HFrEF・HFmrEF・HFpEFは、心不全を左室駆出率(LVEF)の数値で分けた呼び方です。線引き自体は40%以下、41〜49%、50%以上とはっきりしています。41〜49%のHFmrEFをどちら寄りに扱うかで、推奨される治療が変わります。
この記事では、3つの読み方と英語のフルスペル、患者背景と原因の違い、推奨クラスで比較した治療の差、予後の見方までを扱います。数値と推奨クラスは、日本循環器学会・日本心不全学会の2025年改訂版 心不全診療ガイドラインの記載に基づいています。
- HFrEF・HFmrEF・HFpEFの読み方とLVEFの線引き
- 3つに分ける理由と、境界の数値をどう受け止めるか
- 推奨クラスで比較した3タイプの薬物療法の違い
- LVEFが回復したHFimpEFの扱いと予後の見方
結論、HFrEF・HFmrEF・HFpEFの違いは左室駆出率(LVEF)の数値で決まる
HFrEF・HFmrEF・HFpEFは、いずれも心不全(heart failure、HF)を分けるときの分類名です。分けている物差しは1つで、左室駆出率(left ventricular ejection fraction、LVEF)という数値になります。
LVEFは、左心室が1回の収縮で、ためた血液の何パーセントを送り出したかを示す割合です。
日本循環器学会と日本心不全学会の「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(2025年3月28日公開)は、初回評価時のLVEFによって心不全を3つに分類しています。線引きは40%以下、41〜49%、50%以上です。
| 分類 | 読み方 | LVEF | どんな心不全か |
|---|---|---|---|
| HFrEF | ヘフレフ | 40%以下 | 収縮する力が落ちた心不全。左室が拡大しやすく、薬物療法の根拠が最も厚い |
| HFmrEF | ヘフエムレフ | 41〜49% | 軽度に低下した心不全。患者背景は中間だが、背景にある心臓病はHFrEF寄り |
| HFpEF | ヘフペフ | 50%以上 | 収縮する力が保たれた心不全。日本で最も多く、高齢・高血圧・心房細動が背景にある |
ガイドラインはこの3つに加えて、経過を追って判定するHFimpEFという4つめの枠も置いています。こちらは初回の数値ではなく、治療の途中でLVEFが良くなったかどうかで決まる分類です。詳しくは後の章で扱います。
読み方と英語のフルスペル
読み方は、一般にHFrEFが「ヘフレフ」、HFmrEFが「ヘフエムレフ」、HFpEFが「ヘフペフ」と読まれることが多い言葉です。HFmrEFは「ヘフミレフ」と読まれることもあります。学会のガイドラインなどに読み仮名の規定は確認できておらず、現場での通称と考えたほうが正確です。
英語のフルスペルを分解すると、意味がそのまま出てきます。HFrEFはheart failure with reduced ejection fraction、つまり駆出率が低下した心不全です。
HFmrEFはこの部分がmildly reduced(軽度に低下した)に、HFpEFはpreserved(保たれた)に置き換わります。真ん中のr・mr・pだけが違い、あとは共通です。
つまり、3つの略語は「駆出率がどうなっているか」を1文字か2文字で表しているだけで、別々の病気の名前ではありません。
なぜLVEFで3つに分けるのか
分類が変わると、推奨される薬とその推奨の強さが変わるからです。ガイドラインは薬物療法の推奨表を、HFrEF・HFmrEF・HFpEFで別々に用意しています。同じ薬でも、EFの区分によって「投与すべき」から「考慮してよい」まで強さが動きます。
その強さを表しているのが、推奨クラスとエビデンスレベルという2つの記号です。原典の記号をそのまま示すので、先に読み方を置いておきます。
推奨クラスは「どれくらい強くすすめられるか」の目盛りです。Iは行うべき、IIaは行うことが妥当、IIbは考慮してもよい、IIIは行うべきでない、にあたります。エビデンスレベルはその裏づけの確からしさで、Aが最も厚く、B-Rはランダム化試験、B-NRは非ランダム化の研究、C-LDは限定的なデータ、という並びです。
そもそも心不全とは何か(2025年改訂版の定義)
