メリスロンとセファドールは、どちらもめまいに処方される内服薬です。同じ用途で並ぶわりに、効能・効果の書き方も、禁忌の有無も、根拠になっているデータの種類も違います。処方が途中で入れ替わったり、2剤とも出たりしたときに、どう説明するかで迷いやすいところです。
この記事では、両剤の添付文書とインタビューフォーム、前庭神経炎診療ガイドライン2021年版をもとに、効能・用法用量・禁忌・副作用・推奨度を並べています。吐き気が強いときの選ばれ方、効くまでの時間に答えられる資料の差、併用の考え方まで、順に確認していきます。
- メリスロンとセファドールの効能・用法用量・禁忌・副作用の違い
- 前庭神経炎診療ガイドライン2021年版での推奨度がC1とBに分かれる理由
- 吐き気が強いとき、持病があるときにどちらが選ばれるか
- 効くまでの時間に答えられる一次資料の差と、抗コリン負荷・規格・薬価の実務
メリスロンとセファドールの違いを早見表で整理する
添付文書(医薬品の効能や使用上の注意を定めた公的な文書)を並べて、違いを先に整理します。
ひとことで言うと、吐き気を伴うかどうかで選ばれ方が変わる
メリスロン(一般名:ベタヒスチンメシル酸塩)は、効能・効果に「メニエール病、メニエール症候群、眩暈症」と病名が並びます。ヒスタミン類似作用(体内にあるヒスタミンという物質に似た働き)を持ち、内耳の血流を増やす方向で、めまいそのものを継続して抑えにいく薬です。
ただし添付文書18.1には、「本剤の有効成分であるベタヒスチンの作用機序は不明である」と明記されています。内耳や脳の血流が増えるという記載の根拠は、モルモットやアカゲザルを用いた動物実験(添付文書18.2〜18.4)で、ヒトでの所見ではありません。
海外の情報はもう一歩踏み込みます。英国の製品情報は、ベタヒスチンをシナプス前のH3受容体を遮断してヒスタミンの遊離を増やす拮抗薬であり、あわせてH1受容体の部分作動薬でもあると説明しています。ただし同じ文書も、作用機序は部分的にしか解明されていないと断っています。日本の添付文書にH3受容体の記載はありませんので、機序を話すときは資料を分けて扱います。
セファドール(一般名:ジフェニドール塩酸塩)は、効能・効果が「内耳障害にもとづくめまい」という書き方です。椎骨動脈(脳幹や内耳へ血液を送る血管)の攣縮、つまり縮んで細くなった状態をゆるめます。さらに、めまいの原因となる異常な信号を、内耳からの信号を受け取る脳幹の中継点である前庭神経核と、視床下部のレベルで遮断します。
吐き気に届くのは、これとは別の働きです。前庭神経炎診療ガイドライン2021年版は、ジフェニドールが延髄(脳幹の下部)にある嘔吐中枢を直接抑えることで、前庭性の嘔吐を含むさまざまな嘔吐を抑えると説明しています。
あわせてジフェニドールは抗コリン作用を持ちます。副交感神経の働きを伝えるアセチルコリンをブロックする作用で、口が渇く、目のピントが合いにくい、尿が出にくいといった形で現れます。禁忌と副作用の違いは、ほぼこの2つの性質の差から生まれます。
- 吐き気・嘔吐が前面に出ている急性期は、ジフェニドール(セファドール)が選ばれやすい
- 診断がついていて継続して服用する場面は、効能に病名があるベタヒスチン(メリスロン)が素直
- 腎機能障害・緑内障・前立腺肥大があるとセファドールは使えない、または慎重になる。ここで選択が入れ替わる
「どちらが強いか」という比べ方は成り立ちません。効能の範囲も禁忌の有無も違うため、症状と持病を見て当てはまるほうが選ばれます。
早見表:効能・用法用量・禁忌・副作用の違い
| 項目 | メリスロン | セファドール |
|---|---|---|
| 一般名 | ベタヒスチンメシル酸塩 | ジフェニドール塩酸塩 |
| 添付文書上の分類 | めまい・平衡障害治療剤 | 抗めまい剤 |
| 効能又は効果 | 下記の疾患に伴うめまい、めまい感(メニエール病、メニエール症候群、眩暈症) | 内耳障害にもとづくめまい |
| 用法及び用量 | 錠6mg:1回1〜2錠を1日3回食後(1日18〜36mg) 錠12mg:1回1錠を1日3回食後(1日36mg) | 錠25mg:1回1〜2錠を1日3回(1日75〜150mg) |
| 禁忌 | 設定なし(添付文書に項目自体がない) | 重篤な腎機能障害/本剤成分への過敏症の既往 |
| 注意が要る持病 | 消化性潰瘍、気管支喘息、褐色細胞腫又はパラガングリオーマ | 緑内障、前立腺肥大等の尿路閉塞、胃腸管の閉塞 |
