マンジャロ、トルリシティ、オゼンピックは、いずれも週1回の注射で使う2型糖尿病の薬です。作用の仕方も、用量の刻みも、打ち忘れたときの対応も薬ごとに違います。
この記事では、3剤の効能・効果と用法・用量、国内の臨床試験で示された内容、副作用の記載の差、そして打ち忘れや保存といった毎週の運用を整理します。各社の添付文書(2026年5月改訂版)と、厚生労働省・日本糖尿病学会の資料をもとに、薬剤師の視点でまとめました。
- 3剤の効能・効果と用法・用量、規格の違いを一覧で確認できる
- 国内の臨床試験がそれぞれ何と比べたもので、どこまで言えるのか
- 重大な副作用の記載差と、受診をすすめる目安
- 打ち忘れ・保存・注射針という毎週の運用がどう違うか
マンジャロ・トルリシティ・オゼンピックの違いを一覧で確認する
3剤はいずれも週1回の皮下注射で使う2型糖尿病の治療薬です。一般名はマンジャロがチルゼパチド、トルリシティがデュラグルチド(遺伝子組換え)、オゼンピックがセマグルチド(遺伝子組換え)です。
共通するのは、インクレチンという消化管ホルモンの働きを利用している点です。インクレチンは食事をとると腸から出て、血糖が高いときだけインスリン分泌を促します。代表がGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)で、マンジャロは持続性GIP/GLP-1受容体作動薬、他の2剤は持続性GLP-1受容体作動薬です。
そして最も重要な共通点が、承認された効能又は効果です。3剤とも「2型糖尿病」だけで、肥満症や痩身の適応はありません。禁忌も同じ3項目です。つまり3剤の違いは、適応ではなく用法・用量と注意事項の違いとして現れます。
3剤の違いを一覧表で確認する
各社の添付文書(いずれも2026年5月改訂版)から、現場で照合の必要が出やすい項目を並べます。
| 項目 | マンジャロ | トルリシティ | オゼンピック皮下注2mg |
|---|---|---|---|
| 一般名 | チルゼパチド | デュラグルチド(遺伝子組換え) | セマグルチド(遺伝子組換え) |
| 分類 | 持続性GIP/GLP-1受容体作動薬 | 持続性GLP-1受容体作動薬 | 持続性GLP-1受容体作動薬 |
| 規格 | 2.5・5・7.5・10・12.5・15mgの6規格 | 0.75・1.5mgの2規格 | 1筒1.5mL中2.01mg |
| 開始用量と維持用量 | 2.5mgで開始し4週間後に5mg | 0.75mg(開始と同時に維持用量) | 0.25mgで開始し4週間後に0.5mg |
| 最大用量 | 週1回15mg | 週1回1.5mg | 週1回1.0mg |
| 販売開始 | 2023年4月(2.5・5mg)、2023年6月(7.5〜15mg) | 2015年9月(0.75mg)、2025年7月(1.5mg) | 2022年5月 |
| 打ち忘れの許容間隔 | 72時間 | 72時間 | 48時間 |
| 室温で置ける期間 | 30℃以下・外箱のまま21日以内 | 遮光・30℃以下で14日以内 | 使用開始後、遮光の室温で8週間以内 |
| 注射針 | 固定注射針付き(付け外し不要) | 固定注射針付き(付け外し不要) | A型専用注射針を別に用意する |
| その他の区分 | 劇薬・処方箋医薬品 | 生物由来製品・劇薬・処方箋医薬品 | 劇薬・処方箋医薬品 |
作用の仕組みはどこが違うのか
2型糖尿病では、食後のインスリン分泌が足りず、血糖を上げる側のホルモンであるグルカゴンも下がりにくくなっています。
インクレチンは血糖が高いときだけ働くため単独では低血糖を起こしにくい一方、体内のGLP-1はDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という分解酵素で短時間に壊されます。壊されにくいように作り替えて薬理学的な量を補うのがこの3剤で、その仕掛けの中身が違います。
マンジャロ:GIP受容体とGLP-1受容体の両方に働く
