を分ける実務上の意味そのものです。

3タイプ共通の土台になったSGLT2阻害薬

SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2、ナトリウム・グルコース共輸送体2)阻害薬は、もともと糖尿病の薬として登場した系統です。心不全の領域では、エンパグリフロジンとダパグリフロジンが名前を挙げて推奨されています。

推奨は3区分すべてで推奨クラスI/エビデンスレベルAです。HFrEFでは糖尿病の有無にかかわらず投与すべきとされ、HFmrEF・HFpEFでは症候性の患者に対し、心血管死または心不全入院のリスクを減らす目的で投与すべきとされています。

国内の承認側も同じ方向に動きました。PMDAは、エンパグリフロジンについて2022年3月23日付、ダパグリフロジンについて2023年1月10日掲載の「効能又は効果に関連する注意」等の改訂を公表しており、LVEFによる限定は実質的に外れています。

ただし効能そのものには但し書きが残っています。両剤とも「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」という書き方で、単剤で心不全治療を始める薬としては承認されていません

用量は心不全・慢性腎臓病のいずれも1日1回10mgで、2型糖尿病で用いるときの用量設計とは別に定められています。

つまり、EFの分類をまたいで使える薬が出てきたことが、HFpEFの治療の景色を変えた最大の変化です。成分ごとの適応や用量の差は、SGLT2阻害薬6成分の一覧と適応・用量の比較で扱っています。

HFrEFの薬物療法と「ファンタスティック4」とは何か

HFrEFは、3区分のなかで薬物療法の根拠が最も厚い区分です。ガイドラインの推奨を主なものだけ並べます。なお下記のNYHA心機能分類は、New York Heart Association(ニューヨーク心臓協会)が定めた、症状の強さでI度からIV度に分ける指標です。

  • ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬):禁忌がない限り全例に投与すべき(I/A)
  • ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬):ACE阻害薬またはARNIに耐えられない患者に投与すべき(I/A)
  • ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬):ACE阻害薬またはARBを使用中の症候性心不全(NYHA II〜III度)ではARNIへの切り替えが推奨される(I/B-R)
  • β遮断薬:禁忌がない限り、カルベジロールまたはビソプロロールを全患者に投与すべき(I/A)
  • MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):NYHA II〜IV度かつLVEF 40%以下にスピロノラクトンまたはエプレレノンを投与すべき(I/A)
  • SGLT2阻害薬:症候性HFrEFに糖尿病の有無を問わず投与すべき(I/A)

系統の名前だけでは処方に落ちないので、国内で慢性心不全の効能を持つ成分を確認しておきます。ACE阻害薬ではエナラプリル(レニベース)とリシノプリル(ロンゲス、ゼストリル)が該当します。

ARBで慢性心不全の効能を持つのはカンデサルタン(ブロプレス)だけで、文言も「アンジオテンシン変換酵素阻害剤の投与が適切でない場合の慢性心不全(軽症〜中等症)」と条件つきです。

MRAも同じ系統でひとくくりにはできません。エプレレノン(セララ)は基礎治療を受けている患者の慢性心不全を効能に持ちますが、100mg錠だけは高血圧症のみの適応です。用量も、高血圧症が50mgから開始して100mgまでなのに対し、慢性心不全は25mgから開始して50mgまでと上限が逆転しています。

スピロノラクトン(アルダクトンA)は「心性浮腫(うっ血性心不全)」という浮腫の枠で効能が書かれています。

禁忌も効能ごとに違います。微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者と、クレアチニンクリアランス50mL/分未満の腎機能障害は高血圧症のときだけの禁忌で、慢性心不全では血清カリウム値を頻回に測定する扱いに変わります。慢性心不全で禁忌になるのはクレアチニンクリアランス30mL/分未満です。

β遮断薬にも国内の線引きがあります。カルベジロール(アーチスト)とビソプロロール(メインテート)の慢性心不全の効能は、いずれも「虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全」と原因疾患で限定されており、ガイドラインが言う「全患者」と文言が一致しません。

開始用量も特徴的です。カルベジロールは1回1.25mgを1日2回、ビソプロロールは1日1回0.625mgから始めます。維持量はそれぞれ1回2.5〜10mgの1日2回、1日1回1.25〜5mgです。

