アウィクリとトレシーバは、どちらも1日の土台をつくるBasalインスリンです。ただ、投与回数だけでなく、単位の決め方も、打ち忘れたときのルールも違います。切り替えでとくに差が出るのは、単位を7倍にするのか、初回だけ1.5倍にするのか、それをいつ戻すのかという手順です。
ここでは、2剤の効いている時間と低血糖の出方、切り替えと切り戻しの単位、公表されている投与ミスの事例を、両剤の添付文書と学会のRecommendation、PMDAの資材をもとにまとめています。
- 半減期と作用の持続、保存期間の違い
- トレシーバからアウィクリへ切り替えるときの単位の決め方
- アウィクリからトレシーバへ戻すときの考え方
- 低血糖が出やすい時期と、報告されている投与ミス
アウィクリとトレシーバは何が違うのか
アウィクリ注 フレックスタッチ(一般名:インスリン イコデク)とトレシーバ注 フレックスタッチ(一般名:インスリン デグルデク)は、どちらも持効型溶解インスリンアナログ注射液です。食事とは切り離して1日の土台をつくるBasalインスリン(基礎インスリン)にあたります。
効能又は効果は両剤とも「インスリン療法が適応となる糖尿病」で、文言まで同じです。違うのは投与回数だけではありません。
一枚で分かる比較表
| 項目 | アウィクリ注 フレックスタッチ | トレシーバ注 フレックスタッチ |
|---|---|---|
| 一般名 | インスリン イコデク(遺伝子組換え) | インスリン デグルデク(遺伝子組換え) |
| 投与回数 | 週1回。同一曜日 | 1日1回 |
| 製剤の濃度 | 700単位/mL | 100単位/mL |
| 1キットの内容 | 0.43mLに300単位、または1.0mLに700単位 | 3mLに300単位 |
| 投与単位の設定 | 1クリック(1目盛)=10単位。10単位刻み | 添付文書とインタビューフォームに刻みの記載がないため、取扱説明書で確認する |
| 半減期 | 164時間(日本人1型、8週目)/155時間(2型) | 18時間(1型) |
| 作用の持続 | 臨床用量で1週間持続 | 42時間を超える |
| 切り替え時の単位 | 連日投与のBasalインスリン1日量の7倍。初回のみ1.5倍 | 前治療のBasalインスリンと同じ単位数から |
| 打ち忘れたとき | 気づいた時点で投与し、次は4日間以上あける | 気づいた時点で投与でき、次は8時間以上あける |
| 使用中の保存 | 室温遮光。総量300単位は6週間以内、総量700単位は12週間以内 | 室温遮光。8週間以内 |
| 小児 | 小児等を対象とした臨床試験は実施していない | 用法・用量あり。維持量は通常1日0.5〜1.5単位/kg |
| 薬価(1キット) | 総量300単位2,081円/総量700単位3,809円 | 1,559円 |
数値は両剤の添付文書と、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)掲載のリスク管理計画資材によります。薬価は令和8年8月13日適用の薬価基準収載品目リストの値です。
同じ「持効型」でも、効かせ方の設計が違う
週1回のインスリンで最初につまずくのは、1週間分をまとめて入れて、なぜ初日に低血糖にならないのかという点です。答えは、効かない状態でいったん預けておき、そこから少しずつ引き出す仕組みにあります。
アウィクリの預け先は血液の中です。皮下から血漿中へ移ったインスリン イコデクは、血中のアルブミン(血液に最も多く含まれるタンパク質)と結合し、結合している間は活性を示しません。試験管内での結合率は、ヒト血漿タンパク・ヒト血清アルブミンのいずれに対しても99%を超えます。
そこから緩やかに解離した分だけがインスリンレセプター(インスリンを受け取る細胞側の受け口)に結合し、血糖降下作用を示します。体の中に1週間分の貯金箱をつくり、毎日少しずつ引き出す設計です。
一方、トレシーバの預け先は皮下です。製剤中では可溶性のダイヘキサマー(分子が6個ずつ2組で集まった形)として存在し、注射後に皮下で会合してマルチヘキサマーという安定な塊をつくります。この塊から徐々に解離するため、注射部位から緩やかに血中へ吸収されていきます。脂肪酸側鎖を介してアルブミンとも結合し、作用の持続に寄与しています。