添付文書18.1には「本剤はGIP受容体及びGLP-1受容体のアゴニストであり、両受容体に結合して活性化することで、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる」と記載されています。アゴニストとは、受容体に結合してスイッチを押す側の物質のことです。
中身はC20脂肪酸側鎖を含む39個のアミノ酸からなるペプチドで、この側鎖が血液中のアルブミン(いろいろな物質を運ぶ血漿タンパク)と結合します。結合率は99.06%です。つまりマンジャロは、GIPとGLP-1の2つのスイッチを同時に押せるようにしたうえで、アルブミンにつかまらせて血中に長くとどまらせる設計です。
トルリシティとオゼンピック:同じGLP-1単独でも、長持ちさせる仕掛けが違う
トルリシティは、アミノ酸を置換したヒトGLP-1アナログと改変ヒトIgG4のFc領域をつないだ融合タンパク質です。IgG4は抗体の一種で、Fc領域はその根元にあたります。血中に長くとどまる抗体の性質を借りた形です。
275個のアミノ酸残基からなるサブユニット2個で構成される糖タンパク質で、分子量は約63,000です。アミノ酸置換でDPP-4に分解されにくくなり、分子量が大きくなったことで吸収速度と腎クリアランス(腎臓から捨てられる速さ)も下がります。チャイニーズハムスター卵巣細胞から産生されるため、3剤のうちトルリシティだけが生物由来製品です。
オゼンピックは31個のアミノ酸残基からなる修飾ペプチドで、分子量は4113.58です。アルブミンに結合して分解の遅延と腎クリアランスの低下を示すと考えられており、あわせてアミノ酸置換によりDPP-4への抵抗性を持ちます。
半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)は、日本人のデータでマンジャロが約5〜6日、トルリシティが4.5日(108時間)です。オゼンピックは日本人健康男性への13週間反復投与時の定常状態で、0.5mgが145時間、1.0mgが163時間でした。
つまり、いずれも半減期が4日から7日ほどあり、これが週1回で効果が途切れない根拠です。長持ちのさせ方は、トルリシティが「大きくして捨てられにくくする」、マンジャロとオゼンピックが「アルブミンにつかまる」という違いになります。
効能・効果と用法・用量の違い
3剤の「効能又は効果」は、いずれも「2型糖尿病」の1行だけです。続く「効能又は効果に関連する注意」も3剤で同じ文言で、「本剤の適用は、あらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行った上で効果が不十分な場合に限り考慮すること」と記載されています。
肥満症の承認薬は別にあり、美容・痩身目的は適応外にあたる
肥満症で承認されているのは、同じ成分の別製品です。セマグルチドではウゴービ皮下注、チルゼパチドではゼップバウンド皮下注アテオスが、それぞれ肥満症を効能又は効果として承認されています。
ウゴービには厳しい条件が付いています。高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、BMI(体重と身長から算出する体格の指標)が27kg/m²以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害を有するか、BMIが35kg/m²以上に該当する場合に限られます。
ゼップバウンドには、どの施設のどういう患者に使うかの要件を国が示した最適使用推進ガイドラインが定められています。
成分が同じであることは、併用の禁止という形でも現れます。マンジャロには「ゼップバウンド等他のチルゼパチド含有製剤と併用しないこと」、オゼンピックには「ウゴービ等他のセマグルチド(遺伝子組換え)含有製剤と併用しないこと」と記載されています。
この3剤を美容や痩身の目的で使うことは、適応外使用にあたります。厚生労働省は令和8年6月16日付の通知(医薬安発0616第16号ほか)で、一部の医療機関でそうした実態が確認されていること、適応外で使用された場合の安全性および有効性は確認されていないことを示しました。
