プリンペランとナウゼリンは、どちらも吐き気に使われるドパミンD2受容体拮抗薬です。ただ、脳へ移行しやすいかどうかが違います。そこから、使える年齢も、禁忌の範囲も、副作用の出方も分かれます。
この記事では、2剤の作用のしくみ、使える病気(適応症)の違い、副作用や禁忌、飲み方、そして2025年に変わった妊娠中の扱いを、添付文書などの一次情報をもとに薬剤師の視点で整理しました。
- プリンペランとナウゼリンの違いの核は「脳に入るか、入りにくいか」
- 「どっちが効く」は強さではなく吐き気の原因と適応症で決まる
- 副作用・禁忌・飲み方・併用の違いと、対象者別の使い分け
- 2025年に解除されたナウゼリンの妊婦禁忌の正しい読み方
結論:違いは「脳に入るか、入らないか」。使い分けは「吐き気の原因」で決まる
プリンペランとナウゼリンは、どちらも「ドパミンD2受容体」をブロックして吐き気を抑える薬です。土台の仕組みは同じですが、いちばんの違いは成分が脳に入るか、入りにくいかにあります。プリンペラン(成分名メトクロプラミド)は脳へ入り、ナウゼリン(成分名ドンペリドン)は入りにくい。この差が、手のふるえなどの副作用の出やすさの違いにつながります。
そして多くの人が知りたい「どっちが効くのか」の答えは、効き目の強弱ではありません。その吐き気の原因や場面が、その薬の「使える病気(適応症)」に入っているかどうかで決まります。同じ吐き気でも、原因によって向く薬が変わる、という考え方が出発点です。
- 違いの核は血液脳関門。プリンペランは脳に入り、ナウゼリンは入りにくい
- 「どっちが効く」は強さではなく、吐き気の原因が適応症に入るかで決まる
- 2025年5月にナウゼリンの妊婦への「禁忌」が削除された(ただし、つわりへの適応が付いたわけではない)
一目でわかる比較表(プリンペランとナウゼリンの違い)
両剤の特徴を横並びにしました。細かい根拠はこのあとの各章で、添付文書をもとに説明します。
| 項目 | プリンペラン | ナウゼリン |
|---|---|---|
| 成分名(一般名) | メトクロプラミド | ドンペリドン |
| 分類(添付文書の表記) | 消化器機能異常治療剤 | 消化管運動改善剤 |
| 作用点 | CTZのD2遮断。5-HT3遮断の関与や5-HT4刺激も示唆 | 上部消化管とCTZのD2遮断(抗ドパミン作用) |
| 血液脳関門 | 通過する(動物データ) | 通過しにくい(動物データ) |
| 錐体外路症状 | 頻度不明。遅発性ジスキネジアは重大な副作用 | 0.1%未満(重大な副作用) |
| QT延長 | 添付文書に記載なし | 頻度不明で記載あり。心疾患・高齢者で注意 |
| 固有の禁忌 | 褐色細胞腫・パラガングリオーマの疑い | プロラクチノーマ |
| 共通の禁忌 | 消化管の出血・穿孔・閉塞(イレウス)、成分への過敏症 | |
| 妊婦 | 有益性投与(従来から禁忌ではない) | 2025年5月改訂で禁忌から有益性投与に変更 |
| 授乳婦 | 公的リストに掲載 | 公的リストに掲載。ただし大量投与は避ける |
| 剤形 | 錠・細粒・シロップ・注射(坐剤なし) | 錠・OD錠・ドライシロップ・坐剤(注射なし) |
| 小児の用量設定 | 細粒・シロップにあり(錠にはなし) | 錠・OD錠・ドライシロップ・坐剤10/30にあり(1日1.0〜2.0mg/kg、1日30mgまで) |
| 吸収の目安 | 経口投与量の約78%が24時間で尿中に排泄(吸収の目安) | バイオアベイラビリティ約13%(初回通過効果が大きい) |
| 効く目安(経口・半減期) | 約1時間でピーク/消失半減期 約4.7時間 | 約0.5時間でピーク/半減期 約10時間(β相) |
| 用法 | 1日2〜3回 食前 | 1日3回 食前 |
吸収や効くまでの時間の数値は外国人のデータを含む目安で、体質や状態によって変わります。なお2剤の吸収の数値は測定の指標が異なるため、単純に大小を比べられるものではありません。「何分で効く」と断定できる数字でもない点を、先にお伝えしておきます。
そもそも同じ薬? 商品名と成分名の対応
プリンペランとナウゼリンは、商品名(ブランド名)です。中身の成分名は、プリンペランが「メトクロプラミド」、ナウゼリンが「ドンペリドン」です。処方箋や説明で「メトクロプラミド=プリンペランのこと」「ドンペリドン=ナウゼリンのこと」と読み替えれば、同じ薬を指しています。
