ラビジェルと手ピカジェルは、どちらも手指にすり込んで使う速乾性のアルコール消毒剤です。ただ、業務用と市販品という以外に何がどう違うのかとなると、成分表示を見比べてもすぐには掴めません。手ピカジェルに黄色とピンクがあり、ラビジェルに無印とAがあることも、話をややこしくしています。
この記事では、製造販売元、有効成分の濃度、添加物とpHの設計、法律上の区分、そしてノロウイルスへの向き合い方までを並べて整理しました。根拠にしたのは、添付文書とインタビューフォーム、製造販売元が公表している試験成績、厚生労働省と消費者庁の公開情報です。
- ラビジェルと手ピカジェルの製造販売元と、有効成分エタノールの濃度
- 2つを分けている「リン酸を配合した弱酸性の設計かどうか」という軸
- 手ピカジェルの黄色とピンクの対応と、ラビジェル系に対応するのはどちらか
- 製品選びより結果に効く、1回の使用量と指先のすり込み
ラビジェルと手ピカジェルの違いを、先に一枚で整理する
ラビジェルは病院や施設のディスペンサーに入っているもの、手ピカジェルはドラッグストアで買えるもの。この2つを添付文書レベルで並べると、想像とはかなり違う姿が見えてきます。
どちらも同じ健栄製薬がつくっている
ラビジェル、ラビジェルA、ラビショットA、手ピカジェル、手ピカジェルプラス、手ピカジェルP、手ピカスプレー。名前はばらばらですが、これらはすべて健栄製薬株式会社が製造販売元です。競合する2社の製品ではありません。
分かれているのは流通の入口です。ラビジェル系は医療機関・介護施設に向けたライン、手ピカジェル系はドラッグストアやコンビニに向けた一般ラインとして名前が分けられています。ラビジェルは第3類医薬品として一般にも流通していますが、店頭に置いているかどうかは店舗によって異なります。
差が出るのは包装です。ラビジェルAは250mLと500mL、ラビショットAは500mLと1,000mLで、いずれもディスペンサーへの装着が前提。ラビジェルは60mLの携帯用のほか、250mLと500mLが手押し式ポンプ付、600mLはディスペンサーUCで使えます。手ピカジェルは、ポンプ式300mL、付け替え用300mL、携帯用60mLという家庭サイズが中心です。
つまり「業務用のほうが強い」のではなく、「量と設置方法が業務向けにできている」というのが、この分かれ方の実態になります。
有効成分の濃度は同じで、違うのは添加物とpHの設計
先に結論を置きます。有効成分はどちらもエタノール(C2H6O)76.9〜81.4vol%で、ここに挙げた7製品すべてで同じ規格です。vol%(容量パーセント)は、液体全体の体積のうちエタノールが占める体積の割合を指します。
この76.9〜81.4vol%という幅は、日本薬局方(医薬品の規格を定めた公的な基準書)で「消毒用エタノール」と呼ばれる濃度帯そのものです。ですから、現場でいちばん多く受ける「業務用のほうがアルコールが濃いのか」という質問への答えは、成分表示を見るかぎり濃度は同じ、になります。
もう一歩踏み込むと納得してもらいやすくなります。エタノールは濃いほど効くわけではありません。WHOの手指衛生ガイドラインでは、殺菌効果が得られるのは60〜80%あたりで、90%を超えると効果は低下するとされています。
理由は水です。タンパク質を変性させる反応に水が要るため、無水エタノール(99.5vol%以上)は変性させきる前に蒸発してしまいます。76.9〜81.4vol%は薄めた結果ではなく、効かせるために水を残した濃度だということです。
違いは添加物のほうにあります。リン酸を配合して製剤を弱酸性に振ってあるかどうかで、性格が二手に分かれます。pH(水素イオン指数)は酸性・中性・アルカリ性の度合いを表す数値で、7が中性、数字が小さいほど酸性が強くなります。
| 製品名 | 区分 | 剤形 | リン酸(弱酸性設計) | 効能効果 |
|---|---|---|---|---|
| ラビジェル | 第3類医薬品 | ジェル | あり | 手指の殺菌・消毒 |
| ラビジェルA | 指定医薬部外品 | ジェル | あり | 手指・皮膚の洗浄・消毒 |