適応外使用は保険給付の対象にならず、自由診療になります。厚生労働省は別に注意喚起を出しており、美容・痩身・ダイエット等の目的で適応外使用された場合、重篤な健康被害が生じても救済制度の救済給付を受けられない可能性が非常に高いとしています。
用量の刻みはマンジャロ6段階、オゼンピック3段階、トルリシティ2段階
マンジャロは週1回5mgを維持用量とし、2.5mgから開始して4週間後に5mgへ増量します。5mgで効果不十分な場合は4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量でき、最大用量は週1回15mgまでです。
オゼンピックは週1回0.5mgを維持用量とし、0.25mgから開始して4週間後に0.5mgへ増量します。0.5mgを4週間以上投与しても効果不十分な場合に、週1回1.0mgまで増量でき、用量はペンのダイヤルで設定します。
トルリシティは0.75mgを週1回投与し、患者の状態に応じて1.5mgへ増量できます。開始用量がそのまま維持用量にあたるため、漸増の期間がありません。
細かく用量を調整できるのはマンジャロで、手順が最も少ないのがトルリシティです。増量の速さについては、マンジャロの添付文書7.3に「胃腸障害等の発現により忍容性が得られない患者では減量又は漸増の延期を考慮すること」とあり、急がない判断が承認事項として書かれています。
2025年7月に加わったトルリシティ1.5mgで何が変わったか
トルリシティは長く0.75mgの1規格だけで、用量調整ができない薬という位置づけでした。2025年7月にトルリシティ皮下注1.5mgアテオス(承認番号30600AMX00141)の販売が始まり、用法及び用量に「患者の状態に応じて1.5mgを週に1回投与に増量できる」という一文が入っています。
「0.75mgで固定」と説明してしまうと、増量の選択肢があること自体が伝わりません。増量の可否を決めるのは主治医ですが、選択肢が2段階になった事実は共有しておきたいところです。
効果の違いを、比較できる範囲で正確に見る
効果を語るときに必ず確認したいのは「何と比べた数字か」です。国内の第III相試験(承認申請の根拠になる最終段階の臨床試験)は、3剤それぞれで対照薬も期間も違います。
マンジャロの国内試験はデュラグルチド0.75mgとの比較(SURPASS J-mono)
食事・運動療法で血糖コントロールが不十分な日本人2型糖尿病患者636例を対象に、二重盲検下でマンジャロ5mg(159例)、10mg(158例)、15mg(160例)、デュラグルチド0.75mg(159例)を週1回52週間投与した試験です。マンジャロはいずれの用量も2.5mgで開始し、4週間ごとに2.5mgずつ増量しています。
主要評価項目はHbA1c(過去1〜2ヵ月の平均的な血糖状態を示す検査値)の52週時までの変化量で、ベースライン値は順に8.17%、8.20%、8.20%、8.15%でした。
52週時の変化量(最小二乗平均±標準誤差)は、5mg群が−2.37±0.07%、10mg群が−2.55±0.07%、15mg群が−2.82±0.07%、デュラグルチド0.75mg群が−1.29±0.07%でした。
群間差(本剤からデュラグルチドを引いた値、95%信頼区間)は5mgが−1.09[−1.27, −0.90]、10mgが−1.27[−1.45, −1.08]、15mgが−1.53[−1.71, −1.35]で、いずれも優越性が検証されています(p<0.001)。
体重の変化量(最小二乗平均±標準誤差)は、5mg群が−5.8±0.41kg(ベースライン78.6±16.4kg)、10mg群が−8.5±0.42kg(79.1±13.7kg)でした。15mg群は−10.7±0.41kg(78.9±14.3kg)、デュラグルチド群は−0.5±0.41kg(76.5±13.2kg)です。
比べた相手はトルリシティの0.75mgであって、オゼンピックではありません。
トルリシティ1.5mgとオゼンピックの国内試験は、それぞれ何と比べたものか