「プリンペランとメトクロプラミドは何が違うの?」という疑問をよく耳にしますが、両者は別の薬ではなく、商品名と成分名の関係です。ナウゼリンとドンペリドンの関係も同じです。
ジェネリック名(プラミールなど)も中身は同じ成分
後発医薬品(ジェネリック)になると、また別の名前で処方されることがあります。たとえば「プラミール」はメトクロプラミドの後発品の名前です。ドンペリドンにも同じ成分の後発品があります。名前が違っても、有効成分が同じなら同じ働きの薬だと考えて差し支えありません。手元の薬の名前が違って不安なときは、薬局で成分名を確認すると整理できます。
違い①:作用の仕組み(どちらもドパミンD2をブロック。差は血液脳関門)
両剤とも、延髄にある「CTZ(化学受容器引き金帯)」と上部の消化管に働き、吐き気を抑えつつ胃腸の動きを整えます。仕組みの土台は同じD2受容体のブロックです。決定的に違うのは、成分が血液脳関門(脳を守る関所のような仕組み)を通るかどうかです。
メトクロプラミドは脳に分布することが動物実験で示されています。一方ドンペリドンは、動物実験で脳内の濃度が血液中のおよそ5分の1にとどまり、脳にはほとんど入りません。これらはヒトでの定量比較ではなく動物のデータですが、この差が中枢性の副作用(手のふるえなどの錐体外路症状)の出やすさの違いを生む、と考えられています。
CTZは「脳の外側」にある。ナウゼリンでも吐き気に効く理由
「ナウゼリンは脳に入らないなら、吐き気にも効かないのでは?」と思われがちですが、これは誤解です。吐き気の中枢であるCTZは、血液脳関門の外側にあります。そのため、脳の内部まで入らなくても薬が届き、吐き気を抑えられます。ナウゼリンが吐き気に効くのは、この構造上の理由からです。
プリンペランはセロトニン受容体にも関与している(示唆)
メトクロプラミドは、D2受容体のブロックに加えて、セロトニンの5-HT3受容体を抑える関与や、5-HT4受容体を刺激して胃腸の動きを高める作用も示唆されています。添付文書の表現も「示唆されている」であり、確定した作用として言い切られているわけではありません。プリンペランのほうが作用の幅がやや広い、と受け止めておくとよいでしょう。
違い②:使える病気(効能・効果)が違う。ここが「どっちが効く」の本当の答え
「どっちが効くか」を分けるのは、効き目の強さではなく、その吐き気の原因が、それぞれの薬で保険上認められた「使える病気(適応症)」に入っているかどうかです。適応症を見比べると、2剤はかなり性格が違います。
プリンペランが使える場面(胃炎・潰瘍・薬剤性・術後・バリウム通過促進など)
プリンペランの効能・効果は幅広く、次のような場面での消化器症状(悪心・嘔吐・食欲不振・腹部膨満感)に使えます。
- 胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胆嚢・胆道疾患、腎炎、尿毒症
- 乳幼児の嘔吐
- 薬剤(制癌剤・抗生物質・抗結核剤・麻酔剤)投与時、胃内・気管内挿管時、放射線照射時、開腹術後
- X線検査時のバリウムの通過促進
「胃炎」や「薬剤投与時」といった幅広い項目が含まれるため、いろいろな原因の吐き気に対応しやすいのが特徴です。
ナウゼリンが使える場面(剤形で適応が変わる点に注意)
ナウゼリンは、剤形によって使える病気が変わります。ここが見落とされやすいポイントです。
- 錠・OD錠(成人):慢性胃炎、胃下垂症、胃切除後症候群、抗悪性腫瘍剤またはレボドパ製剤の投与時の消化器症状
- 錠・OD錠(小児)/ドライシロップ・坐剤10・30(小児):周期性嘔吐症、上気道感染症、抗悪性腫瘍剤投与時(ドライシロップ・坐剤は乳幼児下痢症も)
- 坐剤60(成人):胃・十二指腸手術後、抗悪性腫瘍剤投与時
ここで大切な事実があります。大人の急性胃腸炎による吐き気は、ナウゼリン錠の適応症には含まれていません。成人の適応は慢性胃炎や胃切除後症候群、抗がん剤やレボドパ投与時などが中心です。つまり「胃腸炎で吐き気がつらい大人」には、適応の幅という点でプリンペランのほうが合う場面が多くなります。
ただし、ここは正確に押さえてください。プリンペランの効能・効果にも「急性胃腸炎」という病名はありません。実際の処方では、「胃炎」に伴う消化器症状として扱われています。適応症の一覧は、この読み替えを前提に見てください。