2025年改訂版ガイドラインは、心不全を「心臓の構造的あるいは機能的な異常により、うっ血や心内圧の上昇、心拍出量の低下や組織の低灌流をきたし、呼吸困難・浮腫・倦怠感・運動耐容能の低下といった症状を生じる症候群」と定義しています。
この定義は、日本・米国・欧州の3学会が合同でまとめた心不全の定義と分類に基づくものです。
言い換えると、心不全は単一の病名ではなく症候群です。原因はさまざまで、共通しているのは「心臓のポンプとしての働きが体の要求に追いつかなくなった結果、うっ血や低灌流の症状が出ている」という状態のほうです。
LVEF(左室駆出率)は何を測っている数字か
LVEFは、左心室が拡張しきったときにためている血液のうち、1回の収縮で何パーセントを送り出したかという割合です。心エコー(心臓超音波検査)で測ることが多く、EFとだけ書かれることもあります。数値が低いほど、送り出す力が落ちていることになります。
ガイドラインは、LVEFの評価を心不全の全患者に推奨しています(推奨クラスI/エビデンスレベルB-NR)。分類の入口になる数値なので、まず測ることが前提に置かれています。
ただしLVEFは心臓の元気さの総合点ではありません。収縮の一面を切り取った指標であり、これが保たれていても拡張の障害やうっ血は起こります。EFが良いのに心不全と言われる、という状況が生じるのはこのためです。
LVEF 40%と41%は別の病気なのか
別の病気ではありません。ガイドライン自身が、LVEFだけでHFrEFとHFpEFを明確に区別するのは難しいと認めたうえで、41〜49%をHFmrEFと定義しています。区切りは連続した1本の線の上に引かれた目印であって、境目で病態が切り替わるわけではありません。
この点は、英語版ガイドラインの正誤(2025年8月25日)でも扱われています。図表の修正として、LVEFの境界の勾配を垂直から斜めに変更し、図を差し替えたことが示されています。境界を垂直に描くと段差があるように見えるため、連続していることが分かる描き方に直された形です。
加えて、LVEFは測定法や測定者、測るタイミングによってばらつきます。1回の数値だけでタイプを固定して考えないのが実務上の前提になります。
3つのタイプはそれぞれどんな心不全か
患者背景と原因が違うため、同じ心不全でも現場での見え方はかなり異なります。
HFrEF(LVEF 40%以下)は左室が拡大しやすく、日本では原因が変わってきた
HFrEFでは左室の拡大がよくみられます。LVEFの低下で示される収縮の障害だけでなく、拡張の障害を伴うことも多いとされています。収縮だけが悪い心不全、という単純な図式ではありません。
原因の顔ぶれも動いています。日本ではHFrEFの主な原因が、拡張型心筋症などの心筋そのものの病気を中心とした構成から、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など、心臓の血管が細くなったり詰まったりして起こる病気)へと、時代とともに移ってきました。
HFmrEF(LVEF 41〜49%)は数値が中間でも、背景の心臓病はHFrEF寄り
HFmrEFは「HFrEFとHFpEFの間」と説明されがちですが、何もかもが中間というわけではありません。年齢・性別・心房細動の頻度は、たしかにHFrEFとHFpEFの中間に位置します。
一方で基礎心疾患の分布はHFrEFに近く、虚血性心疾患の割合が高いとされています。つまり、患者さんの見た目の属性は中間でも、心臓に起きていることの原因はHFrEF側に寄っている、という理解になります。
この点は、後で見る治療の推奨とも矛盾しません。HFmrEFではHFrEF向けの薬の一部が、推奨クラスを下げた形で並びます。
HFpEF(LVEF 50%以上)は日本で最も多く、原因の見極めが要る
日本の疫学研究では、心不全のステージC(症状が現れて以降の段階を示す別の分類軸です)の69%、ステージDの51%がHFpEFと報告されています。すでに主要な表現型になっている、というのがガイドラインの書き方です。
強く関連する背景因子は、高齢、高血圧、心房細動、冠動脈疾患、糖尿病、肥満です。HFpEFは心臓だけの問題ではなく、血管や、肺・骨格筋といった心臓血管系の外の異常まで複合した病態と説明されています。
