SGLT2阻害薬は、腎臓で糖の再吸収を抑えて尿に糖を出す飲み薬です。国内には6成分あり、名前も用量も似ているのに、使える病気がそろっていません。
この記事では、6成分の一覧と、効能・用量・剤形・後発品がどう違うのかを扱います。あわせて「どれがいい」「強さ比較」への答え方と、休薬が必要な場面にも触れます。根拠は各社の添付文書と、日本糖尿病学会・日本腎臓病薬物療法学会の資料です。
- 国内6成分の一覧と、アプルウェイが今どうなっているか
- 1型糖尿病・心不全・腎臓で使える薬が分かれる理由
- 「どれがいい」「強さ比較」への答え方
- 後発品の適応差と、休薬が必要な場面
SGLT2阻害薬とは、尿に糖を出して血糖を下げる薬
SGLT2は「ナトリウム・グルコース共輸送体2」の略で、腎臓の入り口にあたる近位尿細管に並んでいる回収装置です。血液は腎臓でいったんろ過され、糖もまとめて尿のもとに出ていきます。その糖を血液側へ引き戻しているのがSGLT2です。
糖尿病ではこのSGLT2が過剰に働き、糖の再吸収が増えています。SGLT2阻害薬は回収装置をふさぎ、糖を尿へ出すことで血糖値を下げます。
ここが他の糖尿病薬と大きく違う点です。インスリンの分泌を増やすのでも効きを良くするのでもなく、インスリンとは無関係に糖を体外へ捨てます。そのため単剤では低血糖を起こしにくい薬です。インスリンに働きかける薬との違いは、ツイミーグとメトホルミンの違いでも整理しています。
ただし「低血糖を起こさない」わけではありません。インスリン製剤やSU薬(スルホニルウレア薬。インスリンの分泌を促す飲み薬)との併用では、重症の低血糖が報告されています。
なぜ糖尿病の薬が心臓と腎臓にも効くのか
SGLT2は糖だけでなくナトリウム(塩分)も一緒に回収しています。薬でここをふさぐと、尿細管を流れる液体の塩分濃度が上がります。
この変化を、糸球体のそばにあるマクラデンサという細胞群が感知します。すると輸入細動脈(糸球体に血液を送り込む血管)が縮み、糸球体へ流れ込む血液量が減ります。これを尿細管糸球体フィードバックと呼びます。
つまり、糸球体にかかる圧力が下がり、腎臓が無理をしてろ過し続けている状態(過剰濾過)が和らぎます。これが腎臓を守る効果の中心にある仕組みとされています。
一方、心臓への効果の仕組みはまだ明確になっていません。日本腎臓病薬物療法学会の文書も「心保護効果の機序は明確にはなっていない」と明記したうえで、利尿作用、貧血の改善、心筋のエネルギー代謝の改善、慢性炎症の改善などが複合的に関わると考えられている、としています。
国内で使えるSGLT2阻害薬6成分の一覧(2026年8月時点)
日本で承認され、単剤として販売されているSGLT2阻害薬は6成分です。すべて2014年から2015年にかけて登場した薬で、国内初はスーグラ(2014年4月)でした。
| 商品名 | 一般名 | 販売会社 | 規格と剤形 | 販売開始 |
|---|---|---|---|---|
| スーグラ | イプラグリフロジン L-プロリン | アステラス製薬 | 錠25mg、錠50mg | 2014年4月 |
| フォシーガ | ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物 | アストラゼネカ | 錠5mg、錠10mg | 2014年5月 |
| デベルザ | トホグリフロジン水和物 | 興和 | 錠20mg | 2014年5月 |
| ルセフィ | ルセオグリフロジン水和物 | 大正製薬 | 錠2.5mg、錠5mg、ODフィルム2.5mg | 錠は2014年5月、ODフィルムは2022年6月 |
| カナグル | カナグリフロジン水和物 | 田辺ファーマ | 錠100mg、OD錠100mg | 錠は2014年9月、OD錠は2024年5月 |
| ジャディアンス | エンパグリフロジン | 日本ベーリンガーインゲルハイム | 錠10mg、錠25mg | 2015年2月 |
なお、SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の配合錠が別に3剤あります(カナリア、スージャヌ、トラディアンス)。効能・効果は2型糖尿病に限られるため、この一覧には混ぜていません。
アプルウェイは今も使えるのか
SGLT2阻害薬は、以前は「6成分7製品」と数えられていました。かつてトホグリフロジンに商品名が2つあったためです。
アプルウェイ錠20mgは、デベルザと同じトホグリフロジンの商品名でした。販売会社の契約変更で興和のデベルザ錠20mgに一本化され、経過措置品目へ移りました。