| ラビショットA | 指定医薬部外品 | 液 | あり | 手指・皮膚の洗浄・消毒 |
| 手ピカジェルプラス | 指定医薬部外品 | ジェル | あり | 手指・皮膚の洗浄・消毒 |
| 手ピカスプレー | 指定医薬部外品 | 液 | あり | 手指・皮膚の洗浄・消毒 |
| 手ピカジェル | 指定医薬部外品 | ジェル | なし | 手指・皮膚の洗浄・消毒 |
| 手ピカジェルP | 第3類医薬品 | ジェル | なし | 手指の殺菌・消毒 |
表の右2列が、この記事で扱う違いのほぼすべてです。なお、アルコール濃度そのものの考え方は手指消毒アルコールの有効濃度と病原体別の使い分けで整理しています。
違いは添加物にある:リン酸で弱酸性にした製剤か、そうでないか
ラビジェルはリン酸を配合し、pH3.0〜4.0の弱酸性
ラビジェルの添加物は、リン酸、グリセリン、アラントイン、ミリスチン酸イソプロピル、グリセリン脂肪酸エステル、パラオキシ安息香酸エチル、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩、ヒドロキシプロピルセルロースの8種類です。
先頭のリン酸が、製剤を酸性側に振るために入っています。ラビジェルのインタビューフォーム(添付文書を補うために製造販売元が作る製品解説書)には、製剤のpHが3.0〜4.0と記載されています。中性の7からはっきり離れた酸性側です。
残りの添加物のうち、グリセリン、アラントイン、ミリスチン酸イソプロピルは湿潤剤として手荒れ防止に配慮したもの、ヒドロキシプロピルセルロースはジェル状にするためのゲル化剤です。液状のラビショットAでは、このゲル化剤だけが入っていません。
手ピカジェル(無印)はヒアルロン酸Naなどを配合している
手ピカジェル(無印)の添加物は、ヒアルロン酸Na、グリセリン、トコフェロール酢酸エステル、カルボキシビニルポリマー、2,2′,2”-ニトリロトリエタノール(トリエタノールアミン)の5種類です。リン酸は入っていません。
手ピカジェルPのインタビューフォームによれば、この処方はヒアルロン酸ナトリウムやグリセリンを湿潤剤として配合し、皮膚刺激の強いベンザルコニウム塩化物を含まないことで、手荒れ防止に配慮した設計とされています。
手ピカジェル(無印)のpHの実測値は、添付文書にもインタビューフォームにも記載がありません(インタビューフォームのpHの欄は「特になし」)。したがって「中性です」と数値で言い切ることはできません。書けるのは「リン酸による弱酸性の設計ではない」というところまでです。
なぜpHを酸性に寄せるのか
この設計の狙いは、エタノールの苦手な相手を埋めることです。エタノールは、脂質の膜(エンベロープ)をまとったウイルスには速く働く一方、この膜を持たないウイルス、いわゆるノンエンベロープウイルスには効果が得られにくいと報告されています。ノロウイルスやロタウイルスがその代表です。
ただし膜がなければ一律に効きにくい、というわけではありません。抵抗性はウイルスごとに強弱があり、後半で示す試験でもアデノウイルス2型は対照の日局消毒用エタノールで15秒以内でした。「ノンエンベロープなら効かない」と丸ごと覚えると説明を誤ります。
そこで何をしたかというと、エタノールの濃度は76.9〜81.4vol%のまま変えず、添加物としてリン酸を加えて製剤のpHを酸性側にずらしました。ラビジェルではpH3.0〜4.0です。エタノール自体の作用機序は、インタビューフォームでは「菌体溶性蛋白の変性、溶菌、原形質阻害、代謝機能阻害」と記載されています。微生物のタンパク質を変性させて壊す、という働き方です。
つまり、アルコールを濃くして押し切るのではなく、アルコールが働く場を酸性側に振ることで、これまで届きにくかった相手にも届かせようという設計です。製造販売元も「リン酸を配合しpHを弱酸性にすることで、有効成分エタノールの抗微生物効果を高めました」と説明しています。