そのためガイドラインは、HFpEFと診断したら、疾患特異的な治療がある病因を評価することが不可欠だとしています。代表例が心アミロイドーシス(異常なたんぱく質が心筋に沈着して心臓が硬くなる病気)です。HFpEFとひとくくりにして終わらせると、治療手段のある病気を見落とすことになります。
4つめの分類「HFimpEF」はLVEFが回復した心不全
HFimpEFは、heart failure with improved ejection fractionの略で、LVEFが改善した心不全を指します。初回の数値ではなく、経過を追った評価で決まる点が他の3つと違います。
HFimpEFの定義と、分類が移り変わるということ
ガイドラインの定義は明確です。当初のLVEFが40%以下だった患者で、その後LVEFが10ポイント以上上がり、かつ40%を超えた場合をHFimpEFとします。3つの条件がそろって初めて当てはまります。
そもそも分類は固定ではありません。HFrEFの20〜40%が経過中にHFmrEFまたはHFpEFへ移行し、同様にHFmrEFの20〜40%がHFpEFへ移行すると報告されています。EF分類は、その時点で撮った1枚の写真に近いものだと考えたほうが実態に合います。
LVEFが良くなったら薬はやめてよいのか(TRED-HF試験とその限界)
現場で繰り返し出る問いです。HFimpEFは、最適なGDMT(guideline-directed medical therapy、ガイドラインに基づく薬物治療)が達成された患者でよくみられます。
予後もLVEFが改善しない患者より良いとされています。ただしLVEFが改善しても、心臓の構造的な異常が残ることがあります。
HFimpEFになりやすい因子として、若年、女性、非虚血性心筋症、うっ血の期間が短いこと、併存症が少ないことが挙げられています。
そのうえでガイドラインは、心機能の改善は治癒と同義ではないため、国際的なガイドラインがGDMTを減量・中止せずに継続することを推奨している、と記載しています。根拠として挙げられているのがTRED-HF試験という非盲検のランダム化試験です。
この試験では、拡張型心筋症で無症状となり、LVEFが40%未満から50%以上に改善した患者でGDMTを中止しました。その結果、44%で心不全の指標が悪化しました。数字だけを見ると強い結果ですが、ガイドライン自身が限界も併記しています。
- ループ利尿薬・MRA・β遮断薬・ACE阻害薬/ARBを6か月かけて順次減らし、最終的に心保護薬をすべて中止するプロトコルで、日本の実臨床への当てはめには制限がある
- 拡張型心筋症に限った検討であり、他の基礎疾患のHFimpEFで最適な方針は分かっていない
- 周産期心筋症の研究では、心保護薬の中止が心不全入院やLVEFの低下につながらなかったという報告もある
それでもガイドラインは、拡張型心筋症についてはLVEFが改善した後も短期間での心不全治療薬の減量・中止をすべきではないとしています(推奨クラスIII(Harm)/エビデンスレベルB-R)。
つまり患者さんに伝えるべきは「自己判断で中断しない」ことであり、減量や中止ができるかどうかは主治医が個々の症例で判断する領域だ、という整理になります。一生やめられないと言い切る話でもありません。
治療はどう違うのか、2025年改訂版の推奨クラスで比較する
ここが3分類を分ける最大の理由です。同じ薬でも、EFの区分によって推奨の強さが変わります。まず全体像を1枚で見てから、区分ごとに見ていきます。表の記号は、左が推奨クラス、右がエビデンスレベルです。
| 薬剤 | HFrEF(40%以下) | HFmrEF(41〜49%) | HFpEF(50%以上) |
|---|---|---|---|
| SGLT2阻害薬 | I/A | I/A | I/A |
| ARNI | I/B-R | IIa/B-NR | IIb/B-R |
| MRA(フィネレノン) | 推奨表に記載なし | IIa/B-R | IIa/B-R |
| MRA(スピロノラクトン、エプレレノン) | I/A | IIb/B-NR | IIb/B-R |
| ACE阻害薬 | I/A | IIb/C-LD | 推奨表に記載なし |
| ARB | I/A | IIb/B-NR | IIb/B-R |
| β遮断薬 | I/A | IIb/B-NR | 推奨表に記載なし |