降圧目的の用量より1桁低いところから入るため、処方箋の数字だけを見て過少量と判断しないことが大切になります。

剤形にも注意点があります。ビソプロロールの貼付剤(ビソノテープ)の効能は本態性高血圧症(軽症〜中等症)と頻脈性心房細動で、慢性心不全の効能はありません。嚥下が難しい心不全患者で貼付剤への変更が話題になったときは、ここが判断の分かれ目になります。

ARNIには切り替えの手順があります。サクビトリルバルサルタン(エンレスト)を始める前にACE阻害薬が投与されている場合は、少なくとも36時間前にACE阻害薬を中止します。逆にARNIを終えてACE阻害薬へ戻す場合も、最終投与から36時間は空けます。

理由はブラジキニンです。ARNIはネプリライシンを阻害してブラジキニンの分解を抑えるため、同じくブラジキニンを蓄積させるACE阻害薬と重なると、舌・声門・喉頭の腫脹といった気道閉塞につながる血管性浮腫のリスクが上がります。血管性浮腫が消失しても再投与はしません。

ARBからの切り替えでは、この36時間の間隔は不要です。

このうちARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬の4剤併用が、現場で「ファンタスティック4」と通称されている組み合わせです。正式な用語ではありませんが、HFrEFの薬物療法の柱を指す言い方として定着しています。

ただし、4剤がそろっている処方ばかりではありません。日本の全国レセプトデータベースを用いた研究(JACC: Asia 2025)では、急性心不全の入院後に1剤以上のガイドライン推奨薬が開始されたのは51.2%でした。

12か月時点で目標用量まで到達していたのはβ遮断薬10.5%、MRA 7.4%、ARNI 23.1%です。増量を前提としないSGLT2阻害薬は60.2%と高く出ます。

中止されやすい背景も分かっています。β遮断薬とRAS系阻害薬は高齢・貧血・認知症の患者で、MRAは慢性腎臓病の患者で中止されやすいと報告されています。ガイドライン自身も「次の薬剤を開始する前に目標用量を達成する必要はない」と明記しています。

つまり、4剤そろっていない処方や増量が止まっている処方は、忍容性と併存症のなかで調整している途中であることが多いといえます。血圧、心拍数、腎機能、血清カリウムを確認しながら経過を追うのが実務的な見方です。

ARNIとACE阻害薬・ARBの使い分けは、エンレストとARB・ACE阻害薬の違いと切り替えで詳しく整理しました。

逆に、避けるべきとされているものもあります。Ic群抗不整脈薬はHFrEF患者に投与すべきでないとされ、推奨クラスはIII(Harm)/エビデンスレベルAです。害があるため行うべきでない、という最も強い否定にあたります。

HFmrEFの薬物療法(SGLT2阻害薬はI、ARNI・フィネレノンはIIa)

HFmrEFでは、推奨クラスIに置かれているのは3つだけです。併存症の適切な評価と管理(I/C-LD)、症候性の患者に対するうっ血の改善を目的とした利尿薬(I/C-LD)、そしてSGLT2阻害薬(I/A)です。

次に強いのがIIaで、ARNI(IIa/B-NR)と非ステロイド型MRAであるフィネレノン(IIa/B-R)が入ります。ARB(IIb/B-NR)、ACE阻害薬(IIb/C-LD)、スピロノラクトンやエプレレノンといった従来型のMRA(IIb/B-NR)、β遮断薬(IIb/B-NR)はIIbです。

このフィネレノン(ケレンディア)は、2025年12月22日に「慢性心不全」の効能・効果を追加取得した薬です。ガイドラインが公開された2025年3月の時点では、まだ心不全の適応を持っていませんでした。

添付文書は投与対象をはっきり区切っています。「左室駆出率の低下した慢性心不全における本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の保たれた又は軽度低下した慢性心不全患者に投与すること」と記載されており、HFrEFは国内でも投与対象から外れています

根拠となったFINEARTS-HF試験の組み入れ基準がLVEF 40%以上だったことに対応しています。

用量はeGFRで分かれます。eGFRが60mL/min/1.73m2以上なら20mgから開始し、4週間後を目安に40mgへ増量します。25以上60未満なら10mgから開始し、20mgへ増量します。

慢性心不全ではeGFR 25mL/min/1.73m2未満が禁忌で、これは2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の効能では禁忌になっていない、心不全側だけの制限です。