トルリシティ1.5mgの根拠は、同じトルリシティの0.75mgを対照にした国内第III相の二重盲検比較試験です。経口血糖降下薬単剤で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者586例(1.5mg群391例、0.75mg群195例)に週1回52週間投与しています。
26週時のHbA1c変化量(最小二乗平均値±標準誤差)は1.5mg群が−1.53±0.04%、0.75mg群が−1.25±0.06%で、群間差は−0.29%(95%信頼区間 −0.43%, −0.14%)でした。1.5mgの0.75mgに対する優越性が示され、低下は両群とも52週時まで持続しています。
オゼンピックの国内第III相試験の対照は、飲み薬のシタグリプチン100mgです。日本人2型糖尿病患者308例に、オゼンピック0.5mg(103例)、1.0mg(102例)、シタグリプチン100mg 1日1回(103例)を30週間投与した非盲検の試験です。
30週時のHbA1c変化量は0.5mg群が−1.93±0.97%、1.0mg群が−2.14±1.00%、シタグリプチン群が−0.83±0.82%で、群間差(95%信頼区間)は0.5mgが−1.13[−1.32, −0.94]、1.0mgが−1.44[−1.63, −1.24]でした。
体重の変化量(最小二乗平均±標準誤差)は0.5mg群が−2.2±0.29kg(ベースライン平均67.8kg)、1.0mg群が−3.9±0.30kg(70.8kg)、シタグリプチン群が0.0±0.29kg(69.4kg)です。
3剤の数字を横に並べられない4つの理由
この3つの数字を並べて優劣を語ることはできません。理由は4つあります。
- 対照薬が違う。マンジャロはデュラグルチド0.75mg、オゼンピックはシタグリプチン100mgと比べている
- 試験期間が違う。マンジャロは52週、オゼンピックは30週の評価である
- 盲検性が違う。マンジャロの試験は二重盲検、オゼンピックの国内実薬対照試験は非盲検である
- ベースライン体重が違う。マンジャロの試験は約76〜79kg、オゼンピックの国内試験は約68〜71kgで、減少量はもとの体重の影響を強く受ける
最も大きな理由は、国内で3剤を直接比較した第III相試験が存在しないことです。効果の大小として言えるのは「マンジャロはデュラグルチド0.75mgを上回った」「トルリシティ1.5mgは0.75mgを上回った」「オゼンピックはシタグリプチン100mgを上回った」までです。
「どちらが効くのか」と聞かれたときは、この線を示したうえで、判断は主治医が病態と併用薬をみて行うものだと伝えるのが正確です。
副作用と注意点はどこが違うのか
最も多いのは消化器症状です。SURPASS J-monoでの副作用発現頻度は、マンジャロ5mg群52.8%(84/159例)、10mg群51.9%(82/158例)、15mg群60.6%(97/160例)、デュラグルチド0.75mg群37.1%(59/159例)でした。
主な副作用は、5mg群で便秘13.8%(22/159例)、食欲減退13.8%、悪心11.9%(19/159例)、下痢10.1%(16/159例)です。
15mg群では食欲減退21.3%(34/160例)、悪心19.4%(31/160例)、便秘11.9%(19/160例)と、用量が上がるほど頻度が高くなる傾向があります。トルリシティも52週時までの副作用発現割合が1.5mg群37.6%(147/391例)、0.75mg群27.7%(54/195例)と同じ傾向です。
つまり消化器症状は、薬の種類よりも用量をどこまで上げるかに強く連動します。低血糖はSURPASS J-monoで重症例の報告がなく、血糖値54mg/dL未満の低血糖も15mg群の2/160例(1.3%)にとどまりました。ただしインスリン製剤やスルホニルウレア剤(SU剤。インスリン分泌を促す飲み薬)との併用時は、意識消失を来す重篤な低血糖の報告があります。