縦に眺めると、SGLT2阻害薬だけが3列とも同じ強さで並んでいます。逆にARNI・ACE阻害薬・従来型のMRA・β遮断薬は、EFが上がるほど推奨が弱くなる勾配を描きます。この形が、3分類を分ける実務上の意味そのものです。
3タイプ共通の土台になったSGLT2阻害薬
SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2、ナトリウム・グルコース共輸送体2)阻害薬は、もともと糖尿病の薬として登場した系統です。心不全の領域では、エンパグリフロジンとダパグリフロジンが名前を挙げて推奨されています。
推奨は3区分すべてで推奨クラスI/エビデンスレベルAです。HFrEFでは糖尿病の有無にかかわらず投与すべきとされ、HFmrEF・HFpEFでは症候性の患者に対し、心血管死または心不全入院のリスクを減らす目的で投与すべきとされています。
国内の承認側も同じ方向に動きました。PMDAは、エンパグリフロジンについて2022年3月23日付、ダパグリフロジンについて2023年1月10日掲載の「効能又は効果に関連する注意」等の改訂を公表しており、LVEFによる限定は実質的に外れています。
つまり、EFの分類をまたいで使える薬が出てきたことが、HFpEFの治療の景色を変えた最大の変化です。成分ごとの適応や用量の差は、SGLT2阻害薬6成分の一覧と適応・用量の比較で扱っています。
HFrEFの薬物療法と「ファンタスティック4」とは何か
HFrEFは、3区分のなかで薬物療法の根拠が最も厚い区分です。ガイドラインの推奨を主なものだけ並べます。なお下記のNYHA心機能分類は、New York Heart Association(ニューヨーク心臓協会)が定めた、症状の強さでI度からIV度に分ける指標です。
- ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬):禁忌がない限り全例に投与すべき(I/A)
- ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬):ACE阻害薬またはARNIに耐えられない患者に投与すべき(I/A)
- ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬):ACE阻害薬またはARBを使用中の症候性心不全(NYHA II〜III度)ではARNIへの切り替えが推奨される(I/B-R)
- β遮断薬:禁忌がない限り、カルベジロールまたはビソプロロールを全患者に投与すべき(I/A)
- MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):NYHA II〜IV度かつLVEF 40%以下にスピロノラクトンまたはエプレレノンを投与すべき(I/A)
- SGLT2阻害薬:症候性HFrEFに糖尿病の有無を問わず投与すべき(I/A)
このうちARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬の4剤併用が、現場で「ファンタスティック4」と通称されている組み合わせです。正式な用語ではありませんが、HFrEFの薬物療法の柱を指す言い方として定着しています。
ARNIとACE阻害薬・ARBの使い分けは、エンレストとARB・ACE阻害薬の違いと切り替えで詳しく整理しました。
逆に、避けるべきとされているものもあります。Ic群抗不整脈薬はHFrEF患者に投与すべきでないとされ、推奨クラスはIII(Harm)/エビデンスレベルAです。害があるため行うべきでない、という最も強い否定にあたります。
HFmrEFの薬物療法(SGLT2阻害薬はI、ARNI・フィネレノンはIIa)
HFmrEFでは、推奨クラスIに置かれているのは3つだけです。併存症の適切な評価と管理(I/C-LD)、症候性の患者に対するうっ血の改善を目的とした利尿薬(I/C-LD)、そしてSGLT2阻害薬(I/A)です。
次に強いのがIIaで、ARNI(IIa/B-NR)と非ステロイド型MRAであるフィネレノン(IIa/B-R)が入ります。ARB(IIb/B-NR)、ACE阻害薬(IIb/C-LD)、スピロノラクトンやエプレレノンといった従来型のMRA(IIb/B-NR)、β遮断薬(IIb/B-NR)はIIbです。