調剤上の注意も添付文書に明記されています。10mg錠と20mg錠の生物学的同等性は示されていないため、20mgまたは40mgを投与する際に10mg錠を使うことはできません。またCYP3Aで代謝されるため、クラリスロマイシンやイトラコナゾールなど強いCYP3A阻害薬は併用禁忌です。

呼吸器感染でマクロライドが処方される場面は実際にあるので、処方が並んだときは確認が要ります。

つまり、HFrEFでIだった薬の多くが、HFmrEFではIIaからIIbへ下がります。ファンタスティック4がそのまま横滑りするわけではない、というのがこの表から読み取れることです。EFが45%の患者にHFrEFと同じ顔ぶれが並んでいない理由は、ここにあります。

ただし逆のパターンもあります。現在のLVEFが45%でも、以前が35%で治療によって改善してきた患者なら、後の章で扱うHFimpEFにあたります。ガイドラインの治療アルゴリズムは、HFimpEFではHFrEFの治療を継続するとしています。

したがって、EFが41〜49%の患者にHFrEF向けの4剤が並んでいても、それだけで推奨と食い違っているとは言えません。確認すべきは今のEFではなく、いちばん低かったときのEFです。経過が追える記録があるかどうかで、判断が変わります。

HFpEFの薬物療法(SGLT2阻害薬はI、フィネレノンはIIa)

HFpEFも骨格は同じです。併存症の適切な評価と管理(I/C-LD)、症候性の患者に対するうっ血軽減のための利尿薬(I/C-LD)、SGLT2阻害薬(I/A)がIに並びます。フィネレノンは、心血管死または心不全増悪イベントのリスクを減らす目的で考慮できるとされています(IIa/B-R)。

ARNIとARBはIIb/B-Rですが、対象に条件が付きます。LVEFが正常範囲以下の症候性のHFpEFで、心不全入院を減らす目的、という限定です。ARBはARNIの代替という位置づけです。従来型のMRAも心不全入院の低減を目的にIIb/B-Rで挙げられています。

2025年改訂版では、HFrEF・HFmrEF・HFpEFすべてのGDMTが、2021年のフォーカスアップデート後に公表された主要研究に基づいて更新されました。

主な変更点として、HFmrEF・HFpEFに対する非ステロイド型MRA(フィネレノン)と、肥満を合併する心不全に対するインクレチン関連治療の追加が挙げられています。

したがって、「HFpEFには使える薬がない」という説明は、現行の推奨とは合いません。推奨クラスIの薬がある区分になっています。

予後はどう違うのか、「EFが保たれている=軽い」ではない

HFpEFは「収縮する力が保たれている」と説明されるため、軽い心不全だと受け取られることがあります。数字を見ると、その理解は正確ではありません。

1年死亡率・再入院率と、3タイプに共通する死因

日本の実態から見ていきます。JROAD(Japanese Registry of All Cardiac and Vascular Diseases、全国の循環器疾患の診療実態を集めた登録)の最近のデータでは、心不全による入院は2023年に285,000件、院内死亡率は9.1%でした。

予後の数字も厳しいものです。心不全で入院した後の1年死亡率は約20%、退院して生存した患者の1年再入院率は27〜29%と非常に高く、心不全の増悪で入院した後に4年生存している患者は49%にとどまります。

死因はどうでしょうか。ガイドラインは、HFrEF・HFmrEF・HFpEFのいずれでも心血管死が主な死因であり、突然心臓死も3型すべてで起こると記載しています。EFが保たれていれば心臓が原因で亡くなりにくい、という整理にはなっていません。

ただし年齢によって様相が変わります。85歳以上のHFpEFでは非心血管死の割合が多く、年齢に応じた治療アプローチが必要とされています。

つまり、どのタイプでも予後は決して良好とはいえません。3つのあいだで予後の優劣を断定できる書き方は、ガイドラインには置かれていません。EFの数値は治療方針を決める出発点であって、重症度をそのまま表す点数ではないと考えるのが妥当です。

このサインが出たら受診を、と患者にどう説明するか

ガイドラインは「心不全の悪化」と「非代償性心不全」を定義しています。この定義に沿うと、患者さんや家族に伝えるべき受診のサインは次のように整理できます。

  • 安定した治療を受けているのに、息切れ・むくみ・体重増加・夜間の呼吸苦・横になると苦しい(起座呼吸)が強くなってきた
  • 症状の変化にかかわらず、検査所見が明らかに悪化している(LVEFの低下、心拡大、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNP(N末端プロBNP)の上昇、腎機能の悪化、運動耐容能や生活の質の低下)
  • 不整脈のイベントが再発している、あるいは悪化している
  • 飲み薬の利尿薬を大幅に増やす、点滴の利尿薬が必要になる、といった状態