ただし、実際の処方は病状や体質、飲みやすさなど多くの事情を踏まえて主治医が判断します。適応症はあくまで「どちらが向きやすいか」を理解する材料であり、処方の当否を患者さん側で決めるためのものではありません。
剤形の違い:坐剤があるのはナウゼリンだけ/注射があるのはプリンペランだけ
剤形の選択肢にも、はっきりした差があります。ナウゼリンには坐剤(10・30・60mg)とドライシロップがあり、吐いて薬を飲めない子どもにも使えます。一方でプリンペランには坐剤がなく、錠・細粒・シロップ・注射がそろっています。注射剤があるのはプリンペランだけです。「吐いて飲めない」「点滴で使いたい」といった場面で、この剤形の違いが選択を左右します。
違い③:副作用の出方(錐体外路症状・プロラクチン上昇・QT延長)
副作用は、多くの人がいちばん気にする点です。結論からいうと、中枢性の副作用はプリンペランで出やすく、心臓(QT延長)や薬の飲み合わせの注意はナウゼリン側にあるという、非対称の関係になっています。
プリンペランで注意する錐体外路症状・遅発性ジスキネジア・悪性症候群
プリンペランでは、手指のふるえ、筋肉のこわばり、首や顔のつっぱり、眼球が上を向いたまま戻らない(眼球回転発作)といった錐体外路症状が知られています。添付文書では頻度不明とされています。長期に使うと、口周りなどの不随意運動が続く遅発性ジスキネジアが重大な副作用として挙げられ、中止後も症状が続くことがあります。ほかに悪性症候群、意識障害、けいれん、ショック・アナフィラキシーの記載もあります。
大切なのは、飲む期間です。プリンペランは、必要最小限の期間で終える薬だと考えてください。欧州では使用を原則5日までに制限する規制がかかり、米国でも12週を超える投与は避けるとされています。日本の添付文書に期間の上限はありませんが、吐き気が続くのに漫然と飲み続けている場合は、原因の再評価が必要です。
錐体外路症状は、飲み薬だけの話ではありません。プリンペランの注射液の添付文書にも、錐体外路症状、筋硬直、頸部攣縮、眼球回転発作、焦燥感(じっとしていられない感覚)が記載されています。点滴や注射で使ったあとに、そわそわ感や体のこわばりが出ることもあります。
ナウゼリンで注意するQT延長と相互作用(CYP3A4阻害薬)
ナウゼリンで気をつけたいのはQT延長(心電図の異常で、不整脈につながることがある)です。添付文書には、心疾患のある患者や高齢者で注意し、海外では重篤な心室性不整脈や突然死が報告されている、と記載されています。さらに、イトラコナゾールやエリスロマイシンなどのCYP3A4阻害薬と併用すると血中濃度が上がり、QT延長が報告されています。プリンペランの添付文書には、QT延長の記載はありません。
「ナウゼリンなら副作用がない」は誤解
「ナウゼリンは脳に入りにくいから副作用がない」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。ナウゼリンの添付文書にも、錐体外路症状(0.1%未満)や、小児での意識障害・けいれんが重大な副作用として記載されています。「出にくい」であって「出ない」ではない、という理解が大切です。
なお、公的な「錐体外路障害を引き起こす可能性がある薬剤一覧」にも、メトクロプラミドとドンペリドンの両方が挙げられています。どちらも中枢性の副作用と無縁ではありません。また、両剤ともプロラクチン(乳汁分泌などに関わるホルモン)を上げることがあり、女性化乳房や乳汁分泌、月経異常が起こる場合があります。「頻度不明」と「0.1%未満」は集計方法が違うため、どちらが何倍多い、といった数値比較はできません。差は質的なもの(機序の違いによる出やすさの差)と受け止めてください。
違い④:禁忌(飲んではいけない人)の違い
禁忌にも、共通する部分と、それぞれに固有の部分があります。共通するのは、消化管の出血・穿孔・イレウス(閉塞)と、成分への過敏症です。胃腸の動きを高める作用が、これらの状態を悪化させるおそれがあるためです。
共通の禁忌:消化管の出血・穿孔・イレウス/成分への過敏症
消化管に出血や穴(穿孔)、詰まり(機械的イレウス)がある人は、どちらの薬も使えません。胃腸を動かす力が、かえって病態を悪くする可能性があるからです。成分に対して過敏症の既往がある人も同様に禁忌です。