つまり、HFrEFでIだった薬の多くが、HFmrEFではIIaからIIbへ下がります。ファンタスティック4がそのまま横滑りするわけではない、というのがこの表から読み取れることです。EFが45%の患者にHFrEFと同じ顔ぶれが並んでいない理由は、ここにあります。
HFpEFの薬物療法(SGLT2阻害薬はI、フィネレノンはIIa)
HFpEFも骨格は同じです。併存症の適切な評価と管理(I/C-LD)、症候性の患者に対するうっ血軽減のための利尿薬(I/C-LD)、SGLT2阻害薬(I/A)がIに並びます。フィネレノンは、心血管死または心不全増悪イベントのリスクを減らす目的で考慮できるとされています(IIa/B-R)。
ARNIとARBはIIb/B-Rですが、対象に条件が付きます。LVEFが正常範囲以下の症候性のHFpEFで、心不全入院を減らす目的、という限定です。ARBはARNIの代替という位置づけです。従来型のMRAも心不全入院の低減を目的にIIb/B-Rで挙げられています。
2025年改訂版では、HFrEF・HFmrEF・HFpEFすべてのGDMTが、2021年のフォーカスアップデート後に公表された主要研究に基づいて更新されました。
主な変更点として、HFmrEF・HFpEFに対する非ステロイド型MRA(フィネレノン)と、肥満を合併する心不全に対するインクレチン関連治療の追加が挙げられています。
したがって、「HFpEFには使える薬がない」という説明は、現行の推奨とは合いません。推奨クラスIの薬がある区分になっています。
予後はどう違うのか、「EFが保たれている=軽い」ではない
HFpEFは「収縮する力が保たれている」と説明されるため、軽い心不全だと受け取られることがあります。数字を見ると、その理解は正確ではありません。
1年死亡率・再入院率と、3タイプに共通する死因
日本の実態から見ていきます。JROAD(Japanese Registry of All Cardiac and Vascular Diseases、全国の循環器疾患の診療実態を集めた登録)の最近のデータでは、心不全による入院は2023年に285,000件、院内死亡率は9.1%でした。
予後の数字も厳しいものです。心不全で入院した後の1年死亡率は約20%、退院して生存した患者の1年再入院率は27〜29%と非常に高く、心不全の増悪で入院した後に4年生存している患者は49%にとどまります。
死因はどうでしょうか。ガイドラインは、HFrEF・HFmrEF・HFpEFのいずれでも心血管死が主な死因であり、突然心臓死も3型すべてで起こると記載しています。EFが保たれていれば心臓が原因で亡くなりにくい、という整理にはなっていません。
ただし年齢によって様相が変わります。85歳以上のHFpEFでは非心血管死の割合が多く、年齢に応じた治療アプローチが必要とされています。
つまり、どのタイプでも予後は決して良好とはいえません。3つのあいだで予後の優劣を断定できる書き方は、ガイドラインには置かれていません。EFの数値は治療方針を決める出発点であって、重症度をそのまま表す点数ではないと考えるのが妥当です。
このサインが出たら受診を、と患者にどう説明するか
ガイドラインは「心不全の悪化」と「非代償性心不全」を定義しています。この定義に沿うと、患者さんや家族に伝えるべき受診のサインは次のように整理できます。
- 安定した治療を受けているのに、息切れ・むくみ・体重増加・夜間の呼吸苦・横になると苦しい(起座呼吸)が強くなってきた
- 症状の変化にかかわらず、検査所見が明らかに悪化している(LVEFの低下、心拡大、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNP(N末端プロBNP)の上昇、腎機能の悪化、運動耐容能や生活の質の低下)
- 不整脈のイベントが再発している、あるいは悪化している
- 飲み薬の利尿薬を大幅に増やす、点滴の利尿薬が必要になる、といった状態
説明するときは、EFのタイプにかかわらず同じサインを見てもらう形にすると伝わります。「HFpEFだから軽い」と受け取られている場合ほど、ここを丁寧に伝える意味があります。
なお、体重が何キログラム増えたら受診するかという具体的な数値は、施設や患者さんの状態で設定が変わります。主治医から指示されている目安があればそちらを優先してもらってください。