経過措置期間は2022年3月31日で終了しています。PMDA(医薬品医療機器総合機構。医薬品の審査と安全対策を担う国の機関)が2024年12月17日に出した改訂通知の対象製剤一覧にも、アプルウェイは載っていません。
つまり、2026年時点で使えるトホグリフロジンの商品名はデベルザだけです。アプルウェイが並んでいる一覧は、2022年より前の情報だと考えて差し支えありません。
6成分の違いの本体は、使える病気がそろっていないこと
ここが本題です。SGLT2阻害薬の「違い」は、薬の強さの差ではありません。添付文書に書かれた効能・効果が、6成分で横並びになっていないことが違いの本体です。
| 商品名 | 2型糖尿病 | 1型糖尿病 | 慢性心不全 | 慢性腎臓病 |
|---|---|---|---|---|
| スーグラ | あり | あり | なし | なし |
| フォシーガ | あり | あり | あり | あり |
| デベルザ | あり | なし | なし | なし |
| ルセフィ | あり | なし | なし | なし |
| カナグル | あり | なし | なし | 2型糖尿病を合併する場合に限る |
| ジャディアンス | あり(錠10mg、錠25mg) | なし | あり(錠10mgのみ) | あり(錠10mgのみ) |
6成分が同じでないことがはっきりします。分かれ目になる3点を順に見ます。
1型糖尿病に使えるのはスーグラとフォシーガの2剤だけ
1型糖尿病の効能を持つのはスーグラとフォシーガの2剤です。残る4剤の添付文書には「本剤は2型糖尿病と診断された患者に対してのみ使用し、1型糖尿病の患者には投与をしないこと」と明記されています。
2剤とも条件は厳しく、インスリン製剤との併用が前提で代替にはなりません。インスリンを中止すると急激な高血糖やケトアシドーシスが起こるおそれがあります。
日本糖尿病学会のRecommendationも、1型糖尿病への使用には一定のリスクがともなうとし、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもとで検討すべきものと位置づけています。
ここは海外の情報を持ち込むと誤ります。欧州では1型糖尿病への使用許可がいったん下りたものの取り下げとなり、米国では承認が見送られました。現在、欧米で1型糖尿病に使えるSGLT2阻害薬はなく、日本固有の状況です。
慢性心不全に使えるのはフォシーガとジャディアンス10mgの2剤だけ
慢性心不全の効能を持つのは、フォシーガとジャディアンス錠10mgの2剤です。どちらも「ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」という限定がついています。
糖尿病がないのに糖尿病の薬を出された、という戸惑いはこの効能から生まれます。心不全や慢性腎臓病の治療として循環器内科や腎臓内科から処方される場合、承認された適応の範囲内であり、適応外の使い方ではありません。
つまり、病名が糖尿病でなくても処方されます。理由を聞かれたら、血糖を下げるためではなく心臓や腎臓を守る目的だと説明します。
腎臓の適応は3剤あるが、カナグルだけ条件がつく
腎臓に関する効能を持つのはフォシーガ、ジャディアンス錠10mg、カナグルの3剤です。ただし中身がそろっていません。
フォシーガとジャディアンス錠10mgの効能は「慢性腎臓病」で、糖尿病の有無を問いません。これに対しカナグルの効能は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」です。
つまりカナグルは、糖尿病のない慢性腎臓病には使えません。IgA腎症のように糖尿病を合併していない腎疾患では、選べるのはフォシーガかジャディアンス錠10mgになります。
腎機能の目安も3剤で違います。添付文書では、eGFR(推算糸球体濾過量。腎臓が1分間にどれだけ血液をろ過できているかの推定値)が、フォシーガは25mL/min/1.73m²未満、ジャディアンス錠10mgは20mL/min/1.73m²未満のときに、投与の必要性を慎重に判断する扱いです。
カナグルだけは規定が一段強く、eGFRが30mL/min/1.73m²未満の患者には新規に投与しないこと、とされています。投与中に30mL/min/1.73m²未満へ低下した場合は、投与継続の必要性を慎重に判断します。
なお3剤とも「末期腎不全又は透析施行中の患者を除く」という限定がついています。血糖を下げる目的では6成分すべてに共通の記載があり、高度(重度)の腎機能障害や透析中の末期腎不全では血糖低下作用が期待できないため投与しない、とされています。