なお3剤とも「腎機能障害患者」「肝機能障害患者」という項目自体が置かれておらず、腎機能や肝機能の程度に応じた用量調節の規定はありません。ただし下痢や嘔吐からの脱水で急性腎障害に至った例が報告されており、用量ではなく脱水として警戒するのが正確な理解です。
重大な副作用の項目立ての違い(トルリシティだけに立っている2項目)
| 重大な副作用 | マンジャロ | トルリシティ | オゼンピック |
|---|---|---|---|
| 低血糖 | 頻度不明 | 頻度不明 | 頻度不明 |
| 急性膵炎 | 0.1%未満 | 0.1% | 頻度不明 |
| 胆嚢炎・胆管炎・胆汁うっ滞性黄疸 | あり | あり | あり |
| イレウス | 頻度不明 | 頻度不明 | 頻度不明 |
| アナフィラキシー・血管性浮腫 | 頻度不明 | 頻度不明 | 記載なし |
| 重度の下痢、嘔吐 | 記載なし | 頻度不明 | 記載なし |
| 肝機能障害 | 記載なし | 頻度不明 | 記載なし |
「重度の下痢、嘔吐」と「肝機能障害」が重大な副作用として独立しているのは、3剤のうちトルリシティだけです。前者には、脱水を続発して急性腎障害に至った例の報告が添えられています。
ただし「トルリシティのほうが危ない」という意味ではなく、項目の立て方は報告の集まり方と承認の経緯で製品ごとに決まります。下痢や嘔吐からの脱水と急性腎障害への注意は、マンジャロとオゼンピックにも重要な基本的注意として記載されています。
受診をすすめる目安は3剤に共通します。嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛(急性膵炎の初期症状)、高度の便秘・腹部膨満・持続する腹痛・嘔吐(イレウス)、腹痛などの腹部症状(胆石症や胆嚢炎)です。いずれも使用を中止して速やかに受診するよう、あらかじめ伝えておきます。
体重が減ること自体が不利に働く人がいる点も見落とせません。マンジャロの添付文書8.9には、過度の体重減少がみられた場合は減量又は投与中止を考慮すること、投与開始時のBMIが23kg/m²未満の患者での有効性及び安全性は検討されていないことが記載されています。
日本糖尿病学会のインクレチン関連薬の安全な使用に関するRecommendation 第2版(2024年5月18日)も、高齢者にチルゼパチドを開始後に死亡に至った症例の報告と、BMI 23kg/m²未満の人や75歳以上での評価が十分でないことを挙げています。妊娠中は3剤とも投与せずインスリン製剤を使用しますが、妊娠を考えている段階での指示は薬ごとに異なります。
全身麻酔・深い鎮静下での誤嚥(3剤とも2026年5月改訂で追記)
3剤とも2026年5月改訂で、「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」に全身麻酔又は深い鎮静下の患者の項が新設されました。マンジャロが9.1.6、トルリシティが9.1.5、オゼンピックが9.1.5で、いずれも同じ趣旨です。
マンジャロの記載は次のとおりです。「GLP-1受容体作動薬又はGIP/GLP-1受容体作動薬を投与中の患者において、術前の絶食指示を遵守したにもかかわらず、全身麻酔又は深い鎮静下で誤嚥が生じた症例が報告されている。本剤は胃内容排出遅延作用があり、胃内容物残留リスクが高まるおそれがある」
胃内容排出遅延とは、胃の中身が腸へ送られるのが遅くなることです。3剤ともこの作用を持つため、絶食していても胃に内容物が残る可能性があります。手術・内視鏡・歯科の鎮静下処置が決まったら、これらの薬を使っていることを必ず申し出てもらう必要があります。
ただし何日前に休薬するかは添付文書に規定がなく、要否と日数は施設のプロトコルと主治医・麻酔科の判断によります。日数を先回りして伝えないことが、ここでは大切です。
オゼンピックにだけ記載されている視神経の病気(NAION)