| 主な副作用 | 悪心・嘔吐、発疹(いずれも0.1〜5%未満) | 口渇、浮動感・不安定感、調節障害、傾眠ほか多数 |
| 吐き気への効果 | 添付文書・ガイドラインに記載なし | 制吐作用の記載あり |
| 推奨度(前庭神経炎診療ガイドライン2021年版) | C1(考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない) | B(行うよう勧められる。急性期の悪心・嘔吐に対して) |
| ヒトの薬物動態データ | 公表資料になし | あり(最高血中濃度まで約1.6時間) |
| 日本版抗コリン薬リスクスケール | 収載なし | スコア3(最高点) |
| 薬価(記事執筆時点) | 錠6mg・錠12mgとも10.8円/錠 | 錠25mg 6.3円/錠 |
| 同成分の市販薬 | 確認できない | トラベルミンRに配合(ただし乗物酔い用) |
効能の書き方に差があります。メリスロンは病名を挙げ、それに伴うめまい・めまい感が対象です。セファドールは病名を挙げず、内耳が原因のめまいをまとめて拾います。
用法はどちらも1日3回で共通です。ただしmg数は1日18〜36mgと75〜150mgで桁が違います。成分が別なので、この数字の大小で強さは比べられません。
食事の指定にも差があります。メリスロンは「食後」と指定があり、セファドールには食事に関する記載がありません。飲み忘れを防ぐため食後でそろえることが多く、他剤の都合でずらしても添付文書上は差し支えありません。
薬価は窓口で役に立ちます。どちらも後発品が先発品と同額で、セファドールは統一名収載、メリスロンは後発品5社がすべて10.8円です。「ジェネリックに変えたい」と言われても、この2剤では自己負担は変わりません。
セファドール顆粒10%は2023年4月に販売中止となり、現在は錠25mgのみです。古い資料には顆粒の記載が残っていることがあるので、剤形の話をするときは注意してください。
診療ガイドラインではどう位置づけられているか
処方の印象とガイドラインの評価が、いちばんずれる部分です。
前庭神経炎診療ガイドライン2021年版での推奨度はC1とB
前庭神経炎は、内耳から脳へ信号を送る前庭神経に障害が起き、激しい回転性めまいと嘔吐が数日続く病気です。難聴や耳鳴りは伴いません。日本めまい平衡医学会が前庭神経炎診療ガイドライン2021年版を出しており、学会サイトで公開されています。
臨床で迷う問いを立てて答えるクリニカルクエスチョン(CQ)という形式で作られており、答えごとに推奨度が付きます。定義は次のとおりです。
- A:行うよう強く勧められる
- B:行うよう勧められる
- C1:行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない
- C2:科学的根拠がないので、勧められない
- D:行わないよう勧められる
急性期の抗めまい薬を扱ったCQ1の推奨は、「抗めまい薬の前庭神経炎急性期を対象とした有効性について、エビデンスに乏しい。しかしベタヒスチンは末梢性めまいに対して有効である可能性があるので考慮してもよい。【推奨度C1】」です。
急性期の制吐薬(吐き気止め)を扱ったCQ2の推奨は、「ジフェニドールはさまざまな悪心・嘔吐に対して有効であり、前庭神経炎の急性期に考慮してもよい。【推奨度B】」です。同じCQの中で、第1世代の抗ヒスタミン薬は推奨度C1にとどまります。
急性期の吐き気という場面に限れば、推奨度が高いのはジフェニドールのほうです。「メリスロンのほうが定番だから効くはず」という感覚とは向きが逆になります。
慢性期についても、CQ5でベタヒスチンは推奨度C1です。さらにCQ6では「慢性期の前庭神経炎に前庭リハビリテーションは有効である。【推奨度A】」とされています。頭や眼を動かしてめまいに慣れさせる運動療法のほうが、薬より推奨度が高い並びです。
メニエール病では、海外の大規模試験で発作予防効果が示されなかった
メニエール病は、めまい発作を繰り返し、難聴・耳鳴り・耳閉感が変動する内耳の病気です。メリスロンの効能・効果に病名が明記されている代表的な疾患ですが、効能に載っていることと、発作を減らす効果が試験で示されていることは別の話です。