用量と飲み方の違い(いつ飲むのか、増やせるのか)
効能の次に差が出るのが用法・用量です。増量できるものとできないもの、食事との時点指定があるものとないものに分かれます。
| 商品名 | 1日1回の用量と増量 | 食事の時点指定 |
|---|---|---|
| スーグラ | 50mgから開始し、100mgまで増量できる | 朝食前又は朝食後 |
| フォシーガ | 糖尿病では5mgから開始し10mgへ増量できる。慢性心不全と慢性腎臓病では10mg | 記載なし |
| デベルザ | 20mg(増量の規定なし) | 朝食前又は朝食後 |
| ルセフィ | 2.5mgから開始し、5mgまで増量できる | 朝食前又は朝食後 |
| カナグル | 100mg(増量の規定なし) | 朝食前又は朝食後 |
| ジャディアンス | 2型糖尿病では10mgから開始し25mgへ増量できる。慢性心不全と慢性腎臓病では10mg | 朝食前又は朝食後 |
デベルザとカナグルには増量の規定がなく、用量調整の幅がありません。効果が足りないときに用量で押す手が使えません。
ジャディアンスには釘が刺してあります。用法及び用量に関連する注意に「慢性心不全及び慢性腎臓病に対して本剤10mg1日1回を超える用量の有効性は確認されていないため、本剤10mgを上回る有効性を期待して本剤25mgを投与しないこと」と書かれています。
飲むタイミングは薬によって違う
「いつ飲むのが正しいのか」への答えは薬によって変わります。スーグラ、デベルザ、ルセフィ、カナグル、ジャディアンスの5剤は「朝食前又は朝食後」と時点が指定されています。
一方、フォシーガの用法には食事に関する時点指定の記載がありません。慢性心不全や慢性腎臓病の目的では、朝以外の時間帯で指示が出ることもあります。
ただし、記載がないことと自由に決めてよいことは別です。服用時刻は処方医の指示に従います。
飲み忘れたときの対応は、製剤ごとの公的な指示が示されていません。2回分をまとめて飲まないことを伝え、主治医または薬剤師に確認してもらいます。
飲み込みにくい人や小児に選べるものはあるか
通常錠以外の剤形を持つのは2成分だけです。嚥下機能が落ちた高齢者や在宅の患者さんでは、ここが選択の理由になります。
カナグルにはOD錠100mg(口腔内崩壊錠。口の中で溶ける錠剤)が2024年5月に加わりました。水なしでも水ありでも、普通錠との生物学的同等性が確認されています。
ルセフィにはODフィルム2.5mgがあります。2022年6月発売で、SGLT2阻害薬では唯一のフィルム剤です。舌の上にのせて唾液を浸潤させると崩壊するため、水なしでも水ありでも服用できます。
小児については、2026年3月23日にルセフィが用法を変更し、「通常、成人及び10歳以上の小児には」という書きぶりになりました。国内のSGLT2阻害薬で小児の用法を持つのは、現時点でルセフィだけです。
他の5剤は、小児等を対象とした臨床試験を実施していない旨が添付文書に記載されています。
「どれがいい」「強さ比較」にどう答えるか
最も多いのが「結局どれがいいのか」「強さはどう違うのか」という問いです。ただし「強さ」という言葉のままでは答えが出ません。
血糖を下げる強さ、心臓と腎臓を守る強さ、体重の減り方。この3つは別の話で、分かっていることも違います。順に見ます。
血糖を下げる強さは成分間で順位づけできない
クラス全体としての効果は示されています。2型糖尿病患者を対象としたメタアナリシス(複数の研究結果を統合して解析する手法)では、HbA1c(過去1〜2カ月の血糖の平均を映す指標)が0.69%減少し、空腹時血糖が28.1mg/dL低下することが報告されています。
ただしこれはクラス全体の値です。6成分を同じ条件で直接比較した国内のデータは確認できていないため、血糖降下作用の強さで順位はつけられません。
半減期やSGLT2選択性を並べた比較表も見かけますが、各社のデータは試験条件が違うため、横並びにしても比較になっていません。
同一の試験系で比べた数値としては、デベルザのインタビューフォーム(添付文書を補う詳細資料)に載っている表があります。ここでは6成分すべてが同じ条件で並んでいます。
SGLT1に対する選択性は、トホグリフロジン2,900倍、ルセオグリフロジン1,600倍、エンパグリフロジン1,100倍、イプラグリフロジン860倍、ダパグリフロジン610倍、カナグリフロジン290倍と記載されています。
ただし、選択性が高いほど臨床成績が優れるという裏づけは確認できていません。つまり薬の性格を示す数字で、優劣の根拠にはなりません。