よくある質問
- BNPが基準値内なのに心不全と言われることはありますか
-
あります。ガイドラインは、BNPやNT-proBNPが心不全以外の要因の影響を受けること、腎機能の低下で上昇すること、肥満のある人では低く出ることを明記しています。HFpEFは肥満を背景に持つことが多いため、値が低めに出る場合があります。判断は他の所見と合わせて医師が行います。
- 安静時の心エコーが正常なら、HFpEFは否定できますか
-
否定しきれない場合があります。うっ血のないHFpEFでは、安静時の左室充満圧が正常でも運動時に異常となることがあるためです。ガイドラインは、安静時の所見が曖昧な症候性の患者への運動負荷心エコーを推奨クラスIIaとしています。
- 「拡張不全」とHFpEFは同じものですか
-
同じ意味として使われることがありますが、厳密には一致しません。現行のガイドラインの分類はLVEFの数値で行われています。HFrEFでも拡張の障害を伴うことが多いとされており、収縮と拡張のどちらかで割り切れる分け方にはなっていません。
- ガイドラインが推奨している治療は、日本でも必ず保険で受けられますか
-
そうとは限りません。たとえば静注鉄剤は、鉄欠乏のあるHFrEF・HFmrEFの患者への使用が推奨クラスIIaで挙げられていますが、日本では鉄欠乏性貧血にのみ保険適用があり、貧血のない患者では保険適用外だとガイドライン自身が記載しています。使用の判断は主治医が行います。
HFrEF・HFmrEF・HFpEFの違いのまとめ
- 3つの違いは左室駆出率(LVEF)の数値。HFrEFは40%以下、HFmrEFは41〜49%、HFpEFは50%以上
- 分ける理由は治療の推奨が変わるから。SGLT2阻害薬だけが3区分すべてで推奨クラスI/エビデンスレベルA
- ARNI・ACE阻害薬・従来型MRA・β遮断薬は、EFが上がるほど推奨が弱くなる
- 境界は連続していて、LVEFは測定ごとにばらつく。1回の数値でタイプを固定しない
- LVEFが回復したHFimpEFでも、GDMTは減量・中止せず継続することが推奨されている
- どのタイプでも心血管死が主な死因。EFが保たれている=軽い、ではない
結論を1つ選ぶなら、EF分類は重症度の指標ではなく、治療方針を決める出発点だということです。40%以下か、41〜49%か、50%以上かで、推奨される薬の顔ぶれと強さが変わります。だからカルテのEFを見に行く価値があります。
担当している患者さんに当てはめるときは、まずLVEFの実測値と測定日を確認してください。次に、そのEFに対して推奨クラスIの薬が入っているか、入っていないなら禁忌や併存症など理由があるかを見ます。高齢、腎機能低下、鉄欠乏、肥満、心房細動といった併存症は、推奨の適用や検査値の読み方を左右します。
患者さんへの説明では、EFが良くなっても自己判断で薬を中断しないこと、息切れやむくみ、体重増加が続くときは早めに相談することの2点を優先すると伝わります。薬の変更や中止の判断そのものは主治医の領分なので、気になる点は処方医と薬剤師に確認してもらう形が確実です。
参考文献
- 日本循環器学会・日本心不全学会「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(2025年3月28日公開)
- JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure(Circulation Journal 2025; 89: 1278-1444)
- CORRIGENDUM: JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure(Circulation Journal 2025; 89: 1579-1581、2025年8月25日)
- PMDA 医療用医薬品情報「ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物」(「効能又は効果に関連する注意」等の改訂について、2023年1月10日掲載)
- PMDA「エンパグリフロジンの『効能又は効果に関連する注意』等の改訂について」(令和4年3月23日)