オゼンピックの添付文書15.1には、次の記載があります。「本剤との因果関係は明らかではないが、海外で実施された2型糖尿病患者を対象とした複数の観察研究において、セマグルチド投与後に非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)の発現リスクの上昇が報告されている」
NAIONは、視神経に向かう血流が滞って片方の目の見え方が急に悪くなる病気です。マンジャロとトルリシティの添付文書には、同様の記載は確認できません。記載があること自体は「その薬で起こる」という意味ではなく、3剤の記載差として把握しておき、見え方の急な変化を訴えた場合には受診をすすめる、という使い方が実際的です。
なお甲状腺C細胞腫瘍は3剤とも扱いがそろっており、甲状腺髄様癌の既往や、甲状腺髄様癌・多発性内分泌腫瘍症2型の家族歴がある患者での安全性は確立していません。
毎週の実務で差が出るところ(打ち忘れ・保存・針)
3剤とも添付文書7.1に「同一曜日に投与させること」と記載されています。ここから先の運用が分かれます。
打ち忘れたときの許容間隔は72時間と48時間に分かれる
マンジャロとトルリシティは、次回投与までの期間が3日間(72時間)以上あれば気づいた時点で直ちに投与し、その後はあらかじめ定めた曜日に投与します。72時間未満であれば投与せず、次の定めた曜日まで待ちます。
オゼンピックはこの基準が2日間(48時間)です。曜日を変更するときの間隔も同じで、マンジャロとトルリシティは前回投与から少なくとも72時間、オゼンピックは48時間以上あけます。
つまり、同じ「打ち忘れたときは」の説明でも、薬が変わると答えが変わります。72時間で覚えていた人がオゼンピックに変わると、打たなくてよい日に打つ側に間違えます。切り替え時にこの基準をもう一度確認する運用にしておくと安全です。
室温で置ける期間は21日・14日・使用開始後8週間
3剤とも保存は2〜8℃で、凍結した場合は使用しません。違うのは室温に出せる条件と期間です。
マンジャロは、室温で保存する場合は30℃を超えない場所で外箱から出さずに保存し、21日以内に使用します。トルリシティは室温で保存する場合14日以内で、遮光して30℃を超える場所には置きません。
オゼンピックは考え方が異なり、使用開始後は遮光して室温(冷蔵庫の2〜8℃も含む)に保管し、8週間以内に使用します。1本を複数回に分けて使うペン型のため、期間が「使用開始後」から数えられます。
旅行や帰省で持ち歩く相談では、薬剤名を確認してから期間を答える必要があります。マンジャロは外箱ごと持ち歩く点、トルリシティは遮光が条件である点が、口頭では抜けやすい部分です。
針が付いているか、別に用意するか
マンジャロとトルリシティは、固定注射針付きシリンジを注入器にセットしたコンビネーション製品(キット製品)で、患者が針を取り付ける操作は要りません。
オゼンピック皮下注2mgは複数回使用のペン型で、添付文書14.1.1に「本剤はJIS T 3226-2に準拠したA型専用注射針を用いて使用すること」と記載されています。
JISは日本産業規格のことで、A型はペン型注入器に取り付ける針の規格を指します。装着時に液漏れが認められた場合は新しい針に取り替えること、注射後は必ず針を外すこと、針は毎回新しいものを注射直前に取り付けることも記載されています。
つまり、針の購入・付け外し・廃棄という手順が加わるのはオゼンピックだけです。手指の細かい動作が難しい人や視力が落ちている人では、導入時に一度、実際の操作を見て確認しておきたいところです。
よくある質問
- マンジャロとオゼンピックを一緒に使うことはできますか
-
3剤を併用した臨床試験はなく、有効性と安全性は確認されていません。添付文書には、DPP-4阻害剤との併用についても臨床試験成績がなく有効性および安全性は確認されていないと記載されています。併用の可否を判断するのは主治医です。
- インスリンからこれらの注射に切り替えてもよいのでしょうか
-
3剤とも「本剤はインスリンの代替薬ではない」と記載されています。日本糖尿病学会は、インスリンを中止して切り替えたために糖尿病ケトアシドーシスを発症し、死亡に至ったと考えられる症例を報告しています。内因性インスリン分泌の確認が前提で、判断は主治医が行います。