プリンペランだけの禁忌/ナウゼリンだけの禁忌
固有の禁忌は次のとおりです。プリンペランは、褐色細胞腫やパラガングリオーマ(副腎などの腫瘍)の疑いがある人が禁忌で、急激な血圧上昇を起こすおそれがあります。ナウゼリンは、プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)の人が禁忌です。抗ドパミン作用がプロラクチンの分泌を促すためです。なお、ナウゼリンでは長く「妊婦」も禁忌とされていましたが、2025年の改訂で削除されました。この重要な変更は、次章でくわしく説明します。
違い⑤:飲み方と効き始める時間
飲み方は、どちらも「食前」が基本です。プリンペランは1日2〜3回、ナウゼリンは1回10mgを1日3回、いずれも食前に飲みます。胃腸の動きを食事のタイミングに合わせて整えるための飲み方です。用量は年齢や病状で調整されるため、具体的な量は処方の指示に従ってください。
どちらも食前。ナウゼリンは胃薬で効きが落ちることがある
ナウゼリン特有の注意として、制酸剤・H2ブロッカー(胃酸を抑える薬)・PPI(プロトンポンプ阻害薬)と一緒に使うと、胃の中の酸性度が下がって吸収が妨げられ、効果が弱まるおそれがあります。添付文書では、これらの薬と飲む時間をずらすよう注意されています。プリンペランの添付文書には、この記載はありません。胃薬と一緒に処方されているときは、飲む間隔について薬剤師に確認しておくと安心です。
何時間あける? 食後に飲んでしまったら?
「何時間あければいい?」という疑問はよく聞かれます。基本は1日3回の食前で、おおむね食事の間隔(4〜6時間程度)が目安です。ただし添付文書に最小の投与間隔の規定はなく、正確な飲み方は処方医・薬剤師の指示によります。自己判断で回数や量を追加しないでください。
食前と言われたのに食後に飲んでしまった、という場合も、慌てる必要はありません。吸収がやや落ちる可能性はありますが、飲んだこと自体が危険というわけではありません。次の回から食前に戻せば大丈夫です。効き目が出るまでの時間は、経口ではおおむね30分から1時間で血中濃度がピークに近づくのが目安ですが、体質や状態で変わります。効かないからと立て続けに飲み足すのは避け、心配なときは相談してください。
【2025年の重要な変更】ナウゼリンの「妊婦禁忌」が解除された
この記事でいちばん大きな話題が、これです。2025年5月の添付文書改訂で、ナウゼリン(ドンペリドン)の「妊婦または妊娠している可能性のある女性」という禁忌が削除されました。薬剤師として現場の感覚をお伝えすると、これまでは「妊娠中に使える吐き気止めといえばプリンペラン」という整理が一般的でした。そこにナウゼリンも禁忌ではなくなったという変化は、実務の前提を見直させる大きな更新だと受け止めています(これは一般的な見解であり、個々の治療方針は主治医の判断によります)。
何がどう変わったのか(禁忌から有益性投与へ)
変更の中身はシンプルです。これまで「妊婦は禁忌(原則使えない)」だったものが、「有益性投与」に変わりました。有益性投与とは、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」という位置づけです。厚生労働省の安全対策調査会での検討を経て、2025年5月改訂の添付文書で禁忌の項から妊婦の記載が外れ、妊婦の項に有益性投与と明記されました。
なぜ変わったのか(動物データ・疫学研究・海外添付文書・学会からの要望)
禁忌の根拠になっていたのは、動物実験での催奇形性でした。ただし厚労省の資料によると、その影響が出たのは最大推奨用量のおよそ65倍にあたる高用量で、23倍にあたる用量では催奇形作用は認められていません。近年のガイドラインでは、臨床用量の25倍を超える曝露でのみ生じる影響は、実際の使用での懸念は小さいとされています。
さらに、妊娠初期の使用を調べた疫学研究でも先天異常のリスク増加を示す結果は得られておらず、国内の産科ガイドラインでも「妊娠初期のみの使用なら臨床的に問題ないと判断してよい薬」の一覧に挙げられています。英国・カナダ・豪州・フランス・ドイツなど海外の添付文書でも妊婦禁忌ではありません。こうした背景に加え、日本産科婦人科学会や日本神経学会から禁忌解除の要望が出されていたことも、今回の改訂につながりました。背景には、妊娠に気づかず服用した女性が後から「妊婦禁忌」と知って強い不安を抱える、という現実的な問題もありました(出典: 厚生労働省「ドンペリドンの『使用上の注意』の改訂について」令和7年4月)。