心臓と腎臓を守る効果はクラスエフェクトと考えられている
日本腎臓病薬物療法学会のワーキンググループがまとめた文書は「SGLT2阻害薬の効果はクラスエフェクトと考えてよいか」という問いに対し、現時点では心保護効果や腎保護効果はクラスエフェクトと考えられる、と回答しています。
クラスエフェクトとは、個々の成分の違いではなく薬のグループ全体に共通して現れる効果のことです。根拠に挙げられているのは、SGLT2阻害薬を処方された約2万5000人の糖尿病症例を対象とした国内の大規模リアルワールドデータです。
この解析では、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害薬の間で、心不全・心筋梗塞・狭心症・脳卒中・心房細動の発症リスクがいずれも同等でした。
ただし留保が要ります。この文書自体が冒頭で「ガイドライン作成手法を用いていないため、各CQに対する推奨度ならびにエビデンスレベルについては言及できていない」と明記しています。確定した推奨ではなく、学会ワーキンググループの見解として受け取るのが正確です。
推奨度がはっきり示されているのは腎症の領域です。日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」は、腎症の進行抑制に有効かという設問(CQ9-4)に対し「アルブミン尿を有する2型糖尿病患者の腎症の進行抑制にSGLT2阻害薬が推奨される」とし、推奨グレードA(最も強い推奨)としています。アルブミン尿は、尿にたんぱくの一種が漏れている状態を指します。
つまり「どれがいい」の答えは、成分の強さではありません。どの適応を取っているか、そして併存疾患が何かで決まるというのが、現時点で最も正確な答え方です。
体重や血圧はどうか(減量の効能は承認されていない)
クラス共通の作用として、体重減少と血圧低下がみられます。糖を尿に捨てることでカロリーが失われ、同時に水分とナトリウムも出ていくためです。
ただし添付文書での扱いは効能ではありません。「本剤投与による体重減少が報告されているため、過度の体重減少に注意すること」と、注意すべき事象として書かれています。
承認されている効能・効果の線を先に引きます。6成分いずれの添付文書にも、肥満症や減量の効能・効果はありません。認められているのは2型糖尿病、1型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病(成分により異なる)です。
したがって痩身を目的とした使用は適応外使用にあたり、保険は適用されず自由診療になります。この目的での有効性や安全性を示す一次・公的な情報は確認できていません。判断するのは処方医であり、患者さんが自分で選ぶものではありません。
なお「どれが一番痩せるか」という比較も、6成分を横並びにした一次データがないため答えられません。
フォシーガとジャディアンスはどう違うのか
2剤比較で最もよく調べられるのがこの組み合わせです。重なる部分が大きい2剤ですが、分かれ目は4つあります。
- 1型糖尿病の効能があるのはフォシーガだけ
- ジャディアンスは規格で適応が分かれ、錠25mgに慢性心不全と慢性腎臓病の効能はない
- 腎機能の目安が違う(フォシーガ25、ジャディアンス20 mL/min/1.73m²)
- 食事の時点指定はジャディアンスにあり、フォシーガには記載がない
逆に、2型糖尿病・慢性心不全・慢性腎臓病の3つはどちらも効能を持ちます。この範囲では、どちらが選ばれても不思議ではありません。
フォシーガの5mgと10mgの違いも同じ構造です。慢性心不全と慢性腎臓病では10mgが用量として定められ、5mgは2型糖尿病と1型糖尿病の開始用量にあたります。
つまり、同じ商品名でも規格が変われば意味が変わります。錠剤の数字だけを見て「量が多いほど強い薬」と受け取らないよう伝えておくと、誤解が減ります。
ジェネリックはあるのか、先発品と何が違うのか
本稿の執筆時点で後発品を確認できるのは、ダパグリフロジン(フォシーガの後発品)だけです。ダパグリフロジン錠5mg「サワイ」などが該当します。
エンパグリフロジンやカナグリフロジンの後発品は確認できていません。「まだ存在しない」と断定はできないため、最新の収載状況を確かめてください。
後発品の効能・効果は「2型糖尿病」だけ
ここが実務でいちばん大きい論点です。ダパグリフロジン錠5mg「サワイ」の効能又は効果は「2型糖尿病」のみで、薬効分類名も「選択的SGLT2阻害剤、2型糖尿病治療剤」となっています。