欧州で行われた多施設共同の二重盲検・プラセボ対照ランダム化比較試験(BEMED試験、BMJ 2016年)では、ベタヒスチンを低用量・高用量のいずれで投与しても、プラセボと比べてめまい発作の頻度に有意な差は示されませんでした。プラセボは、見た目が同じで有効成分の入っていない偽薬です。
ただし、この試験で使われたのはベタヒスチン二塩酸塩で、国内で使われているのはベタヒスチンメシル酸塩です。分子量は二塩酸塩が209.2、メシル酸塩が328.4で、同じmg数でも含まれるベタヒスチンの量が違います。塩の種類も1日量も異なるため、結果をそのまま国内の処方に当てはめることはできません。
つまり「効かないことが証明された」のではなく、「海外の条件で行われた大規模試験では、発作予防の上乗せが示されなかった」という受け止めが正確です。
メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドラインは2025年版が最新で、それ以前は2020年版でした。推奨を引用するときは版を確認してください。
症状・病気別に、どちらが選ばれやすいか
吐き気・嘔吐が強いときにセファドールが選ばれる理由
急性期のめまいで吐き気と嘔吐が強いと、内服そのものが難しくなり、水分も取れなくなります。ジフェニドールは、前庭からの異常な信号を前庭神経核と視床下部で遮断してめまいを抑え、これとは別に延髄の嘔吐中枢を直接抑えて嘔吐を抑えるとされています。めまいと吐き気に別の経路で届く薬、という位置づけです。
前庭神経炎診療ガイドライン2021年版の治療の項にも、急性期に用いる薬としてジフェニドール75mg、ジフェンヒドラミン10mgといった記載があります。
ただし、ジフェニドール75mg 分3が置かれているのは「外来治療」の欄で、同じ項の「入院治療」に内服薬は並んでいません。
ガイドラインは「めまいが高度の場合は原則入院させ、まず7%重曹水の点滴静注(250mLまで)を行う」としています。あわせて制吐薬としてメトクロプラミド10mgの筋注または静注、ドンペリドン60mgの坐薬、抗不安薬としてジアゼパム5mgまたは10mgの筋注が挙がります。
つまりセファドールが選ばれるのは、吐き気があっても内服が続けられる段階です。嘔吐で錠剤が飲めない状態は注射と坐薬の領域で、抗めまい薬をどちらにするかより前の話になります。
対してメリスロンには、吐き気に対する効果を示す記載が添付文書にもガイドラインにもありません。むしろ副作用の側に悪心・嘔吐が0.1〜5%未満の頻度で挙がっています。吐き気が前面に出ている場面で選びにくいのは、この非対称によるところが大きいと考えられます。
病気ごとの位置づけ(メニエール病・前庭神経炎・BPPV)
メニエール病では、効能・効果に病名が明記されているのはメリスロンだけです。セファドールの「内耳障害にもとづくめまい」にもメニエール病は含まれますが、病名としての明記はありません。診断がついて継続的に服用する場面でメリスロンが使われやすいのは、この差によります。
ただしメニエール病での推奨度は、前庭神経炎ではなくメニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドラインで確認します。同ガイドラインは薬物治療の基本を浸透圧利尿薬に置き、イソソルビドを1日90〜120mL、分3で開始すると本文に記載しています。抗めまい薬は、イソソルビドと併用または単独で投与されることがある、という位置づけです。
ベタヒスチンの評価は、投与期間で分かれます。2020年版では、3か月以下の短期投与に推奨度B、1年におよぶ長期投与には「無効であり長期間使用すべきではない」として推奨度C2が付いていました。2025年版が最新のため、推奨を引用するときは最新版で確認してください。年単位で漫然と続いているメリスロンは、期間の観点から見直しの対象になりえます。
前庭神経炎では、急性期と慢性期で優先順位が変わります。急性期の吐き気にジフェニドールが推奨度B、慢性期は前庭リハビリテーションが推奨度A、ベタヒスチンはいずれの時期も推奨度C1です。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、頭を動かしたときに数十秒でおさまる回転性めまいが起こる病気です。内耳にある耳石という小さな結晶が、本来と違う場所に入り込むことで生じます。治療の中心は薬ではなく、頭の位置を順に変えて耳石を戻す浮遊耳石置換法とされ、抗めまい薬は補助的な位置づけです。診療ガイドラインは2023年版が最新になります。