酸性側に寄せるとノンエンベロープウイルスに作用しやすくなる詳しい分子レベルの機構までは、製造販売元の説明の範囲を超えて確定しているわけではありません。設計思想としてはここまで、と受け取っておくのが正確です。
手ピカジェルの黄色とピンクは何が違うのか
黄色が手ピカジェルプラス、ピンクが手ピカジェル
店頭で並んでいる2つの色の対応は、黄色が手ピカジェルプラス、ピンクが手ピカジェル(無印)です。製造販売元の公式アカウントも、黄色の手ピカジェルプラスはpHを弱酸性にして効力を高めた製品である、と回答しています。
ただ、パッケージの色はいつ変わってもおかしくありません。確実なのは、製品名と成分表示で見分ける方法です。添加物の欄に「リン酸」があれば手ピカジェルプラス、「ヒアルロン酸Na」から始まっていれば手ピカジェル(無印)になります。
一般向けでラビジェルに対応する位置にあるのは手ピカジェルプラス
手ピカジェルプラスの添加物は、リン酸、グリセリン、アラントイン、ミリスチン酸イソプロピル、グリセリン脂肪酸エステル、パラオキシ安息香酸エチル、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル・DL-ピロリドンカルボン酸塩、ヒドロキシプロピルセルロース。ラビジェルAの添加物と記載が一致します。
手ピカジェルプラスは2015年11月11日発売の指定医薬部外品で、「エタノールのpHを酸性にすることで抗微生物効果を高め、従来の消毒液では効きにくかったノンエンベロープウイルスなど、より広範囲のウイルス・細菌に対しても効果を発揮する」と製造販売元が説明しています。設計の考え方はラビジェル系と同じ系列に置かれています。
一致するのは添加物の「記載」であって、配合量は公表されていません。したがって「中身は同じ」とは言えません。書けるのは、添加物の記載が一致し、弱酸性という設計の考え方が共通している、というところまでです。
施設でラビジェルやラビジェルAを使っている人から「家でも同じようなものを」と相談されたら、選び先は無印ではなく手ピカジェルプラスです。ただし同一の製品ではないので、「同じもの」という言い方は避けてください。
効き方はどこまで違うのか、試験データで確かめる
ラビジェルのウイルス不活化試験(in vitro懸濁法)
ラビジェルには、日局消毒用エタノール(日本薬局方の消毒用エタノール)を対照にしたウイルス不活化効果試験の成績があります。in vitro(イン・ビトロ)は試験管内という意味で、ここでは製剤とウイルス液を試験管の中で混ぜる懸濁法が使われています。
ウイルス液0.1mLを供試製剤0.9mLに接種して撹拌し、15秒後・30秒後・1分後にそれぞれ0.1mLを取ってイーグル培地(MEM)0.9mLに加えて反応を止めます。そのうえでウイルス感染価をTCID50(培養細胞の50%に感染が成立するウイルス量)で測定し、99.9%以上の不活化に要した時間を評価しています。
| 供試ウイルス | 膜の有無 | ラビジェル | 日局消毒用エタノール |
|---|---|---|---|
| ネコカリシウイルス(F9株/ノロウイルス代替) | なし | ≦15秒間 | >1分間 |
| マウスノロウイルス(Osaka-106株/ノロウイルス代替) | なし | ≦15秒間 | ≦15秒間 |
| ロタウイルスA型(Wa株) | なし | ≦15秒間 | ≦15秒間 |
| ポリオウイルス2型(Sabin2株) | なし | ≦15秒間 | 1分間 |
| コクサッキーウイルスA10型(臨床分離株) | なし | ≦15秒間 | 30秒間 |
| アデノウイルス2型(Ad.6株) | なし | ≦15秒間 | ≦15秒間 |
| 単純ヘルペスウイルス1型(HF株) | あり | ≦15秒間 | ≦15秒間 |
| インフルエンザウイルスA(H1N1)pdm09(A/Osaka/2042株) | あり | ≦15秒間 | ≦15秒間 |
| インフルエンザウイルスA(H3N2)(A/Wyoming/3/03株) | あり | ≦15秒間 | ≦15秒間 |