注意:解除は「つわりに使ってよい」という意味ではない
ここは誤解しやすいので、はっきりお伝えします。禁忌が解除されたことは、「つわりにナウゼリンを使ってよくなった」という意味ではありません。つわり(妊娠悪阻)は、そもそもドンペリドンの適応症ではないからです。今回の改訂は「妊娠中でも一律に使えない薬ではなくなった」ということであって、つわりへの使用が認められたわけではありません。この違いを取り違えないことが大切です。
妊娠中・妊娠の可能性があるときは、吐き気止めを自己判断で飲まないでください。妊娠していること、その可能性があることは、受診時に必ず主治医に伝えましょう。使う薬は医師が判断します。
妊娠中の吐き気で処方されることが多いのはどちらか
プリンペラン(メトクロプラミド)は、もともと妊婦禁忌ではなく、以前から有益性投与の位置づけです。妊娠中の吐き気に処方された経験を持つ人も少なくありません。国内の産科診療ガイドラインでも、妊娠悪阻の治療に関して制吐薬が取り上げられています(推奨の詳細はガイドライン本文で確認が必要です)。
ただし、ここも正確に押さえてください。プリンペランの効能・効果にも「つわり(妊娠悪阻)」という病名はなく、妊娠中の吐き気への使用は適応外です。実際には「胃炎」などの消化器症状として処方されています。海外の大規模な疫学研究では、妊娠初期にメトクロプラミドを使用しても先天異常の増加は認められていません。「禁忌ではない」ことと「つわりに使える適応がある」ことは、どちらの薬でも別の話です。
いずれにしても、妊娠中に使う薬は、時期や体調をふまえて主治医が決めます。ここでは「自己判断で飲まない」「妊娠の可能性を必ず伝える」の2点を守ってください。
授乳中はどちらを使える?
授乳中については、どちらか一方が明確に優れている、とは言い切れません。国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」がまとめる『授乳中に安全に使用できると考えられる薬』の一覧には、ドンペリドン(ナウゼリン)とメトクロプラミド(プリンペラン)の両方が掲載されています。「授乳中はプリンペランのほうが安全」と書かれた記事もありますが、公的なリスト上は両方とも挙げられている、というのが正確な状況です。
添付文書上は、どちらも「有益性と母乳栄養の利点を考えて、授乳の継続または中止を検討する」とされ、母乳中への移行が知られています。ナウゼリンには「投与する場合は大量投与を避けること」との記載があります。優劣を決めつけず、授乳を続けながら使ってよいかは、必ず主治医に相談して判断してください。
なお海外には、ドンペリドンを母乳の分泌を増やす目的で使う運用があります。日本では認められた使い方ではありません。母乳の出を良くする目的で、手元の薬を飲まないでください。
子どもにはどちらを使う?(坐剤・ドライシロップ・連用の上限)
子どもの場合、剤形の選択肢に決定的な差があります。ナウゼリンには坐剤とドライシロップがあり、吐いて薬を飲めない子どもにも使えます。これは、嘔吐している子どもの実際の場面で大きな利点です。
とはいえ、プリンペランを子どもに使わないわけではありません。プリンペランには坐剤がなく、錠にも小児の用量設定がありません。ただし細粒とシロップには小児の用量が定められており(メトクロプラミドとして1日0.38〜0.53mg/kg=塩酸メトクロプラミドとして1日0.5〜0.7mg/kg、2〜3回に分けて食前)、効能・効果にも「乳幼児の嘔吐」が含まれます。吐いて飲めないときに坐剤を選べるのがナウゼリンの強みだ、という整理が正確です。
ナウゼリンを子どもに使うときは、添付文書に細かい注意があります。特に1歳以下の乳児では用量に注意し、3歳以下の乳幼児には7日以上の連用を避けることとされ、脱水や発熱があるときは投与後の様子に注意するよう記載されています。子どもでは錐体外路症状、意識障害、けいれんが起こることがあるためです。プリンペランも、子どもでは錐体外路症状が出やすく、脱水・発熱時にはとくに注意が必要とされています。大人の薬を割って子どもに飲ませることは避けてください。剤形も用量設定も異なります。
小児の胃腸炎の嘔吐に制吐薬は必要?(ガイドラインの立場)