薬で様子を見てはいけないめまい(すぐ受診が必要なサイン)
めまいの多くは内耳が原因ですが、脳卒中のこともあります。日本めまい平衡医学会の急性めまい診療フローチャート(2019年)では、まず血圧と眼瞼結膜でショックや失神を除外し、続いて中枢性、つまり脳が原因のめまいを除外する流れが示されています。
- 眼球運動の障害(物が二重に見える、眼球が動かしにくい)
- 構音障害(ろれつが回らない)
- 顔面や上下肢の運動麻痺・感覚障害
- 小脳症状(立てない、まっすぐ歩けない、手足が思うように使えない)
- 激しい頭痛、意識が遠のく
これらがあれば脳卒中を疑い、ただちに救急受診の対象になります。難聴・耳鳴り・耳閉感を伴う急なめまいは、突発性難聴やメニエール病の可能性があります。突発性難聴は治療開始の早さが結果に影響するため、早期の耳鼻咽喉科受診をすすめます。
セファドールの添付文書15.1には、「制吐作用を有するため、他の薬物(ジギタリス等)の過量投与に基づく中毒、腸閉塞、脳腫瘍等による嘔吐症状を不顕性化することがある」と記載されています。不顕性化とは、症状が表に出なくなることです。吐き気が薬でおさまっていても、裏で危険な原因が進行している可能性が残ります。「吐き気が軽くなっても、強い頭痛・麻痺・腹痛が出たら受診を」と伝えておく必要があります。
飲んではいけない人・注意が必要な人
実務で選択が決まるのは多くの場合ここで、2剤の非対称がはっきり出ます。
セファドールの禁忌と慎重投与(腎機能・緑内障・前立腺肥大・胃腸管閉塞)
セファドールの添付文書には「2. 禁忌」の項があり、重篤な腎機能障害のある患者と、本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者が挙げられています。腎機能障害が禁忌なのは、本剤の排泄が低下して蓄積が起こり、副作用が発現するおそれがあるためです。
慎重に投与する対象は、抗コリン作用に由来するものが並びます。緑内障は眼圧を上昇させるおそれ、前立腺肥大等の尿路に閉塞性疾患のある患者は排尿困難を悪化させることがある、胃腸管に閉塞のある患者は症状を悪化させることがある、という理由です。薬疹・蕁麻疹等の既往歴のある患者も対象に含まれます。
この「緑内障」の書き方には注意が要ります。セファドールの添付文書は「緑内障の患者」とだけ記載し、開放隅角か閉塞隅角かを区別していません。
抗コリン薬の緑内障記載は、2019年6月18日の厚生労働省通知(薬生安発0618第2号)で「閉塞隅角は禁忌、開放隅角は慎重投与」へ書き分けられました。対象は禁忌または狭隅角緑内障を記載していた製剤に限られ、セファドールは慎重投与だったため対象から外れ、区別のない書き方が残っています。
日本眼科医会と日本緑内障学会の資料では、開放隅角緑内障の患者では多くの場合安全に使用でき、閉塞隅角でもレーザー虹彩切開術や水晶体摘出術を受けていれば原則使用可能とされています。緑内障の申告があったら、病型と手術歴まで確認する価値があります。最終的な可否は主治医と眼科の判断になります。
なお、ジフェニドールの抗コリン作用を「弱い」とする記載は、添付文書にもインタビューフォームにもありません。受容体への結合データも記載がなく、ラットの反復投与毒性試験では全投与群で散瞳が認められています。
つまりセファドールは、腎機能と、抗コリン作用が困る持病の有無を確認しないと出せない薬です。高齢者では複数が同時に当てはまることも珍しくありません。
メリスロンには禁忌の設定がない。ただし注意すべき持病はある
メリスロンの添付文書には「2. 禁忌」の項目自体がありません。インタビューフォーム(添付文書を補う詳しい資料)でも、併用禁忌・併用注意はいずれも「設定されていない」となっています。
ただし、禁忌がないことは「誰に使っても差し支えない」という意味ではありません。合併症・既往歴等のある患者として、次の3つが挙げられています。
- 消化性潰瘍の既往歴のある患者、活動性の消化性潰瘍のある患者:ヒスタミン類似作用があるため、H2受容体(胃酸の分泌に関わるヒスタミン受容体)を介して胃酸分泌が亢進するおそれ
- 気管支喘息の患者:H1受容体(気道の収縮などに関わるヒスタミン受容体)を介して気道が収縮するおそれ
- 褐色細胞腫又はパラガングリオーマのある患者:アドレナリンの過剰分泌により血圧が上昇するおそれ