差が出たのは膜のないウイルスの一部です。ネコカリシウイルス、ポリオウイルス2型、コクサッキーウイルスA10型の3つで、対照の日局消毒用エタノールは30秒から1分以上を要したのに対し、ラビジェルは15秒以内でした。
ネコカリシウイルスでは、日局消毒用エタノールは1分間の時点でも99.9%以上の不活化に達していません。膜のあるウイルスでは、どちらも15秒以内で差がありません。
細菌に対しては、ASTM(米国材料試験協会)が定めるTime-Kill試験に準じた成績があり、供試18菌種すべてで99.999%以上の減少に15秒以内でした。VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、MDRP(多剤耐性緑膿菌)、Mycobacterium aviumやCandida albicansも含まれています。
手ピカジェルPの試験が示している限界
リン酸を含まない手ピカジェルP(手ピカジェル無印の医薬品版)のウイルス不活化試験では、膜のあるウイルスである単純ヘルペスウイルス1型、A型インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルスがいずれも10秒以内でした。
一方、膜のないウイルスでは時間がかかっています。コクサッキーウイルスB5型で30秒間、エコーウイルス7型では2分間を要しました。膜の有無で結果が分かれる、という傾向がそのまま出た形です。
手ピカジェルPのインタビューフォームは、製品特性として「栄養型細菌(グラム陽性菌、グラム陰性菌)、結核菌、真菌、ウイルス等には有効であるが、芽胞(炭疽菌、破傷風菌等)及び一部のウイルスに対する効果は期待できない」と明記しています。限界を製造販売元自身が書いている、一次資料の記載です。
ここで押さえたいのが、臨床で芽胞がいちばん問題になるのは炭疽菌や破傷風菌ではなく、クロストリジオイデス・ディフィシル(CD)だという点です。抗菌薬投与後の下痢や偽膜性大腸炎の原因になり、医療者の手指を介して広がります。
このCDの芽胞には、アルコールもクロルヘキシジンも無効です。CDに汚染された手指は石けんと流水での手洗いに切り替え、あわせて手袋の着用で対応します。物理的に洗い流す以外に手がない、という理解でかまいません。
WHOの手指衛生ガイドラインも、目に見えて汚れているとき、体液で汚れたとき、トイレの後、そして芽胞をつくる病原体(CDなど)に曝露したときは石けんと流水で洗うと例外を挙げています。弱酸性の製剤を選んでも、この線引きは変わりません。
2つの試験成績は、そのまま突き合わせられない
ラビジェルの試験と手ピカジェルPの試験は、供試ウイルスの種類も株も実施時期も違い、判定基準の書き方も揃っていません。同一条件で並べた比較試験ではないため、「15秒と2分だから何倍速い」という読み方はできません。
言えるのは、膜のないウイルスに対して、リン酸を含まない製剤では時間を要する結果が、酸性に寄せた製剤では短時間の結果が示されている、というところまでです。
表にネコカリシウイルスとマウスノロウイルスを「ノロウイルス代替」と添えたのは、ヒトのノロウイルスが培養できず、性質の近い別のウイルスで推定するしかないためです。代替ウイルスで15秒以内という結果は、ヒトのノロウイルスに効くことの証明にはなりません。加えてこれらは試験管の中の成績で、手指に塗ったときの効果を直接示すものでもありません。
第3類医薬品と指定医薬部外品で、何が変わるのか
書ける効能効果が変わる
ラビジェルは一般用医薬品(第3類医薬品)、手ピカジェル・手ピカジェルプラス・ラビジェルAは指定医薬部外品です。この区分の差は、まず承認された効能効果の書き方に出ます。
ラビジェルの効能効果は「手指の殺菌・消毒」。指定医薬部外品各品の効能効果は「手指・皮膚の洗浄・消毒」です。つまり「殺菌」と書けるのは医薬品側で、指定医薬部外品を「殺菌します」と説明すると、承認された範囲を超えた説明になります。
ただし、表記の差は効果の強さの差ではありません。エタノールの濃度は同じで、区分ごとに承認申請の枠組みと使える言葉が違うだけです。接客や研修で説明するときは、この2つを分けて伝えてください。