貯金箱を血中に置くのがアウィクリ、皮下に置くのがトレシーバ、という対比になります。同じ持効型でも、体のどこで時間を稼いでいるかが違うわけです。
効いている時間はどれくらい違うのか
週1回で1週間もつのか、週の後半に切れないのかは、切り替えの説明で必ず聞かれます。
半減期はアウィクリ164時間、トレシーバ18時間
日本人1型糖尿病患者24例にアウィクリを8週間週1回皮下投与したとき、8週目投与後の半減期は164時間(変動係数11.4%)でした。最高血中濃度に達するまでの時間(tmax)の中央値は1週目12.0時間、8週目16.0時間です。2型糖尿病患者46例では半減期155時間(変動係数15.3%)でした。
直接比べたデータもあります。2型糖尿病患者50例にインスリン イコデク2.0〜4.0単位/kgを週1回、またはインスリン デグルデク0.4単位/kgを1日1回反復皮下投与したとき、半減期の幾何平均値はそれぞれ170〜238時間と27時間でした(外国人データ)。
トレシーバ単独のデータでは、1型糖尿病患者22例に0.4単位/kgを6日間1日1回皮下投与したとき、半減期は18時間、血中濃度は投与後2〜3日で定常状態に達しました。体内に残る時間の桁が違います。
トレシーバは作用持続42時間超、日ごとのブレが小さい
トレシーバ側にも数字で示された特徴があります。1型糖尿病患者66例に0.4/0.6/0.8単位/kgを1日1回8日間投与し、42時間グルコースクランプで作用持続時間を検討した試験です。グルコースクランプとは、血糖値を一定に保つよう点滴でブドウ糖を入れ、その必要量から効き目を測る方法をいいます。
結果は、0.4単位/kgの3例を除き、42時間の測定中にインスリンの追加注入が必要な血糖上昇はみられない、というものでした。作用持続時間は42時間を超えていたことになります(外国人データ)。
もうひとつが効き目の安定性です。1型糖尿病患者にトレシーバ(26例)またはインスリン グラルギン(27例)0.4単位/kgを1日1回12日間投与したとき、1回の投与間隔における血糖降下作用の個体内変動係数は、デグルデク20%、グラルギン82%でした(外国人データ)。
変動係数は、ばらつきを平均値に対する割合で表した指標です。つまり、同じ量を同じように打っても日によって効き方が変わる度合いが、グラルギンの約4分の1にとどまったという意味になります。
週のどの日に効いているのか(1型と2型で山の位置が逆転する)
アウィクリの週内の効き方は、第1相試験に基づく定常状態の分布が公表されています。1週間の血糖降下作用の総量を100%として各日の割合を示したもので、7日間で均等なら1日14.3%です。
| 投与からの日数 | 2型糖尿病 | 1型糖尿病 |
|---|---|---|
| 1日目 | 12.0% | 14.6% |
| 2日目 | 13.1% | 18.0% |
| 3日目 | 14.2% | 16.6% |
| 4日目 | 15.4% | 14.9% |
| 5日目 | 16.0% | 13.3% |
| 6日目 | 16.3% | 11.9% |
| 7日目 | 13.0% | 10.7% |
型によって山の位置が逆になります。1型では投与翌日の2日目が18.0%で最も高く、7日目の10.7%が最も低い。2型は逆で、6日目の16.3%が最も高く、1日目の12.0%が最も低い分布です。週の後半に切れるのでは、という直感とは一致しません。
この分布は臨床薬理試験の結果であり、個々の患者の血糖が毎週この形で動くという意味ではありません。食事量や運動、併用薬で実際の推移は変わります。
トレシーバからアウィクリへ切り替えると、単位はどう決まるのか
処方監査でも服薬指導でも最初に確認するところです。トレシーバ側は単純で、中間型または持効型インスリン製剤から変更する場合、成人では前治療で使用していたBasalインスリンと同じ単位数から開始するのが目安になります。
ただしBasal-Bolus療法(土台のインスリンに、食事に合わせた追加インスリンを組み合わせる方法)で1日2回投与のBasalインスリンから切り替える場合は、減量が必要なこともあります。
基本は「1日量の7倍」
アウィクリでは考え方が変わります。連日投与のBasalインスリン製剤から変更する場合、週1回の投与量は、それまでの1日総投与量の7倍に相当する単位数が目安です。ここに10単位刻みという制約が加わり、計算値は10の倍数になるよう四捨五入します。医療従事者向けの投与ガイドにある単位数換算表から、代表的な値を挙げます。