いずれもヒスタミン類似作用から説明が付きます。メリスロンで注意が要るのは「ヒスタミンに似た働きが困る持病」、セファドールで注意が要るのは「抗コリン作用が困る持病」と整理できます。この対比を押さえておくと、処方が変わった理由も説明しやすくなります。
高齢者・妊娠中・授乳中・小児で確認すること
高齢者は、両剤とも「減量するなど注意すること。一般に生理機能が低下している」と記載があります。特に問題になりやすいのはセファドールの抗コリン作用で、副作用として口渇や排尿困難に加え、幻覚(0.1%未満)、錯乱(頻度不明)も挙げられています。
日本老年医学会の高齢者の安全な薬物療法ガイドラインは、2025年7月に刊行された2025年版が最新です。この版には、日本老年薬学会が2024年5月に公開した日本版抗コリン薬リスクスケールが付録として収載されました。日本で用いられる158薬物にスコア1〜3を付けた一覧で、抗コリン作用を持つ薬を合算して負荷を見る考え方が示されています。
このスケールで、ジフェニドールは最高点のスコア3です。薬効群は「制吐薬・鎮暈薬」で、スコア3が付いた37薬物の一つに入っています。ベタヒスチンはこの一覧に収載されていません。高齢者でメリスロンからセファドールへ処方が変わると、抗コリン負荷は0点から3点に動くことになります。
このスコア3は国内の合意形成による日本独自の評価で、海外の代表的な3スケール(ACoB・ARS・ADS)にジフェニドールは入っていません。海外の文献に見当たらないことを、負荷が低い根拠にはできません。
妊婦は、両剤とも「治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すること」です。授乳婦も同じ書き方で、「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」とされています。
国立成育医療研究センターの授乳中に安全に使用できると考えられる薬(2025年8月改訂)には、ベタヒスチンもジフェニドールも記載がありません。ただし同センターは、研究がないため表に記載していない薬であっても授乳中に安全に使用できると考えられる薬がある、と注記しています。載っていないことは危険を意味しません。小児については、両剤とも「小児等を対象とした臨床試験は実施していない」と記載されています。
副作用の違いはどこに出るか
記載されている副作用の量が大きく違う
| 分類 | メリスロン | セファドール |
|---|---|---|
| 精神神経系 | 記載なし | 浮動感・不安定感、頭痛・頭重感(0.1〜5%未満)、幻覚(0.1%未満)、錯乱(頻度不明) |
| 消化器 | 悪心・嘔吐(0.1〜5%未満) | 口渇、食欲不振、胃・腹部不快感、胸やけ、悪心・嘔吐、胃痛(0.1〜5%未満) |
| 眼 | 記載なし | 調節障害(0.1〜5%未満)、散瞳(0.1%未満) |
| 皮膚・過敏症 | 発疹(0.1〜5%未満) | 発疹・蕁麻疹(0.1〜5%未満) |
| 肝臓 | 記載なし | 肝機能異常(AST・ALT・Al-Pの上昇等、0.1%未満) |
| その他 | 記載なし | 傾眠、動悸、顔面熱感、口内違和感(0.1〜5%未満)、排尿困難(0.1%未満) |
| 重大な副作用 | 設定なし | 設定なし |
AST・ALT・Al-Pは、いずれも肝臓や胆道の状態を反映する血液検査の項目です。セファドールの発現頻度は、使用成績調査を含んだ値とされています。
ただし、この差をそのまま安全性の差と読み替えるのは正確ではありません。承認時期も、頻度を集めた方法も違うためです。腎機能障害や緑内障といった背景が加われば、安全と言えるほうは入れ替わります。
効くまでの時間は、なぜ2剤で答えが違うのか
「どれくらいで効くのか」はよく聞かれますが、答えるための資料の量が2剤で違います。
セファドールは約1.6時間で血中濃度が最高、半減期は約6.5時間
セファドールの添付文書には、ヒトでの薬物動態が載っています。薬物動態とは、体に入った薬がどう吸収され、どう消えていくかを示すデータです。低胃酸の健康成人10例に1錠(ジフェニドール塩酸塩25mg)を絶食時に単回経口投与した試験で、次の値が得られています。
- Tmax(最高血中濃度に達するまでの時間):1.60±0.39時間
- Cmax(最高血中濃度):59.1±22.8 ng/mL
- t1/2(半減期。血中濃度が半分になるまでの時間):6.51±2.92時間