とはいえ、実務で効いてくる差がもう一つあります。医薬品副作用被害救済制度の対象になるかどうかです。一般用医薬品であるラビジェルや手ピカジェルPは対象になりますが、指定医薬部外品は対象外です。
品質の審査も、厳しい順に医療用医薬品、要指導・一般用医薬品、医薬部外品と並びます。この2点から、医療機関が医療行為の一環として選ぶならまず医薬品から選び、選択肢がないときにリスクを踏まえて医薬部外品を選ぶという順序が、薬事の側からは妥当とされています。
店頭には第3の枠もあります。薬機法の承認を受けていない雑品(雑貨)や化粧品として売られているアルコール製品で、「消毒」「殺菌」と表示できず、成分や濃度の規格も社内基準で決まります。施設の手指衛生に使うのは効果の確実性の点で避けるのが基本です。値段の前に区分表示を見てください。
使ってはいけない人・部位の書き方も変わる
使用上の注意も、線の引き方が違います。ラビジェル(医薬品)は「次の部位には使用しないでください」として、損傷のある皮ふ、目の周囲、粘膜等を挙げています。部位で線を引く書き方です。
対して手ピカジェルとラビジェルA(指定医薬部外品)は「次の人は使用しないでください」として、患部が広範囲の人、深い傷やひどいやけどの人を挙げています。こちらは人で線を引く書き方になっています。
避ける理由は、ラビジェルのインタビューフォームに解説があります。アルコールを粘膜や創傷部位に用いると激痛が生じること、創傷部位に用いると血液凝固が生じて細菌の巣ができることがあること、が挙げられています。相談先の記載も違い、ラビジェルは「医師、薬剤師又は登録販売者」、指定医薬部外品各品は「医師又は薬剤師」です。
窓口でよく聞かれるのが「お酒が飲めないけれど使えますか」です。飲んだアルコールを分解しにくい体質と、皮膚に塗ったときのかぶれは別の話で、添付文書にも飲酒の可否を条件にした記載はありません。
ただし、アルコールにアレルギーがあると分かっている人は使用を避けます。添付文書も「薬などによりアレルギー症状を起こしたことがある人」を、使用前に相談すべき人として挙げています。
同じ名前で区分が違う製品がある
どちらのブランドにも、医薬品版と指定医薬部外品版が並んで存在しています。
- ラビジェル:第3類医薬品。2014年1月17日承認、2014年1月30日発売(承認番号22600APX00002000)
- ラビジェルA:指定医薬部外品。販売名は「手指消毒用ジェルV1」、承認番号22500DZX01421、2013年11月承認、2013年12月販売開始
- 手ピカジェル:指定医薬部外品
- 手ピカジェルP:第3類医薬品。2009年2月9日承認、2009年9月25日発売
手ピカジェルPの「P」は、ブランド名と剤型に、一般用医薬品であることを表すPを足した命名だとインタビューフォームに記載されています。ここで間違えやすいのが、手ピカジェルPと手ピカジェルプラスの取り違えです。
手ピカジェルPは無印の医薬品版であり、リン酸は入っていません。弱酸性の設計になっているのは手ピカジェルプラスのほうです。名前が似ているだけで、処方の系列は別だと押さえてください。
ノロウイルス対策として、どこまで期待していいのか
厚生労働省は「手洗いの代用にはならない」としている
製品の試験データだけでは話が一方に傾きます。公的な位置づけを必ずセットで置いてください。
厚生労働省の「ノロウイルスに関するQ&A」は、消毒用エタノールによる手指消毒について、石けんと流水を用いた手洗いの代用にはならないとしています。そのうえで、すぐに石けんで手洗いができない場合に、一般的な感染症対策の観点から手洗いの補助として用いるもの、と位置づけています。
石けん自体はウイルスを直接失活させるわけではなく、手の脂肪などの汚れを落としてウイルスを剥がれやすくする、と説明されています。つまり、物理的に洗い流す工程が主役で、アルコールはその補助です。
患者や利用者への説明では、ここを言い換えずに伝えるのが安全です。弱酸性の製剤を選んだとしても、手洗いの回数を減らしてよいという話にはなりません。消費者庁も、ノロウイルスにはアルコール消毒はあまり効かない、と注意喚起しています。