先発品のフォシーガが持つ1型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病は入っていません。同じ成分・同じ規格でも、承認されている効能の範囲が違います。
問題は、処方箋に病名が書かれないことです。慢性心不全や慢性腎臓病でフォシーガ錠10mgを飲んでいる人に、薬局が「ジェネリックがあります」と案内する場面が構造的に起こります。
保険上どう扱われるかは、地域や審査機関、症例によって変わります。ここで「変更できる」「変更できない」と言い切ることはできません。目的によっては単純に変更できない場合がある、というのが正確な言い方です。
患者さんには、費用の相談をしてよいこと、ただし何の目的で飲んでいる薬なのかを薬剤師に伝えてもらうことを添えます。判断するのは処方医と薬剤師です。
共通する副作用と、休薬が必要な場面
副作用はクラス共通で考えます。添付文書の「重大な副作用」に挙がっているのは、低血糖、腎盂腎炎、外陰部及び会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)、敗血症、脱水、ケトアシドーシスです。
頻度の数字を成分間で比べるのは避けます。集計方法や併用薬の条件が製剤ごとに違うためです。
高齢者では脱水への注意が変わる
特に注意が要るのが脱水です。利尿作用で尿量が増えるため、高齢者や利尿薬の併用でリスクが上がります。高齢者は口渇の自覚が遅れることも添付文書に記載されています。
日本糖尿病学会のRecommendationは、75歳以上の高齢者、あるいは65歳から74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL(日常生活動作)の低下など)のある場合には慎重に投与する、としています。
すぐに受診すべき症状
頻度は高くありませんが進行が速く、対応が遅れると重篤になります。必ず伝えておきます。
悪心・嘔吐、食欲減退、腹痛、過度な口渇、倦怠感、呼吸困難、意識障害。ケトアシドーシスの可能性があり、血糖値が高くなくても起こります(正常血糖ケトアシドーシス)。ただちに受診が必要です。
外陰部・会陰部・肛門周囲の発赤、腫脹、疼痛に発熱をともなう場合。フルニエ壊疽の可能性があり、進行が速い病態です。ためらわずに受診してください。
眼の結膜、口唇、外陰部といった粘膜の発赤やびらんをともなう皮疹。重症薬疹の可能性があるため、速やかに皮膚科へつなぎます。
ケトアシドーシスについては、2024年12月17日にPMDAが全製剤の使用上の注意の改訂を指示しています。投与を中止したあとも、血漿中半減期から予想されるより長く尿中への糖の排泄とケトアシドーシスが続いた症例が報告されているためです。
やめたから安心とは限りません。中止後しばらくは同じ症状に注意します。
シックデイと手術前の休薬
体調を崩したときと手術の前は、いったん休薬する判断が必要になります。日本糖尿病学会の適正使用に関するRecommendationに記載があります。
- 発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、食思不振で食事が十分摂れないとき(シックデイ)には必ず休薬する
- 手術が予定されている場合には、術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する
- 緊急手術では休薬は必須ではないが、再開の考え方は予定手術と同様とする
歯科処置や内視鏡検査でも絶食になることがあります。服用していることは、予定が決まった時点で申告してもらいます。
ここで書き分けが必要なのが心不全の患者さんです。糖尿病では休薬が原則ですが、心不全の治療として飲んでいる場合、自己判断でやめると心不全が悪化するおそれがあります。
日本腎臓病薬物療法学会の文書も、心不全患者で休薬する場合は、増悪時も含めて必要に応じて循環器専門医への紹介を考慮するとしています。休薬の可否は主治医に確認してもらいます。
よくある質問
- 尿に糖が出続けて体に悪くないのですか
-
尿糖は薬の作用そのもので、腎臓が傷んで漏れているわけではありません。ただし糖が残ると性器感染が起こりやすくなります。陰部を清潔に保ち、こまめな水分補給を続けてください。
- 妊娠中や授乳中でも飲めますか
-
添付文書では、妊婦または妊娠の可能性がある女性には投与せず、インスリン製剤等を使用するとされています。授乳も避けることが望ましいとされています。妊娠を希望する場合は主治医へ相談してください。