- AUC0-24hr(24時間までの血中濃度曲線下面積。体が薬にさらされた総量の指標):321±139 ng・hr/mL
飲んでから約1時間半でピークに達し、そこから約6.5時間で半分になります。1日3回という用法は、この消え方に合っています。
ただし、血中濃度が最高になる時刻と症状が楽になる時刻は同じではありません。健康成人に1回だけ飲んでもらった条件のデータで、年齢や腎機能でも変わります。あくまで目安として扱う値です。
メリスロンは、ヒトでの血中濃度データが公表されていない
メリスロンのインタビューフォームを開くと、薬物動態の項はほぼ「該当資料なし」で埋まっています。治療上有効な血中濃度、中毒域、食事・併用薬の影響、吸収速度定数、消失速度定数、クリアランス、分布容積、いずれも該当資料なしです。
「臨床試験で確認された血中濃度」の欄に載っているのは、参考として示されたビーグル犬のデータだけです。ベタヒスチンメシル酸塩として240mgを単回経口投与したとき、投与60〜90分後に最高値に達した、という内容にとどまります。ヒトの血中濃度も半減期も、公表資料には存在しません。
つまりメリスロンについて、「飲んで何時間で効きます」と数字で答えられる一次資料はありません。答えられるのは、1日3回食後で継続して使う設計の薬であること、国内では総計875例の二重盲検試験を含む臨床試験で有用性が認められていること(添付文書17.1.1)までです。
効かないと感じるときに考えること(1日36mgという付記)
前庭神経炎診療ガイドライン2021年版のCQ1には、用量についての付記があります。逐語で示します。
「海外で市販されているベタヒスチンはベタヒスチン塩酸塩であるが、本邦で市販されているものはベタヒスチンメシル酸塩である。ベタヒスチン塩酸塩16mgはベタヒスチンメシル酸塩24mgに相当する。海外のRCTで用いられているベタヒスチン塩酸塩1日量16〜48mgは、ベタヒスチンメシル酸塩に換算すると24〜72mgとなる。しかし、本邦におけるベタヒスチンメシル酸塩用量は18〜36mgと低用量である。」
そのうえで、「本邦のベタヒスチンメシル酸塩は1日量36mgで使用すべきであり、1日量18mgでは効果が低い可能性がある」と書かれています。RCTはランダム化比較試験の略で、参加者をくじ引きのように振り分けて効果を比べる方法です。
メリスロンの効果が乏しいという訴えがあるとき、1日量が18mgにとどまっている可能性を検討する余地があります。ただし用量を変えるかどうかは処方医の判断で、患者が自分で錠数を増やす話ではありません。
用量を見るときは、規格も一緒に確認します。メリスロンには錠6mgと錠12mgの2規格があり、1日36mgはどちらでも組めます。12mg錠の添付文書は「1回1錠を1日3回」を通常用法として記載しており、36mgなら12mg錠のほうが素直です。1978年発売で、増量用に後から出た規格ではありません。
ここで薬剤費に差が出ます。6mg錠も12mg錠も薬価は1錠10.8円で同額のため、6mg錠2錠×3回は1日64.8円、12mg錠1錠×3回は1日32.4円と倍違います。18mgから36mgへ増やす場面では、12mg錠に替えれば薬剤費を変えずに用量を倍にできる計算です。規格の変更も処方医の判断になります。
薬以外の手が残っていることも伝える価値があります。慢性期では前庭リハビリテーションが推奨度Aです。効かないという相談を、そのまま増量の相談に直結させないための材料になります。
メリスロンとセファドールは併用してよいのか
2剤が同時に処方されることは実際にあり、飲み合わせの相談も多い部分です。
併用禁忌・併用注意は、どちらにも設定されていない
メリスロンはインタビューフォームで併用禁忌・併用注意ともに「設定されていない」、セファドールも相互作用の項が「設定されていない」となっています。併用してはいけないという一次資料上の根拠はありません。
前庭神経炎診療ガイドライン2021年版の外来治療は、抗めまい薬としてジフェニドール75mg 分3、ベタヒスチン36mg 分3、アデノシン三リン酸300mg 分3の3つを挙げ、「いずれかを単独または併用」と記載しています。狙う場所が違うため、めまいそのものと吐き気を同時に抑える意図で重なることがあります。制吐薬そのものの使い分けは、プリンペランとナウゼリンの違いと使い分けで整理しています。