- 「オゼンピック顔」は副作用として認められているものですか
-
正式な医学用語ではなく、メディア由来の呼び名です。3剤の添付文書に、顔貌の変化を副作用として記載した項目は確認できません。急激な体重減少に伴う現象という説明が広く行われていますが、国内の公的資料での記述は確認できませんでした。
- やめたら体重は戻るのでしょうか
-
中止後に体重が戻る傾向は報告されていますが、その根拠は肥満症を対象にした試験のもので、2型糖尿病の治療としてこの3剤を中止した場合のデータではありません。3剤とも中止後に効果が持続する可能性があると記載されており、中止の判断は主治医が行います。
- いま供給は安定していますか
-
厚生労働省の令和8年6月16日付通知に、いずれのGLP-1受容体作動薬等も通常出荷であり供給状況に問題ないと記載されています(2026年6月時点)。供給状況は変わりうるため、最新は各製造販売業者の情報で確認してください。
まとめ:マンジャロ・トルリシティ・オゼンピックの違いをどう説明するか
3剤は「どれが優れているか」ではなく、「承認された用法・用量と注意事項がどこまで違うか」で理解すると、説明の筋が通ります。
- 効能又は効果は3剤とも2型糖尿病のみ。肥満症の承認薬はウゴービとゼップバウンドで別の製品
- マンジャロはGIPとGLP-1の両方、トルリシティとオゼンピックはGLP-1のみに作用する
- 用量の刻みは6段階・3段階・2段階。トルリシティは2025年7月に1.5mgが加わった
- 国内に3剤を直接比較した第III相試験はなく、効果の大小は各試験の対照薬との間でしか言えない
- 打ち忘れの許容間隔は72時間・72時間・48時間。室温で置ける期間は21日・14日・使用開始後8週間
いちばん誤解を生みにくい答え方は、効果の大小から入らないことです。国内の試験は比べている相手がそれぞれ違うため、ここを飛ばすと根拠のない順位づけになります。
薬剤師として実務で最初に確認したいのは3点です。1つめは併用薬で、インスリン製剤やSU剤、グリニド薬(速効型インスリン分泌促進剤)があれば低血糖への備えを具体的に確認します。飲み薬を併用している場合は、SGLT2阻害薬6成分の適応と用量を比較した記事やツイミーグとメトホルミンの違いを整理した記事も、薬ごとの性格を押さえる材料になります。
2つめは打ち忘れの基準で、切り替え直後は72時間と48時間の取り違えが起こりやすいところです。
3つめは、消化器症状が出たときの行動です。悪心や下痢が続くときに我慢して増量を続けるのではなく、脱水と過度の体重減少を避けるために早めに相談してもらうと伝えておきます。
高齢である、BMIが低い、食事量が少ない場合はとくに注意が要ります。妊娠を考えている場合や手術・内視鏡の予定がある場合も、事前に申し出てもらう必要があります。増量の判断も中止の判断も、行うのは主治医です。
参考文献
- マンジャロ皮下注2.5mgアテオス ほか 添付文書(日本イーライリリー、2026年5月改訂・第10版/PMDA掲載)
- トルリシティ皮下注0.75mgアテオス/1.5mgアテオス 添付文書(日本イーライリリー、2026年5月改訂・第11版/PMDA掲載)
- オゼンピック皮下注2mg 添付文書(ノボ ノルディスク ファーマ、2026年5月改訂・第6版/PMDA掲載)
- 厚生労働省「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」(医薬安発0616第16号ほか、令和8年6月16日)
- 厚生労働省「マンジャロ・リベルサスなどの2型糖尿病治療薬の美容・痩身目的での使用による健康被害にご注意ください」(医薬局医薬安全対策課ほか、2026年8月確認時点)
- 日本糖尿病学会「インクレチン関連薬の安全な使用に関するRecommendation 第2版」(2024年5月18日)
- 厚生労働省「最適使用推進ガイドライン チルゼパチド(販売名:ゼップバウンド皮下注)〜肥満症〜」(令和7年3月/令和8年5月改訂)