「子どもの胃腸炎の吐き気に、吐き気止めは必要か」という点について、小児の急性胃腸炎に関する診療ガイドラインでは、積極的にはすすめていません。有効とする報告はあるものの、エビデンスは高くなく、一律に使う必要はないという立場です(使う場合は投与量に注意)。急性胃腸炎の嘔吐は自然に治まることが多く、薬の有効性と副作用のバランスを考えて判断する、という考え方です。なお、この推奨の詳しい表現は原典のガイドラインで確認が必要な点として補足しておきます。子どもが吐いてぐったりしているときは、薬より先に、水分がとれているか、受診が必要かを見極めることが優先されます。
補足すると、海外では小児の急性胃腸炎の嘔吐にオンダンセトロン(5-HT3受容体拮抗薬)を使うのが一般的です。日本では急性胃腸炎に対する適応がなく、保険診療の標準的な選択肢にはなっていません。日本の外来でナウゼリンの坐剤が選ばれやすい背景には、この事情もあります。
高齢者・パーキンソン病ではどちらを使う?(メトクロプラミドを避ける理由)
高齢者では、両剤とも慎重な使い方が求められます。プリンペランは主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下しがちな高齢者では血中濃度が高く続き、錐体外路症状が出やすくなるおそれがあります。
ナウゼリンは、高齢者で心臓のリスク(QT延長・不整脈)に注意が必要です。海外の研究では、1日30mgを超える用量や60歳を超える年齢で、重篤な不整脈や突然死のリスクが上がると報告されています。日本の成人の常用量は、1回10mgを1日3回、つまり1日30mgです。効かないからと自分で量を増やしてよい薬ではありません。公的な高齢者の原因薬一覧にも、両成分が挙げられています。
添付文書には、腎機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するおそれがある、と注意されています。高齢者では、量と期間を絞れないかが検討のポイントになります。ただし実際には、高齢の方に長く処方が続いているケースも珍しくありません。長く飲んでいるからただちに危険という意味ではなく、続ける必要があるかを一度立ち止まって考える機会にしてください。
気になるときは、処方した医師や薬局の薬剤師に「この量と期間で続けて大丈夫か」と聞いてみてください。手足のふるえ、じっとしていられない感じが出たときは、我慢せずに相談を。自己判断で中止せず、まず相談するのが安全です。
パーキンソン病では、使い分けの考え方がはっきりしています。メトクロプラミドは脳に入って中枢のドパミンをブロックするため、パーキンソン症状を悪化させるおそれがあり、制吐目的には避けるのが一般的です。この場面では、脳に入りにくいドンペリドンが選ばれることが多くなります。実際、ナウゼリンは「レボドパ製剤投与時」の消化器症状に適応を持ち、レボドパ併用時は1回5〜10mgを1日3回食前と、用量が別に定められています。ガイドライン上の推奨の細かな表現は原典で確認が必要ですが、「パーキンソン病ではメトクロプラミドを避ける」という運用は臨床で広く共有されています。
ただし、ナウゼリンなら無条件に安全というわけではありません。ドンペリドンも抗ドパミン薬であり、添付文書には錐体外路症状の記載があります。レボドパと併用して長く続けるときは、QT延長にも目を配る必要があります。
抗がん剤の吐き気ではどちらを使う?
抗がん剤治療に伴う吐き気では、予防の主役は別の薬です。制吐薬適正使用ガイドライン(2023年改訂)では、予防に5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾン、オランザピンなどが中心に位置づけられています。メトクロプラミド(プリンペラン)は、予防しきれずに出てきた「突出性」の吐き気に対して、弱く推奨されています(推奨の強さは弱め、エビデンスの強さはB)。「弱く推奨」という位置づけどおり、第一選択というより、状況に応じた選択肢の一つという受け止めが適切です。
ドンペリドン(ナウゼリン)は、このガイドラインの推奨一覧には登場しません。ただし添付文書上は「抗悪性腫瘍剤投与時」の消化器症状に適応を持っています。抗がん剤の吐き気対策は専門的な組み立てが必要な分野なので、実際の薬は担当医の判断に委ねられます。
併用してよい? 一緒に飲んではいけない薬は?