吐物や調理器具といった環境側の消毒になると、前提がさらに変わります。手指消毒剤の話とは別の枠だと分けて伝えてください。
同じQ&Aでは、調理器具等は洗剤で十分に洗浄したうえで次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm。ppmは100万分の1を表す濃度の単位)や亜塩素酸水で拭くこと、吐物処理後の床も同じく約200ppm、廃棄物を密閉する袋には約1,000ppmを入れることが望ましいとされています。
どちらを選ぶかより効くのは、使う量と指先
その前に前提がもう一つあります。どれだけ良い製品を正しく使っても、やるべき場面でやっていなければ結果は出ません。WHOは5つのタイミングとして、患者に触れる前、清潔・無菌操作の前、体液に曝露された可能性のあるとき、患者に触れた後、患者周辺の物品に触れた後を挙げています。
急性胃腸炎の流行期は、アルコールだけで済ませず流水での手洗いを併用します。製品の選択は、この土台の上に乗る話です。
1回量が少ないと効果が落ちる
手ピカジェルPには、使用量を変えて指先の減菌率を比べた試験があります。スワブ法(綿棒で拭き取って菌数を測る方法)で、被験者6名を対象にしたものです。
1回1mLでは、各指先の平均減菌率が57.2〜90.3%とばらつきが大きく、標準偏差も高い値でした。2mLまたは3mLではおよそ90%以上で、ばらつきも小さくなっています。1.5mLは、2mLや3mLに比べるとばらつきが見られるものの、おおむね良好という評価です。
製造販売元は、この結果から1回使用量1mLでは手指消毒効果が不十分であり、十分な効果を得るには少なくとも1.5mL以上、添付のポンプ1プッシュ(約2mL)で良好な効果が得られる、と結論づけています。被験者6名の小規模な試験なので、「1mLでは効かない」ではなく「不十分という結果が示されている」と受け取るのが妥当です。
必要量は製剤によっても変わります。ラビジェルの手指消毒効果試験(欧州規格EN1500に準じた、大腸菌を使うヒトでの試験)では、1mL×1回または2mL×1回で、60vol%イソプロパノール3mL×2回および日局消毒用エタノール3mL×1回と同等で、有意差は認められませんでした(一元配置分散分析、p>0.05、n=20)。
つまり「適量」で片づけず、使っている製品のポンプが1プッシュで何mL出るかを確認しておく。これが現場で最初にやることです。ラビジェルの添付文書の用法も「適量を手掌にとり、乾燥するまで摩擦してください」で、mLの数字は書かれていません。
もう一段細かい基準もあります。ロタウイルスのように膜のないウイルスを想定する場面では、液タイプの速乾性手指消毒剤を十分量(3mL)使い、30秒以上の接触を保つという運用が示されています。膜のない相手のときは多めに、長めに、と覚えておくと迷いません。
指先をすり込まないと効果が落ちる
結果を左右するもう一つが、指先のすり込みです。日本環境感染学会誌に掲載された原著論文が、この2つを同時に検証しています。
規定量3mLと半量1.5mLを比べたところ、指先を擦り込まない群では、1.5mL使用時の指先の指数減少値が3mL使用時より有意に低くなりました(p<0.01)。さらに、指先を擦り込まない群は擦り込む群より指先の指数減少値が有意に低く、3mLでp<0.01、1.5mLでp<0.001でした。
一方、指の中央と手掌では差が出ませんでした。つまり、量が足りないことの影響も、すり込み不足の影響も、まず指先に現れます。手のひらだけを見ていると、足りていないことに気づけません。
手ピカジェルPのインタビューフォームに載っている手順も、指先(爪)から始まります。両手の指先によくすり込み、手のひらになじませ、手の甲、指の間、親指、手首の順に広げ、乾燥するまですり込む、という並びです。
時間の目安も持っておくと自分で確認できます。WHOの手指衛生ガイドラインは、アルコール手指消毒を20〜30秒で効果が得られる方法と位置づけています。数秒で手を振って乾かしているなら、量も時間も足りていません。乾くのが早すぎるときは、出ている量を疑ってください。