実際の処方箋では、メリスロンにアデホスコーワ顆粒が併記されている形もよく見ます。アデホスの効能・効果には「メニエール病及び内耳障害に基づくめまい」があり、この適応だけ用量が別建てで1回100mgを1日3回、顆粒10%なら1日3g 分3です。
添付文書の臨床成績には、末梢性耳性めまいで300mg/日群76例の改善率が150mg/日群65例より有意に高かった国内二重盲検試験が載っています(17.1.5)。頭部外傷後遺症などで使う1日120〜180mgのまま続いていると、めまいには量が足りません。
薬理から引っかかる組み合わせもあります。ベタヒスチンはヒスタミン類似作用を持つため、抗ヒスタミン薬と打ち消し合わないか、という疑問です。英国の製品情報には、抗ヒスタミン薬との相互作用が理論上いずれかの薬剤の有効性に影響しうる、という記載があります。
ただし日本では、両剤とも相互作用の設定がありません。前庭神経炎診療ガイドライン2021年版の外来治療も、ベタヒスチン36mg 分3とジフェンヒドラミン10mgの頓用を並べて記載しています。理論上の懸念にとどまり、疑義照会の対象になる組み合わせではありません。
併用の上乗せ効果を示す一次のエビデンスまでは確認できていない
2剤を併用したほうが単剤より優れているかを検証した国内の比較試験は確認できていません。併用は行われているものの、上乗せ効果を示す一次のエビデンスまでは確認できていない、という状況です。「2剤出ているから重症」という受け取り方にならないよう、意図を先に説明しておくと誤解が減ります。
併用注意の設定がないことと、抗コリン負荷が重ならないことは別の話です。第1世代の抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、過活動膀胱の治療薬など、抗コリン作用を持つ薬が他にも入っていれば、口渇や排尿困難は重なって出ます。高齢者では特に、処方全体を見て判断する必要があります。
よくある質問
- 服用中に車の運転をしてもよいですか
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どちらも医療用の添付文書に運転を禁止する記載はありません。ただし同じジフェニドールを含む市販薬トラベルミンRは、服用後に乗物や機械類の運転操作をしないよう明記しています。傾眠や調節障害があること、めまい自体が運転に影響することも含め、控えるよう説明してください。
- 市販薬で代わりになるものはありますか
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トラベルミンRにはジフェニドール塩酸塩16.6mgとスコポラミンが配合され、抗コリン薬が2成分入ります。効能は乗物酔いによるめまい・吐き気・頭痛の予防及び緩和で、内耳障害にもとづくめまいの治療薬ではありません。ベタヒスチンを含む市販薬は確認できていません。
- いつまで飲み続けるものですか
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添付文書に服用期間の定めはなく、病名や経過によって変わります。前庭神経炎の慢性期のように、薬よりリハビリの推奨度が高い場面もあります。自己判断で中止しないよう伝えたうえで、症状の変化をもとに主治医が判断する形になります。
- メリスロンに気持ちを落ち着かせる作用はありますか
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承認された効能・効果はメニエール病などに伴うめまい、めまい感で、精神を安定させる作用は含まれていません。ふらつきや不安が強い場合は原因の見直しが必要になるため、主治医に相談する形になります。
メリスロンとセファドールの違いと使い分けのまとめ
- 効能に病名(メニエール病、メニエール症候群、眩暈症)があるのはメリスロン。セファドールは「内耳障害にもとづくめまい」という枠
- 吐き気が強い急性期は、前庭神経炎診療ガイドライン2021年版で推奨度Bのジフェニドールに根拠がある。ベタヒスチンは推奨度C1
- 禁忌があるのはセファドールだけ(重篤な腎機能障害と過敏症の既往)。緑内障・前立腺肥大・胃腸管閉塞は抗コリン作用のため慎重投与。添付文書は隅角の病型を区別していない
- メリスロンは禁忌の設定がない代わりに、消化性潰瘍・気管支喘息・褐色細胞腫でヒスタミン類似作用への注意がある
- ヒトの薬物動態データがあるのはセファドールだけ。メリスロンは「効くまでの時間」を数字で答えられない