| 切り替え前の1日量 | 7倍量(2回目以降の週1回量) | 初回のみ1.5倍にした場合 |
|---|---|---|
| 10単位 | 70単位 | 110単位 |
| 20単位 | 140単位 | 210単位 |
| 30単位 | 210単位 | 320単位 |
| 40単位 | 280単位 | 420単位 |
1日10単位以下の患者では注意が必要です。四捨五入で週あたり4〜5単位増えることがあり、投与ガイドでは低用量では切り捨ても考慮するとされています。少量で使っているほど、丸めの影響が相対的に大きくなるためです。
初回だけ1.5倍にする理由と、2回目で必ず戻すこと
切り替え時には、7倍量をさらに1.5倍にする初回投与が出てきます。多いほうがよく効くから、ではありません。アウィクリは血中に少しずつ溜まって定常状態に達する薬剤で、増量しない場合は1型で2〜3週、2型で3〜4週かかります。
その立ち上がりの間に血糖値が上昇するおそれがあるため、初回だけ底上げして早く定常状態に乗せる設計です。母集団薬物動態モデルを用いたシミュレーションでは、初回に1.5倍量を投与した場合、1型では1週間早く、2型では2〜3週で定常状態に達し得ると推定されました。
添付文書上の扱いは型で少し違います。2型糖尿病患者では初回投与時のみ1.5倍に増量することが推奨され、血糖コントロールと低血糖リスクのバランスを考慮して増量の必要性を慎重に判断するとされています。1型糖尿病患者では初回投与時のみ原則として1.5倍に増量し、同様に必要性を慎重に判断する、という書き方です。
そして最も重要なのが次の1文です。初回投与量を増量した場合、2回目の投与の際は7倍量に戻します。3回目以降は、血糖コントロールや低血糖の発現状況に加え、薬剤の作用特性を考慮して調整することとされています。
1.5倍は初回1回限りです。処方箋1枚では初回か2回目かを判別できないため、前回処方の履歴と突き合わせて確認する必要があります。
逆に、アウィクリからトレシーバへ戻すときはどうするのか
低血糖を繰り返す場合や、感染症・手術で細かい調整が必要になった場合には、連日投与のBasalインスリンへ戻す判断が起こります。添付文書には、この戻し方にも記載があります。
- アウィクリの最終投与後の朝食前自己血糖測定値などを参照し、連日投与のBasalインスリンの投与開始時期を検討する
- 切り替え時の1日あたりの投与量は、アウィクリの週1回投与量の7分の1量を目安とする
- 切り替え時およびその後一定期間は、血糖モニタリングを慎重に行う
直感に反するのは1番目です。翌日から連日インスリンを始めるのではなく、開始時期そのものを血糖値を見ながら決めます。アウィクリは半減期が155〜164時間、つまり約1週間あるため、最終投与のあともしばらく体内に残っているからです。
臨床試験での方法も投与ガイドに記載があります。2型糖尿病では、目安として最後の投与から2週間後に連日投与のBasalインスリンを開始し、それ以前に朝食前の血糖自己測定値が180mg/dLを超えた場合はより早い時点での投与を検討しました。1型糖尿病では、最後の投与の1週間後から、朝食前の血糖自己測定値が180mg/dLを超えた時点で開始しています。
日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会による高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation(2026年3月31日改訂)にも、同じ考え方が示されています。最後にイコデクを打ってから1週間から2週間の間で、朝食前血糖が180mg/dlを超えた時点でイコデクの7分の1量を開始する、という記載です。
これらは臨床試験での手順と学会の記載であり、承認された用法・用量ではありません。いつ何単位から始めるかは主治医の判断です。
打ち忘れ・曜日変更のルールが違う
ルールの単位が「時間」と「日」で違うため、混同すると重なり投与につながります。
アウィクリは「4日間以上あける」
アウィクリは週1回投与する薬剤であり、同一曜日に投与します。やむを得ず曜日を変更する場合は、投与間隔を4日間以上とし、血糖モニタリングを十分に行うこととされています。投与を忘れた場合は、気づいた時点で直ちに投与し、次の投与は4日間以上の間隔をあけて開始します。その後は新たな開始日と同じ曜日に週1回投与します。