また、添付文書には「血液や汚物等が付着している場合には、石けんでよく洗浄後、使用してください」と共通して記載されています。目に見える汚れがあるときは、消毒より先に洗浄です。どちらの製品を選ぶかで悩む時間より、1プッシュ分を使い切ることと指先から始めることを徹底するほうが、実際の結果には効いてきます。
よくある質問
- 使った直後に、コンロやストーブを扱っても大丈夫ですか
-
添付文書は「使用後は手を十分に乾燥させてください」とし、乾燥不十分のまま火気に手を近づけると引火するおそれがあると記載しています。製品評価技術基盤機構も、石油ストーブの近くで消毒液を使って引火する場面を注意喚起しています。乾いたことを確かめてから火を扱うよう伝えてください。
- 子どもに使わせてよいですか。何歳からという決まりはありますか
-
添付文書に年齢の下限はなく、「保護者の指導監督のもとに使用させてください」と記載されています。実際に多いのは誤飲と眼に入る事故です。中毒110番への「眼に入った」相談は、流行前の年41〜44件から2020年は265件に増えました。据え置き型は子どもの顔の高さに来るので注意してください。
- 大きいボトルから携帯用の容器に詰め替えてもいいですか
-
添付文書は「他の容器に入れ替えないでください」とし、誤用の原因になったり品質が変わると理由を示しています。あわせて表示には「アルコール類・水溶性・危険等級Ⅱ」「火気厳禁」とあり、消防法上の危険物にあたる製品です。小分けの相談には、詰め替えではなく60mLなどの携帯用規格を案内してください。
- 使ったあとに手が赤くなったり、かゆくなったときはどうしますか
-
添付文書は、発疹・発赤・かゆみがあらわれた場合は直ちに使用を中止し、その製品を持って相談するよう記載しています。相談先はラビジェルが医師・薬剤師・登録販売者、指定医薬部外品各品は医師・薬剤師です。繰り返す手荒れや亀裂は皮膚科の受診をすすめてください。
まとめ:ラビジェルと手ピカジェルの違いをどう説明するか
- ラビジェルも手ピカジェルも製造販売元は同じ健栄製薬で、有効成分はどちらもエタノール76.9〜81.4vol%
- 違いは添加物にあり、リン酸を配合して弱酸性にしてあるかどうかで二手に分かれる(ラビジェルはpH3.0〜4.0)
- 店頭の黄色が手ピカジェルプラス、ピンクが手ピカジェル。一般向けでラビジェル系に対応するのはプラスのほう
- 第3類医薬品は「手指の殺菌・消毒」、指定医薬部外品は「手指・皮膚の洗浄・消毒」。表記の差であって効果の強さの差ではない
- ノロウイルス対策では、アルコールは手洗いの代用にならない。吐物や器具は次亜塩素酸ナトリウムが基本
- 製品選びより、1プッシュ分を使い切ることと指先からすり込むことのほうが結果に効く
- 芽胞(クロストリジオイデス・ディフィシルなど)にはアルコールが無効。手荒れ対策はアルコールに寄せるのが標準
結論を一つに絞るなら、ラビジェルと手ピカジェルの違いは「メーカーの差」でも「濃度の差」でもなく、リン酸を入れて弱酸性に振ってあるかどうかの設計差です。ここさえ押さえておけば、製品名を見ただけで、どちらの系列かを言えるようになります。
施設で採用を検討する立場なら、判断の軸は膜のないウイルスをどこまで想定するかになります。聞かれたときの答え方も型にしておくと迷いません。「業務用のほうが濃いのか」には濃度は同じで違うのは添加物だと返し、「黄色とピンクはどちらがノロに効くのか」には黄色のプラスが弱酸性の設計だと伝えたうえで、アルコールは手洗いの代わりにならないことを必ず添えます。
相手の状況で答えを変える場面もあります。ここで注意したいのが、手が荒れているときに「石けんと流水に切り替える」のは方向として逆だという点です。WHOの手指衛生ガイドラインは、アルコール手指消毒のほうが石けんと流水より皮膚への負担が小さいとしています。