まず、プリンペランとナウゼリンを自分の判断で一緒に飲み足すのはやめてください。2剤を併用してはいけない、と添付文書に明記されているわけではありませんが、どちらも抗ドパミン作用を持つため、同じ系統の作用が重なり、錐体外路症状などが出やすくなる理屈が当てはまります。効かないからと自分でもう一方を足すのではなく、必ず医師・薬剤師に相談してください。
そのほか、飲み合わせで知っておきたい点は次のとおりです。
- フェノチアジン系(ノバミンなど)・ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)の抗精神病薬と併用すると、抗ドパミン作用が重なり錐体外路症状が出やすい(両剤とも併用注意)
- ベンザミド系(スルピリド=ドグマチール、チアプリドなど)は、プリンペランの添付文書に併用注意として明記されている。スルピリドは胃・十二指腸潰瘍にも使われ、胃薬として処方されていることがあるため、重複していないかお薬手帳で確認する
- 抗コリン薬(ブスコパンなど)と併用すると、胃腸を動かす作用が打ち消し合い、効果が弱まる(両剤とも併用注意)
- ジギタリス(ジゴキシンなど)の中毒症状(吐き気など)を分かりにくくするおそれ(両剤とも併用注意)
- ナウゼリンは、CYP3A4阻害薬(イトラコナゾール・エリスロマイシンなど)でQT延長のおそれ。プリンペランはカルバマゼピンの中毒症状に注意
なお、以前もらった残りの薬を、家族の吐き気に流用するのはやめてください。吐き気の原因は人によって違い、適応や禁忌、飲み合わせも一人ひとり異なります。安易な使い回しは、重い病気を見逃す原因にもなります。
市販薬(ドラッグストア)で買える?
結論として、プリンペランもナウゼリンも、市販では買えません。どちらも医療用医薬品で、処方箋がなければ薬局・ドラッグストアで購入できません。メトクロプラミドやドンペリドンを含む市販薬(一般用医薬品)も、2026年7月時点では確認できていません。将来的な状況の変化まで否定はできませんが、現時点では処方を受ける必要がある薬です。
買えない。市販の吐き気止めとの違いと、受診の目安
「では市販の吐き気止めは何が違うのか」という疑問が残ります。ドラッグストアで買える吐き気止めは、主に乗り物酔い用(抗ヒスタミン薬・抗コリン薬)や胃腸薬で、プリンペランやナウゼリンとは成分も作用も異なります。同じ「吐き気止め」でも役割が違うため、置き換えにはなりません。原因のはっきりしない吐き気が続くときは、市販薬で粘らず、早めに受診してください。吐き気の裏に、治療が必要な病気が隠れていることもあります。
こんな症状が出たらすぐ中止して受診を(レッドフラッグ)
薬を飲んでいて次のような症状が出たら、服用を中止して医療機関に相談してください。いずれも添付文書で重大な副作用として挙げられているサインです。
- 体のこわばり、手足のふるえ、目が上を向いたまま戻らない、口をもぐもぐさせる不随意運動、首や体がねじれる(錐体外路症状・遅発性ジスキネジア)
- 高熱、強い筋肉のこわばり、意識がぼんやりする、脈が速い、大量の汗(悪性症候群。とくにプリンペラン)
- けいれん、意識がもうろうとする
- 動悸、失神、脈がとぶ(QT延長・不整脈。とくにナウゼリンで心疾患・高齢者)
- じんましん、顔や唇の腫れ、息苦しさ(ショック・アナフィラキシー)
- 皮膚や白目が黄色い、強いだるさ、尿が濃い(肝機能障害・黄疸。とくにナウゼリン)
また、次のような場合は「薬より先に、吐き気の原因を調べることが必要」なサインです。激しい頭痛や意識の変化、首のこわばりを伴う/緑色や黄色の胆汁を吐く、血を吐く/黒い便や血便/強い腹痛(とくに右下腹部)/吐いて水も飲めない、尿が出ないといったときは、早めに受診してください。子どもでは、生後2か月未満、ぐったりして反応が乏しい、目が落ちくぼむ、手足が冷たい、嘔吐が続くときが受診の目安になります。
大切な点として、プリンペランの添付文書には「制吐薬は、ほかの薬による中毒や腸閉塞、脳腫瘍などによる嘔吐の症状を分かりにくくすることがある」と明記されています。吐き気を薬で抑えることで、重大な病気が隠れてしまう場合がある、ということです。だからこそ、原因のはっきりしない吐き気を薬だけでやり過ごさない姿勢が大事になります。
よくある質問
- プリンペランとナウゼリンは、どっちが強いのですか?
-
強さで選ぶ薬ではありません。どちらが向くかは、吐き気の原因や場面が、その薬の使える病気(適応症)に入っているかで決まります。自分のケースに合うかは、処方した医師や薬剤師に確認してください。
- 効果が出るまで、どれくらいかかりますか?