- 皮疹が出たら別のSGLT2阻害薬に変えれば大丈夫ですか
-
変更しても皮疹が生じる可能性があります。日本糖尿病学会のRecommendationは、SGLT2阻害薬以外の薬剤への変更を考慮するとしています。判断は処方医が行います。
- 尿路感染や性器感染は必ず起こりますか
-
性器感染症は大規模試験のメタアナリシスで有意な増加が示されています。一方、尿路感染症では有意な増加は示されていません。分けて考え、症状が出たら早めに受診してもらいます。
- 自己判断でやめてもよいですか
-
勧められません。特に慢性心不全や慢性腎臓病の治療として飲んでいる場合、中止は病状に直結します。中止後もケトアシドーシスが遷延した報告があるため、主治医に相談してください。
SGLT2阻害薬の一覧と違いのまとめ
- 国内で使える単剤は6成分。トホグリフロジンの商品名はデベルザのみで、アプルウェイは2022年3月31日に経過措置が終了している
- 違いの本体は効能・効果。1型糖尿病はスーグラとフォシーガ、慢性心不全はフォシーガとジャディアンス錠10mgのみ
- 腎臓の効能は3剤あるが、カナグルは「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」に限られる
- 心臓と腎臓を守る効果はクラスエフェクトと考えられており、成分の強弱で選ばれているわけではない
- 後発品を確認できるのはダパグリフロジンのみで、効能・効果は2型糖尿病だけ
- シックデイは休薬、予定手術は術前3日前から休薬。ただし心不全で服用中は自己判断で休薬しない
結論はひとつです。SGLT2阻害薬の使い分けは、成分の優劣ではなく併存疾患と、その疾患に効能を持っているかどうかで決まっています。だから一覧表は、効能の欄を見ないと役に立ちません。
患者さんから「隣の人と薬が違う」と聞かれたときは、心臓や腎臓の状態が違えば選ばれる薬も変わる、と説明します。劣った薬を出されたわけではありません。
確認する順番も決まっています。まず何の目的で処方されているか(血糖か、心臓か、腎臓か)。次にeGFRがどのあたりか。そして1型糖尿病かどうか、高齢で脱水を起こしやすくないか。ここまで押さえれば、選べる薬はかなり絞り込めます。
現場で気をつけたいのは、ジェネリックへの変更と休薬です。どちらも「同じ成分だから同じ」「体調が悪いからやめる」という発想が通りません。目的を確認してから動く、これに尽きます。
参考文献
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「SGLT2阻害薬含有製剤の『使用上の注意』の改訂について」(2024年12月17日)
- 日本糖尿病学会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2022年7月26日改訂)
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第9章 糖尿病性腎症(2024年)
- 日本腎臓病薬物療法学会 CKD患者のSGLT2阻害薬至適使用推進ワーキンググループ「服薬指導に役立つBQ・CQ」(2023年10月)
- 興和「アプルウェイ錠20mgの経過措置品目移行について」(2021年9月)
- スーグラ錠25mg 添付文書(アステラス製薬、2025年8月改訂・第5版/PMDA掲載)
- フォシーガ錠5mg 添付文書(アストラゼネカ、2025年4月改訂・第7版/PMDA掲載)
- デベルザ錠20mg 添付文書(興和、2024年12月改訂・第2版/PMDA掲載)
- ルセフィ錠2.5mg/ルセフィODフィルム2.5mg 添付文書(大正製薬、2026年3月改訂・第3版/PMDA掲載)
- カナグル錠100mg 添付文書(田辺ファーマ、2025年12月改訂・第7版/PMDA掲載)
- ジャディアンス錠10mg 添付文書(日本ベーリンガーインゲルハイム、2025年9月改訂・第8版/PMDA掲載)
- ダパグリフロジン錠5mg「サワイ」添付文書(沢井製薬、2025年8月作成・第1版/PMDA掲載)
- デベルザ錠20mg 医薬品インタビューフォーム(興和、2024年12月改訂・第15版)
- カナグル錠100mg 医薬品インタビューフォーム(田辺ファーマ、2025年12月改訂・第16版)
- ルセフィ錠2.5mg/錠5mg/ODフィルム2.5mg 医薬品インタビューフォーム(大正製薬、2026年3月改訂・第20版)
- 大正製薬「SGLT2阻害剤『ルセフィ』の小児に対する用法及び用量追加の承認事項一部変更承認取得のお知らせ」(2026年3月23日)