4日ルールは柔軟性のための規定ではありません。間隔を詰めると前回の1週間分が残っているところに次の1週間分が重なるため、安全側に縛る規定です。誤って同日または翌日に続けて2回投与した場合は、次の予定された投与を行わないことが投与ガイドで推奨されています。
トレシーバは「前後8時間以内」「次は8時間以上あけて」
トレシーバの成人では、注射時刻は原則として毎日一定としますが、変更が必要な場合は血糖値の変動に注意しながら通常の注射時刻の前後8時間以内に変更し、その後は通常の時刻に戻すよう指導します。時刻の変更で投与間隔が短くなる場合は、低血糖の発現に注意が必要です。
投与を忘れた場合は、気づいた時点で直ちに投与できます。ただし次の投与は8時間以上あけてから行い、その後は通常の注射時刻に戻します。小児では、注射時刻を毎日一定とすることとされています。
低血糖の出方はどう違うのか
注射の回数は減りますが、低血糖のリスクが減るわけではありません。
臨床試験で見えた差(対デグルデクの直接比較)
レベル2の低血糖は血糖値54mg/dL未満の臨床的に問題となる低血糖、レベル3の低血糖は回復に第三者の介助を必要とする重度の低血糖を指します。
Basalインスリンで治療中の2型糖尿病患者526例を対象とした国際共同第III相試験では、アウィクリ週1回とインスリン デグルデク1日1回を26週間比較しました。血糖の指標であるHbA1cの変化量は、アウィクリ群 -0.93±0.05%、デグルデク群 -0.71±0.06%、群間差 -0.22[95%信頼区間 -0.37; -0.08]でした。
この結果について、添付文書には非劣性が検証されたと書かれています(非劣性マージン0.3%)。非劣性とは、対照薬に劣らないことを確かめる検証で、優れていることを示す検証ではありません。アウィクリのほうがよく効く、という説明はできないということです。
同試験のレベル3またはレベル2の低血糖は、患者あたりの年間発現件数でアウィクリ群0.73件(発現割合14.1%)、デグルデク群0.27件(7.2%)でした。1型糖尿病患者582例をBasal-Bolus療法下で比較した試験では差がさらに大きく、年間19.93件(85.2%)対10.37件(76.4%)です。
1型の試験は食事に合わせて打つBolusインスリン由来の低血糖も含む点は差し引いて読む必要がありますが、それでも差は小さくありません。アウィクリの添付文書が1型糖尿病で適用を慎重に考慮するよう求めているのは、この結果が根拠になっています。
投与後2〜4日に多く、回復が遅れることがある
いつ起きやすいかも分かっています。添付文書の記載では、臨床試験で低血糖は各投与後の2〜4日に最も多く認められました。学会のRecommendationも、投与後2〜4日目の食前血糖値が最も下がりやすいことから、この日の血糖測定が用量調整の参考になるとしています。
もうひとつが持続性です。低血糖は臨床的に回復した場合にも再発することがあり、アウィクリは週1回投与で作用が持続的であるため、回復が遅延するおそれがあると添付文書に明記されています。経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖の静脈内投与やグルカゴンの筋肉内投与などの処置が必要になります。
学会のRecommendationは、重症低血糖は遷延しうるため、投与量や患者背景に応じてブドウ糖の持続静注、入院や専門医へのコンサルテーションを考慮するとしています。血糖測定の回数が限られる在宅では、1回のブドウ糖摂取で戻っても再発しうるという性質を、家族や介護者にも伝えておく必要があります。
逆方向のリスクもあります。同Recommendationには、既存のインスリン製剤から切り替えた後に糖尿病性ケトアシドーシス(DKA。インスリン不足で血液が酸性に傾き、意識障害などを起こす急性の合併症)を発症した症例の報告が記載されています。発熱、嘔吐、強い口渇、意識の変容は受診の目安になります。
シックデイでは、食事がとれなくても自己判断で投与を中断せず主治医に連絡するよう指導します。すでに1週間分が入っており、今日だけ休むという選択が取れないためです。
実際に起きている投与ミスと、現場で求められていること