-
経口では、おおむね30分から1時間で血中濃度がピークに近づくのが目安です。ただし体質や状態で変わり、何分で効くと断定できるものではありません。効かないからと自己判断で飲み足さないでください。
- 食前と言われたのに、食後に飲んでしまいました。
-
慌てる必要はありません。吸収がやや落ちる可能性はありますが、飲んだこと自体が危険というわけではありません。次の回から食前に戻せば大丈夫です。心配なときは薬剤師に相談してください。
- 市販薬(ドラッグストア)で買えますか?
-
どちらも医療用医薬品で、処方箋がないと買えません。市販の吐き気止めは主に乗り物酔い用や胃腸薬で、成分も作用も異なります。原因不明の吐き気が続くときは、市販薬で粘らず受診してください。
- 妊娠中はどちらを使えますか?
-
吐き気止めを自己判断で飲まず、妊娠していることや可能性を必ず主治医に伝えてください。2025年にナウゼリンの妊婦禁忌は解除されましたが、つわりへの適応が付いたわけではありません。プリンペランもつわりは適応外です。薬は医師が判断します。
プリンペランとナウゼリンの違いと使い分けのまとめ
プリンペランとナウゼリンの違いと使い分けを、最後に整理します。2剤は「どちらが強いか」で選ぶ薬ではなく、吐き気の原因と体の状況で向き不向きが変わる薬です。
- 違いの核は血液脳関門。プリンペランは脳に入り、ナウゼリンは入りにくい
- 「どっちが効く」は強さではなく、吐き気の原因が適応症に入るかで決まる
- 中枢性の副作用はプリンペラン、QT延長・飲み合わせの注意はナウゼリンに寄る
- 子どもは坐剤・ドライシロップのあるナウゼリン、パーキンソン病もナウゼリンが選ばれやすい
- 2025年5月にナウゼリンの妊婦禁忌が解除。ただし、つわりへの適応が付いたわけではない
- どちらも市販では買えない。残薬の使い回しはしない
プリンペランとナウゼリンの最大の違いは、成分が脳に入るか入りにくいか、そして使える病気(適応症)が異なることです。「効き目が強いほうを選ぶ」のではなく、吐き気の原因に合うほうを選ぶ薬だ、と覚えておいてください。
吐き気でつらいときほど、手元にある薬でなんとかしたくなるものです。ただ、同じ吐き気でも原因は人それぞれで、向く薬も注意点も変わります。妊娠中・授乳中の人、小さな子ども、高齢の人、心臓やパーキンソン病などの持病がある人は、とくに使い分けの配慮が必要です。
自分や家族のケースで迷ったら、まずは処方を受けた医師や薬局の薬剤師に、「この吐き気にこの薬で合っているか」を確認してみてください。残った薬を自己判断で使い回さず、気になる症状や原因不明の吐き気が続くときは、早めに受診することが、いちばん確実な近道です。
参考文献
- プリンペラン錠5 添付文書(日医工株式会社、2025年4月改訂・第3版/PMDA掲載)
- プリンペラン細粒2%・シロップ0.1% 添付文書(日医工株式会社、2024年10月改訂・第2版/PMDA掲載)
- プリンペラン注射液10mg 添付文書(日医工株式会社、2026年3月改訂・第3版/PMDA掲載)
- ナウゼリンOD錠5・10/ドライシロップ1%/坐剤10・30・60 添付文書(協和キリン株式会社、2025年5月改訂・第2版/PMDA掲載)
- 厚生労働省 医薬安全対策課「ドンペリドンの『使用上の注意』の改訂について」(令和7年4月25日/令和7年度第2回 医薬品等安全対策部会安全対策調査会 資料2-1)
- 国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」(2025年8月改訂)
- 日本癌治療学会「制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版」(Mindsガイドラインライブラリ c00828)
- 「在宅医療で遭遇しやすい薬剤起因性老年症候群の原因薬の一覧」第1版(厚生労働科学研究費補助金 長寿科学政策研究事業/国立長寿医療研究センター、2024年1月)
- European Medicines Agency「European Medicines Agency recommends changes to the use of metoclopramide」(2013年7月/使用は原則最長5日、成人1日30mgまで)
- U.S. Food and Drug Administration「METOZOLV ODT(metoclopramide)ラベル」(12週を超える投与を避ける旨の記載)
- European Medicines Agency「Domperidone-containing medicines(Article 31 referral)」(1日30mg超・60歳超で心臓に対するリスクが上がるとの報告)