皮膚炎を減らそうと普通石けんでの手洗いに寄せた施設が、かえって手荒れを増やしてしまうという指摘まで添えられています。荒れているときこそ、湿潤剤を含んだアルコール製剤に寄せるのが標準的な考え方です。
あわせて避けたいのが、手洗いのあとにアルコール、あるいはアルコールのあとに手洗いという重ね技です。同ガイドラインが手荒れの原因として名指ししています。汚れや血液・汚物が付いたときは石けんで洗い、それ以外はアルコールだけで完結させてください。
ただし、深い亀裂ができている手や損傷のある皮膚には使用しません。ここまで来たら消毒の頻度ではなく、保湿剤の併用と皮膚科受診の話に切り替えます。乳幼児や高齢者、嘔吐や下痢が続いている人も、消毒ではなく受診の話に切り替える判断が要ります。
まず確認してほしいことを一つだけ挙げます。手元にある製品の成分表示を見て、添加物の欄にリン酸があるかどうかを確かめてください。そこが分かれば、この記事の内容はそのまま当てはめられます。
参考文献
- 健栄製薬「ラビジェル」製品情報(一般用医薬品[第3類]。添付文書およびインタビューフォーム2016年6月改訂・第3版を掲載)
- 健栄製薬「手ピカジェルP」製品情報(一般用医薬品[第3類]。添付文書およびインタビューフォーム2010年2月作成・第1版を掲載)
- 健栄製薬「手ピカジェル」製品情報(指定医薬部外品。成分・効能効果・使用上の注意)
- 健栄製薬「手ピカジェル プラス」製品情報(指定医薬部外品。成分・効能効果)
- 健栄製薬「手ピカスプレー」製品情報(指定医薬部外品。成分・効能効果)
- 健栄製薬「ラビショット・ラビジェル ウイルス不活化効果試験〈in vitro〉」(試験方法および供試ウイルスごとの不活化時間)
- 健栄製薬「ラビショットA・ラビジェルA」製品パンフレット(2026年3月作成。組成性状・承認番号・効能効果・包装)
- 健栄製薬 プレスリリース「感染力の強いノンエンベロープウイルスなど、より広範囲のウイルス・細菌に効く『手ピカジェルプラス』11月11日(水)より発売」(2015年11月10日)
- 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」(最終改定 令和3年11月19日)
- 消費者庁「アルコール消毒に頼りすぎないで、ノロウイルスによる感染症や食中毒に注意!」(みんなの消費安全ナビ Vol.578、2022年1月7日)
- 製品評価技術基盤機構(NITE)「石油ストーブ 近くでアルコール消毒液を使用して引火」(事故の再現映像・注意喚起)
- 東知宏ほか「擦式アルコール製剤の使用量および指先の擦り込みが除菌効果に与える影響の検討」(日本環境感染学会誌 2012;27(3):183-188)
- 健栄製薬「ケンエーIC News 1号 WHO手指衛生ガイドライン」(矢野邦夫/浜松医療センター。WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care 2009 の解説。濃度と殺菌効果、20〜30秒、手荒れ対策、5つのタイミング、石けん手洗いに切り替える例外)
- 健栄製薬「各種微生物に対する消毒薬の選び方 ― 菌芽胞(枯草菌、セレウス菌、炭疽菌、クロストリジウム・ディフィシル)」(芽胞に対するアルコールの無効性と、石けんと流水・手袋での対応)
- 健栄製薬「各種微生物に対する消毒薬の選び方 ― ロタウイルス」(液タイプ3mL・30秒以上の接触、ウイルスのアルコール抵抗性の強弱)
- 吉田製薬「Y’s Letter Vol.2 No.36 薬事的な観点から見た消毒薬の選択方法」(2008年公開・2023年4月28日改訂。医薬品/医薬部外品/化粧品/雑品の審査と副作用被害救済制度の対象範囲)
- 国立健康危機管理研究機構 AMR臨床リファレンスセンター「手指衛生」(2017年9月。急性胃腸炎の流行期における流水手洗いの併用、WHOの5つのタイミング)
- 消費者庁「子ども安全メール from 消費者庁 Vol.583 消毒剤・除菌剤の取扱いに留意しましょう。誤飲や眼に入る事故の発生が続いています!」(2022年2月28日。中毒110番への相談件数を含む)