- 併用禁忌・併用注意はどちらにも設定がない。ただしジフェニドールは日本版抗コリン薬リスクスケールでスコア3のため、抗コリン負荷の重複は別に確認する
違いを一つに絞るなら、「吐き気まで抑えにいく薬かどうか」です。処方が変わった理由を尋ねられたときも、強さの上下ではなく、症状と持病に当てはまるほうへ寄せた結果だと説明できます。2剤とも出ている場合は、狙う場所が違うため重ねることがある、と伝えれば足ります。
説明の前に、次を確認しておくと話が組み立てやすくなります。
- 吐き気・嘔吐が続いているか(急性期か、落ち着いたあとか)
- 診断名がついているか(メニエール病、前庭神経炎、BPPV、めまい症)
- 腎機能、緑内障(開放隅角か閉塞隅角か、手術歴があるか)、前立腺肥大、胃腸管の閉塞の有無
- 抗コリン作用を持つ薬が他に入っていないか
- 高齢者かどうか、妊娠中・授乳中かどうか
- メリスロンが効かないという訴えなら、1日量が18mgか36mgか、規格が6mg錠か12mg錠か
最後に、めまいで最初に確認すべきなのは薬の選択ではなく、中枢性が除外できているかどうかです。上に挙げた脳卒中を疑う所見があれば、抗めまい薬で様子を見る場面ではありません。
参考文献
- メリスロン錠6mg・12mg 添付文書/インタビューフォーム(エーザイ、添付文書2025年4月改訂・第4版、インタビューフォーム2025年4月改訂・第11版/PMDA掲載)
- セファドール錠25mg 添付文書/インタビューフォーム(日本新薬、添付文書2021年4月改訂・第1版、インタビューフォーム2024年2月改訂・第6版/PMDA掲載)
- 日本めまい平衡医学会「診療ガイドライン一覧」(前庭神経炎診療ガイドライン2021年版、メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2025年版・2020年版、良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン2023年版)
- Adrion C, et al. Efficacy and safety of betahistine treatment in patients with Meniere's disease(BEMED trial)(BMJ 2016;352:h6816)
- 日本老年薬学会「日本版抗コリン薬リスクスケール」一覧(第2版・2024年5月作製/2024年5月17日公開)
- 厚生労働省 医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知「抗コリン作用を有する薬剤における禁忌「緑内障」等に係る添付文書の使用上の注意改訂について」(薬生安発0618第2号、令和元年6月18日)
- 日本眼科医会・日本緑内障学会「抗コリン薬と緑内障」(緑内障連絡カード解説)(カード2023年6月10日改訂/緑内障診療ガイドライン第5版 2022年に基づく)
- アデホスコーワ顆粒10% 添付文書(興和、2021年3月改訂・第1版)
- Serc-16(betahistine dihydrochloride)Summary of Product Characteristics(英国 emc)(2025年11月改訂)
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト」(内用薬/令和8年8月1日適用)
- 厚生労働省 高齢者医薬品適正使用検討会 資料「新しい高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025)」
- 国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター「授乳中に安全に使用できると考えられる薬 薬効順」(2025年8月改訂)
- エーザイ「トラベルミンR 製品情報・添付文書」(第2類医薬品/使用上の注意「服用後、乗物又は機械類の運転操作をしないでください」)
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「めまい・顔面神経麻痺」(良性発作性頭位めまい症の耳石置換法/2026年8月確認)
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「耳の病気」(突発性難聴の早期治療と聴力予後/2026年8月確認)