初回量のまま維持量として続いていた事例
日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業が2026年6月25日に公表した「共有すべき事例」2026年No.6の事例です。前回までランタスXR注ソロスターが1日1回で処方されていた患者に、今回からアウィクリ注 フレックスタッチが週1回で処方されました。
処方箋には100単位を週1回で継続投与と記載されていました。これは前治療の投与量の7倍量をさらに1.5倍にした量にあたり、初回投与量としては適切ですが、2回目以降の維持量としては過量です。薬局が疑義照会を行い、2回目以降は70単位へ変更となりました。推定される要因として、処方医が切り替え時の用量を勘違いしていた可能性が挙げられています。
同資料は、処方監査では初回量と維持量がともに適切かを、患者の状態や低血糖リスクを踏まえて慎重に判断する必要があるとしています。
製造販売業者が作成し、PMDAが2025年12月に掲載したアウィクリ注 フレックスタッチの適正使用のお願いでは、報告された投薬過誤が3つの型に整理されました。
週1回投与の薬剤を誤って連日投与した例、1クリック(1目盛)が1単位に相当すると誤認して過量投与となった例、そして他の週1回投与の糖尿病注射薬の使用経験がある人が、目盛を目視で確認せずに最大単回投与量に設定した例です。前の2つでは重篤な低血糖の発現が報告されており、3つ目も過量投与に至っています。
3つ目は見落とされやすい型です。マンジャロ・トルリシティ・オゼンピックの違いで扱っているような週1回のGLP-1受容体作動薬(インスリンの分泌を促すホルモンに似せた注射薬)に慣れていると、ダイアルを最後まで回す操作をそのまま持ち込む可能性があります。
同資料は、処方された投与量である場合を除き、最大単回投与量である300単位または700単位を選択しないよう求めています。
学会側の文書も同様です。日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会のRecommendation(2025年4月18日策定、2026年3月31日改訂)には、2025年1月30日から7月29日の市販後調査で重篤な低血糖が28例報告されたと記載されています。
その中には、毎食前あるいは毎日1回投与した事例、1クリックを1単位と誤認して10倍量を投与した事例が含まれていました。
同文書は、持効型インスリンからの切り替え時のみ1.5倍への増量が推奨されており、2回目以降も増量を続けないよう注意する、とも述べています。
使い分けで確認する患者背景の違い
1型糖尿病と小児・妊婦での扱いの差
1型糖尿病について、アウィクリの添付文書には、有効性および安全性を十分に理解し、連日投与のBasalインスリン等を用いたインスリン治療を選択することも検討したうえで、適用を慎重に考慮することと記載されています。トレシーバに同種の記載はありません。使えないという意味ではなく、連日投与という選択肢を検討したうえで慎重に判断する、という位置づけです。
小児では前提が変わります。アウィクリは小児等を対象とした臨床試験を実施していません。トレシーバには小児の用法・用量があり、維持量は通常1日0.5〜1.5単位/kg、小児1型糖尿病患者350例を対象とした国際共同第III相試験の成績も記載されています。禁忌かどうかではなく、比較の土台となるデータの有無が違います。
妊婦も同じ構図です。アウィクリは治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することとされ、妊婦に投与した臨床試験成績は得られていません。トレシーバには、妊娠中や周産期はインスリンの需要量が変化しやすいため用量に留意し、定期的に検査を行い投与量を調整すること、と具体的な注意が書かれています。
腎機能・肝機能障害では薬物動態の出方が違います。アウィクリは実測糸球体濾過量で層別した外国人データで、腎機能正常者に対する曝露量の比が中等度で1.21[1.04; 1.41]、重度で1.16[0.99; 1.36]でした。トレシーバは腎機能障害患者と健康成人で薬物動態プロファイルに違いが認められていません。
ただし重度の腎機能障害・肝機能障害では、両剤とも低血糖を起こすおそれがある患者として注意が要ります。相互作用は併用注意の薬剤を含めてほぼ同じで、併用禁忌はどちらも設定されていません。