説明するときは、EFのタイプにかかわらず同じサインを見てもらう形にすると伝わります。「HFpEFだから軽い」と受け取られている場合ほど、ここを丁寧に伝える意味があります。

なお、体重が何キログラム増えたら受診するかという具体的な数値は、施設や患者さんの状態で設定が変わります。主治医から指示されている目安があればそちらを優先してもらってください。

よくある質問

BNPが基準値内なのに心不全と言われることはありますか

あります。ガイドラインは、BNPやNT-proBNPが心不全以外の要因の影響を受けること、腎機能の低下で上昇すること、肥満のある人では低く出ることを明記しています。HFpEFは肥満を背景に持つことが多いため、値が低めに出る場合があります。判断は他の所見と合わせて医師が行います。

安静時の心エコーが正常なら、HFpEFは否定できますか

否定しきれない場合があります。うっ血のないHFpEFでは、安静時の左室充満圧が正常でも運動時に異常となることがあるためです。ガイドラインは、安静時の所見が曖昧な症候性の患者への運動負荷心エコーを推奨クラスIIaとしています。

「拡張不全」とHFpEFは同じものですか

同じ意味として使われることがありますが、厳密には一致しません。現行のガイドラインの分類はLVEFの数値で行われています。HFrEFでも拡張の障害を伴うことが多いとされており、収縮と拡張のどちらかで割り切れる分け方にはなっていません。

ガイドラインが推奨している治療は、日本でも必ず保険で受けられますか

そうとは限りません。たとえば静注鉄剤は、鉄欠乏のあるHFrEF・HFmrEFの患者への使用が推奨クラスIIaで挙げられていますが、日本では鉄欠乏性貧血にのみ保険適用があり、貧血のない患者では保険適用外だとガイドライン自身が記載しています。使用の判断は主治医が行います。

HFrEF・HFmrEF・HFpEFの違いのまとめ

この記事の要点
  • 3つの違いは左室駆出率(LVEF)の数値。HFrEFは40%以下、HFmrEFは41〜49%、HFpEFは50%以上
  • 分ける理由は治療の推奨が変わるから。SGLT2阻害薬だけが3区分すべてで推奨クラスI/エビデンスレベルA
  • ARNI・ACE阻害薬・従来型MRA・β遮断薬は、EFが上がるほど推奨が弱くなる
  • 推奨クラスと国内の効能は別物。フィネレノンはHFrEFが投与対象外で、β遮断薬は原因疾患の限定がある
  • 境界は連続していて、LVEFは測定ごとにばらつく。1回の数値でタイプを固定しない
  • LVEFが回復したHFimpEFでも、GDMTは減量・中止せず継続することが推奨されている
  • どのタイプでも心血管死が主な死因。EFが保たれている=軽い、ではない

結論を1つ選ぶなら、EF分類は重症度の指標ではなく、治療方針を決める出発点だということです。40%以下か、41〜49%か、50%以上かで、推奨される薬の顔ぶれと強さが変わります。だからカルテのEFを見に行く価値があります。

担当している患者さんに当てはめるときは、まずLVEFの実測値と測定日を確認してください。次に、そのEFに対して推奨クラスIの薬が入っているか、入っていないなら禁忌や併存症など理由があるかを見ます。高齢、腎機能低下、鉄欠乏、肥満、心房細動といった併存症は、推奨の適用や検査値の読み方を左右します。

患者さんへの説明では、EFが良くなっても自己判断で薬を中断しないこと、息切れやむくみ、体重増加が続くときは早めに相談することの2点を優先すると伝わります。薬の変更や中止の判断そのものは主治医の領分なので、気になる点は処方医と薬剤師に確認してもらう形が確実です。

参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

花(はな)|病院薬剤師・感染制御認定薬剤師・病院薬学認定薬剤師
病院薬剤師として20年以上勤務し、現在も医療現場でICT(感染対策)やAST(抗菌薬適正使用)などに携わっています。記事では電子添文、インタビューフォーム、診療ガイドライン、公的機関・学会の資料などを確認し、医薬品や感染症に関する情報を分かりやすくまとめています。

目次