よくある質問
- アウィクリの空打ちは何単位で行いますか
-
単位合わせダイアルを1クリック回して行うため、10単位です。ダイアルの刻み自体が10単位のため、連日投与のインスリンのような2単位の空打ちはできません。
- 総量300単位と総量700単位はどう使い分けますか
-
濃度はどちらも700単位/mLで同じで、違うのは1本の総量と使用中の保存期間です。総量300単位は6週間以内、総量700単位は12週間以内に使用します。投与量が少ない患者では、12週間で使い切れるかの確認が要ります。
- 処方日数の制限と薬価はどうなっていますか
-
アウィクリは2025年12月1日に投薬期間制限が解除されたと製造販売業者が公表しています(2026年8月時点)。薬価は総量300単位2,081円、総量700単位3,809円、トレシーバ注 フレックスタッチが1,559円です(令和8年8月13日適用)。
- 注射する部位によって効き方は変わりますか
-
アウィクリの皮下注射は大腿、上腕、腹部に行います。外国人データでは大腿部に対する最高血中濃度の比が腹部1.17、上腕1.24でしたが、血糖降下作用はいずれの部位でも同程度でした。同じ部位でも、注射箇所は前回から2〜3cm離します。
- トレシーバは1日のうち何時に打つのがよいのですか
-
添付文書は成人について「注射時刻は原則として毎日一定とする」としており、特定の時刻は指定されていません。生活に合わせて決めた時刻を毎日守る形になります。小児では注射時刻を毎日一定とすることとされています。
まとめ:アウィクリとトレシーバの違いを現場でどう押さえるか
回数の差は入り口にすぎません。実務で効いてくるのは、単位の決め方と、時間の桁の違いから来る運用ルールです。
- 切り替えの単位は、トレシーバが「同じ単位数から」、アウィクリが「1日量の7倍、初回のみ1.5倍」
- 1.5倍は初回1回限り。2回目は7倍量に戻す。前回処方と突き合わせて確認する
- アウィクリは1クリック=10単位。指示された単位数を再計算せずそのまま設定する
- 打ち忘れはアウィクリが4日間以上、トレシーバが8時間以上と桁が違う
- 低血糖は投与後2〜4日に多く、アウィクリでは回復が遅延するおそれがある
- アウィクリから戻すときは翌日から連日投与ではなく、血糖値を見て開始時期を決める
患者背景で線を引きやすいのは、1型糖尿病、小児、妊婦の3つです。血糖測定がどれだけできるか、シックデイに誰が気づけるかという体制の条件も、判断の材料になります。
アウィクリの処方箋を受けたら、まず確かめるのは初回か2回目以降かです。前回までのBasalインスリンの1日量が分かれば、7倍量と1.5倍量のどちらに当たるかは計算できます。判別できないときは疑義照会で確認します。
患者や家族への説明では、投与後2〜4日の血糖と、打ち忘れたときの4日ルールを先に伝えるほうが実際的です。
参考文献
- アウィクリ注 フレックスタッチ 総量300単位・総量700単位 添付文書(ノボ ノルディスク ファーマ、2026年4月改訂・第5版/PMDA掲載)
- トレシーバ注 フレックスタッチ 添付文書(ノボ ノルディスク ファーマ、2023年11月改訂・第4版/PMDA掲載)
- アウィクリ注 投与ガイド(医薬品リスク管理計画 医療従事者向け資材)(ノボ ノルディスク ファーマ、2026年4月作成/PMDA掲載)
- 日本糖尿病学会・日本老年医学会 合同委員会「高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation」(2025年4月18日策定、2026年3月31日改訂)
- 「アウィクリ注 フレックスタッチの適正使用のお願い」(ノボ ノルディスク ファーマ、2025年12月/PMDA掲載)
- 日本医療機能評価機構 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業「共有すべき事例」2026年No.6(2026年6月25日公表)
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト」(令和8年8月13日適用・注射薬)
- ノボ ノルディスク ファーマ プレスリリース「アウィクリ注 フレックスタッチ 総量700単位 新発売」(2025年12月3日)
